第18話 生への妄執

艦の外側から内部へと侵入を果たした生きる獣、カートとバーヴァリアンたちは勢いよく艦全体を把握していった。

戦線の広がり方の速さは尋常ではなく、まるで敵組織が一つの生き物のように無駄なく通路の四方を覆い尽くしていく。

それでも艦には味方の兵たちが多く配置されていて、練度と士気、数、それから追い詰められている者独特の勇敢さがカートたちの進撃を防いでいた。

追い詰めるものと、逆襲を企むものの戦いが続く。

艦を自身の母艦として過ごしてきていたアンビギューターにとって、負け続けの防衛戦は決して不利ではない。

「いい戦いだ」

部隊の再配置を艦橋でモニターしていたグレイブは、画面越しにユーヤーたちの奮闘をみていた。

一人ずつ死んでいくアンビギューターに、どこからともなく現れては戦い始める無言のカートたちを見て感動した。

興奮もした。

「戦え! そして死ね! すべては負けを望む人類のためだ!」

アンビギューターの決死の戦いを艦内で見ているグレイブにとって、勇敢な兵士と最強の捨て駒でもあるカートの肉弾戦は見ていて快感を覚えるものだった。

そして、自身の使命をまっとうするために人知れず戦う己の存在感も見いだしていた。

「すべては人類が決めた事だ。壁に籠もり、死を許容し、自ら破滅を望んでいる俺たちの指揮官が望む未来は破滅だ。軍人の本分は、死んでも使命を果たすことだ」

グレイブは手に持つ携行用記録装置の蓋を開け、そっとモニター脇の差し込み口へとソケットを入れ込んだ。

『サー、自沈プログラムガ発見サレマシタ』

「指示があるまで実行を待て。おまえは命令を聞けばいい」

『イエッサー』

古い旧式AIがグレイブに答え、周りのアンビギューターもこの不穏な会話にまったく興味を示さない。

「軍人の基本は命令に忠実、そして、命令を実行することだ。それ以外の思考などいらん、イレギュラーは全力で排除せねばならん」

『サー、敵ガ艦内カラ敗走ヲ始メマシタ』

「撤退? ふん、らしくないな。どこに逃げる気だ?」

三次元艦内マーカーの中に、赤と青の点滅がいくつも連なっている場所がある。確かに敵の赤マーカーが移動を開始しているが、その先には行き止まりしかない。

先ほどまで赤い点で満たされていたエンジンルームは、今では青色が集まっていた。

他にも縦と横に入り組んだ艦内通路の各所には組織だって反抗を始めた、アンビギューターの小隊が配置されている。

「いい戦いだ! カートもアンビギューターも似たような動きをしてくれる!」

『艦外部ニ、待機中ト思ワレル複数ノ中型カートヲ確認シマシタ』

「奴ら味方ごとこの艦を、自分たちを沈める気だな! だがそれもいい」

ソノイが艦を出て行った今、艦内には自分と自分の命令に忠実な駒しかいない。

艦橋、空調施設から黄色いよだれのようなものが垂れてくる。それから細い触手のようなものが伸びてくると、計器を操作するアンビギューターやグレイブたちの頭の上でゆっくりと形を変えた。

グレイブは腰の拳銃をとって天井のカートを撃った。

「人類の未来を手助けする、俺たちの使命の邪魔をする者はたとえ誰であろうとも許しはしない! 邪魔をする奴らはクソッタレな、人類の敵だ!」

グレイヴは迷い一つ無い澄んだ眼をして敵を振り返り、それからなんの疑問も持たずに自殺プログラムを遂行中の部下たちを見つめた。

仮面をかぶり冷静に、何も考えずに指示を待つ部下たちに、グレイブは笑った。

「みんなよく聞け! これから俺は、艦の外側に張り付いている臆病者のカートどもを皆殺しにする! そのためにモビオスーツを起動しこの艦から出る! 今から生きてるパイロットどもにカーゴルームに集まるよう指示しろ! 残った貴様らは、艦と共に死ぬまで戦え!」

「イエッサー」

『警告、十二時ノ方向ニ、小型ノ未確認機ヲ発見!』

「未確認機だと?」

グレイブは腕時計を見た。

イレギュラーか? どこからやってきた?

それからマーカーデスクを見る。

「未確認機だと?!」

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