第12話 空飛ぶ電子妖精

『ボス級のやつがそっちに向かってる、任せるぞ!』

『いい? 今のが大佐からのメッセージっ。でもって、こっちのが下にいるあいつらのメッセージログでー』

「ちょ、ちょっと! 私たち、こんなところでこんなことしてていいわけ!?」

『あんた人の話聞かない人なのねー』

相変わらず生意気そうな、ホログラフィの電子の少女は腕を組んでむっとした。

『あたしが聞けって言ってんだからすなおに聞きなさいよコパイッ!』

「戦場って言ったら、戦うんでしょう!? ここ戦場でしょ!?」 

『だーからあんたがまともに戦えるようにここで教えてあげてるんでしょーがーッ』

紅炎はホログラフィの中で、円錐状の光りの帯の中で所狭そうに腕を振りあげる。

『あんたはあたしのなに!』

「デートって言うから男の子かと思ったじゃない」

『あ、あんですとー!? やいっ、デコハゲっ!』

紅炎がホログラフィの中で手を伸ばし、シートに座るソノイを指さした。

「でこ!?」

『デコハゲっ! 今からあんたは、あたしの言う事を聞きなさいっ、分かった?』

紅炎とソノイが言い合いをしている間にも、戦況は次々に移り変わっていく。

シルフィードはエンジンを高鳴りさせ翼を動かし、機体チェックを終わらせる。


グレイブのモビオスーツが腕を動かすと、翼とブースターを開き一気に基地の外へと飛んでいった。

敵の数は三体。

基地から新らしく出てきた白兵用のゴーゴンが、ミサイルを撃って動作を止める。

撃たれた巨大なカートはなんなくミサイルを跳ね返し、代わりにゴーゴンに向けて足下の石を投げ飛ばした。

整備不良のゴーゴン機が石にやられて倒れ、地上のクローンたちが物陰に隠れる。


「誰も戦える人がいないなら、私たちが戦うしかないじゃない!」

『ちょーっと待った! 死ぬ気!? あんた死ぬ気なの!?』

「さっきからコパイだとか、あんたは許可するだけだとか言ってたけれど私はこれでも軍人なのよ! 分かる?」

『あんた仲良くしなさいって、あのデコハゲにも言われてたじゃない!』

「仲良くしてあげるわよー実践的にね! えーと、このボタンは?」

ソノイが操縦桿の横、レバー脇のボタンを押すとシルフィードはゆっくりと、前側へ傾いていった。

変形中の警告がディスプレイに表示され、外を移すシルフィードの画面がゆっくりと移動していく。

『こちら地上部隊! 上空のモビオスーツ何をやっている!』

『ほら! ほらほらほらッ! あンたどこで何やってるのさ!』

「いちいち口で教わってできるもんじゃないわー!」

高機動可変型モビオスーツシルフィードはメインブースター噴射剤の吐き出す角度を、トリムマイナス九十から十五まで上げる。脚のサブブースターを使用しながら姿勢を前傾させ、水平位置だけを維持しゆっくりと地上へ脚を伸ばす。


着地完了。シルフィードのセンサーアイが機体上部から外を覗き、迫る敵機を捉えて青く光った。

「なにこれ! なにこれ!」

『あんたってば。人の話は聞かなきゃダメだってお母さんに言われなかったの、ソノイちゃん?』

「まずはこっちから攻めてやるわよ!」

『人の話は聞いてちょうだいアンタっ!』

変形を完了し半人型モードへと切り替わったシルフィードは、翼を広げブースターを吹かし空に浮く。

グレイブのトマホークがブースターを開き基地正門を離れたところで、カートがこちらの存在に気付いた。

地上のクローン兵たちはカートの突撃部隊に手一杯で前進できず、ユーヤーはまだ自分のモビオスーツに乗りこんでいない。

地平線の向こう側で、新たな閃光と煙が昇り始めた。

「先手必勝よ!」

『だから人の話を聞けーっ!!』

力を得た紫のシルフィードは、専用のバルカン砲を取り出すと一気にブーストを開いた。

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