第19話 閉ざされた世界の外にあるのは希望なのか?
紅炎とソノイは空を飛んでいた。
眼下に廃墟と点在する森、荒野と誰もいなくなった平野が広がっている。
雲一つない、大きな世界。そこには見たこともないものが浮かんでいた。あれは過去の大戦で放置された浮き砲台の残骸だ。
『エー右手に見えますのはー』
「ずいぶん呑気そうじゃないの」
細かい飛翔体がソノイたちに体当たりを繰り返してくる中で、ソノイは紅炎に毒づいた。
『あれがうちらのマザーシップだったって知ってるからね。それにここはあのグレイヴと来た事あるし。あとあっちにあるあれね、インビジブルっていうの』
遠くに浮き砲台の一つが、千切れた白い雲を連れて空を漂っている。
動いている気配はない。
「あれがインビジブル?」
『違う違う、インビジブルはあっちの小さい方。手前のでっかいのがマラグィドールよ。あたしたちのマザーシップはマラグィドールのほうね。あとその向こうにあるのが、この世界のしょーちょーのタワー』
「どこに続いてるの?」
『争いのないセカイ』
シルフィードは大気にエンジン音を響かせながら、青い翼の先端に小さな飛行機雲を引かせて螺旋を切った。
『ここらの地図なら任せてヨ!』
「みんな生きてるの?」
『仮死状態だよ、わたしたちが帰ってくるのを待ってるんだってさ。グレイヴのハゲがいってた』
「待ってる」
『うちらの目標はあそこね!』
眼下の崖の上に、小さな集落のようなものをソノイは見た。
「あそこが今回の目標?」
『わたしたちの前線基地だったはずの場所よ。最近は定時連絡が無くなっちゃったんで、あのオッサンも気にしてたってワケ』
「とにかく、急いで降りてみた方がいいわね」
ソノイはスティックを操作すると、エンジン出力を落として着陸の態勢を整えた。
紅炎が呆れた声をだす。
『ほらやっぱり。言うと思ってたよ、見るだけでいいっていわれてたのに』
「気になるじゃない。こんなところに、置いてきぼりにされた人たちがさ!」
トカゲ型のバーヴァリアンがちろりと舌を覗かせ、空の彼方から降りてきた機械仕掛けの人型を見あげる。
地上には岩肌と、スクラップ化した戦闘車両の残骸だけ。死体はない。
バーヴァリアンをけちらしてX―R九九シルフィードが強行着陸を試みると、前線基地はものの見事に無人と化していた。
「やっぱり、誰もいない」
砂煙を上げながら脚を延ばし、シルフィードは体勢を整えて武器を取り出した。
携行型のマルチガンにブレードソードを内臓した、X―R九九シルフィード専用の武器だ。
突然現れた人型のシルフィードに恐れをなして、低級バーヴァリアンのトカゲは岩陰に隠れてしまう。
ソノイはふと思った。
「あのさ。前々から思ってたんだけど」
『なにさ』
「背、低くない?」
シルフィードは二脚体勢になると、周囲警戒を保ちながらゆっくりと基地内を歩き出した。
交互に脚が動いて、しっかりと大地を踏みしめる。ファイターのノーズカウルが前方を向いてセンサーを開き、逆間接型とも言われる脚がくの字型で本体を前へ移動させる。
「……これが最近の流行なわけ?」
『心配ご無用! ほら、エート、これでも充分かっこいいじゃない?』
シルフィードは歩行移動を終わらせると、ゆっくり体勢をあげた。航空機に脚が付いて伸びた形の、半人型形態だ。
『足があって歩くんだから、他の人ともだいたいおんなじ形だよ』
「気になるわこの形」
煙を吹く味方機の残骸。足下には無数の抜け殻、中身のなくなったアーマーだけが転がっている。
近くの岩陰からはバーヴァリアンたちがこちらを覗き、燃え残った燃料が白い蒸気を漂わせていた。
「ここ、味方の基地なんだよね?」
『そのはずよ』
「なのになぜ?」
戦闘で破壊された割には、綺麗だ。攻撃された形跡がどこにもない。ただ、内側から燃え上がって破壊された形跡だけがある。
「誰かいる」
『えっ?』
半壊したゲート、格納庫の向こうで何かが動く。サークルスキャンセンサーに赤い光点が示され、ミサイル警報が機内に響いた。
シルフィードは半歩退いて翼を開くと、いったんエンジンを吹かして距離をとる。
赤い眼光。無骨で四角く直線的なフォルム。中から姿を現したのは、味方のトマホークだった。
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