第9話 小道の先へ
イントゥリゲート基地南端。基地の外と内側を繋ぐゲート脇の側溝。
ソノイたちは味方と敵が撃ち合う、コンクリート製ゲートブリッジ脇まできていた。
「撃て撃て! 撃ちまくれ!」
「突っ込んでくる! 火線を絶やすな!」
「馬鹿ヤロウどこ狙ってやがる!!」
クローンたちの罵声と罵り合いに、それの上にかぶせるように獣の甲高い奇声が聞こえてくる。
ブリッジの向こう側は敵だらけだ。ソノイはガンを構えながらユーヤーを振り返った。
「どうするの?」
「はしごはあそこです」
ユーヤーが後ろから追いかけてくるカートを撃ち抜き、ソノイに答えた。
カートは厚い鱗を前に構え、ユーヤーの弾をはじき返す。
甲高い独特の声で鳴いた。
しばらくすると一体のパワードスーツが基地内からやってきて、廉価ガトリング砲を構えて手足を固定する。
人の能力を機械とバイオセンサーを駆使して最大限に拡張し、兵器として活用するモビオスーツ。
タービンエンジンを唸らせ全身を微振動させる主力戦闘兵器、セイバーロードはバルカン砲を猛回転させ空薬莢を四方に撒いた。
『射線に注意しろ』
真上でガトリング砲がうなり声をあげ、臭い不燃性ガスが上から吐きつけられる。
ソノイは耳を塞ぎ目をつぶって顔を下に向けた。
ダーン! とユーヤーが銃弾を撃つ。
カートは側溝の中、側溝の外に大量にいる。
はしごは基地の外側に向かって伸びていた。
「基地の外に出るの!?」
「それしかこの掘りを出られる道はありません」
ダーン! と二発目の銃弾をユーヤーが撃つ。カートは長い鍵爪と腕を組み合わせ、ユーヤーの撃つ弾を弾いた。
「外は敵だらけよ!」
「ここにいたら切り刻まれます」
「誰かに引っ張ってもらえないの?」
ダーン! と三発目の銃弾を撃って、ユーヤーはソノイを振り向いた。
「カートの基地侵入を許してしまいます。まずはあれをなんとかしないと」
カートは両腕を交差させ弾を弾くようにして構え、ゆっくり頭をもたげると緑の頭部に一つしかない真っ赤な目玉を見開き大きく瞬いた。
「両腕の鱗が厚い、この辺にはいないタイプだ」
「撃てないの?」
「近づいて撃つか、鱗のない腹か目を狙わないと」
「もっと大口径の火力で吹き飛ばしてもらったら?」
下から覗き上げてソノイが提案した時、ブリッジ上に構えるセイバーロードがゆっくりと前進を始めた。
ゲート脇に置かれた対地トーチカが正面に火力を集中させる。
橋上で何かが大爆発し、どこかのクローンが「自爆兵だ!」と叫んで無線が途切れる。
『味方部隊、正門南東部五キロの地点に出現! 敵に攻撃されています!』
「なるほど、部隊を基地に入れさせないために奇襲をかけてきたんだな」
ユーヤーは冷静に戦況を分析しながら、四発目の銃弾をカートたちに向けて撃った。
ソノイもその隣に立って銃を構える。
『撃たないで! その銃は人間が撃つには耐えられない』
「こんなところで、お荷物なんて言われたくないわ! 私はこれでも軍人よ!」
ソノイはそう言って銃を肩に担ぎ、引き金を引いて撃った。
バズーカ並みのクローンガンはすぐに反応して、銃口の先端で白い光を迸らせる。
鉛弾の放たれる振動。空気を切り裂き渦を巻く衝撃波。
ソノイは銃を撃ったと思ったら、ひっくり返って掘りの壁際に叩きつけられていた。
『その銃は人間では撃てません、ソノイ少尉』
ユーヤーは難なく、クローンガンを数発発砲してカートたちを牽制している。
ブリッジ上のセイバーロードが微速前進を続け、歩兵小隊が味方部隊救助のための緊急出動をはじめていた。
崖の上から他のクローンがロープを投げ入れ、ソノイの上に垂らしてきた。
『さあ少尉! 今の内にこちらへ!』
ソノイは言われたとおりにロープにしがみつき、ぐっと力を入れて掘りの上へと登りだす。
ブリッジ上ではセイバーロードが前に進んだためか敵の攻勢は弱まっており、掘りの下ではユーヤーがクローンガンを連射して足下の敵を追い払っている。
ソノイは自分のクローンガンを投げ捨てると、ユーヤーを振り返った。
「あなたも早くこっちへ!」
「いいえソノイ少尉、私はあなたに基地の案内をするよう命令されました。地獄へ案内するわけにはいかない」
ユーヤーは振り返りもせず銃を撃ち続け、近づくカートの足を止めた。
「死ぬ気!?」
「友軍の支援があります」
「ソノイ少尉! 司令のグレイブ大佐がお呼びです、着いてきてください!」
後ろから声をかけてきたクローン一般兵に振り返り、ソノイはユーヤーをもう一度見て掘りの下に向かって叫んだ。
「死なないでね!」
「は?」
「すぐ助けに戻るから! あとこれも!」
ソノイは足下のクローンガンを掘りの中へ投げ入れると、腰につけていた拳銃も一緒にユーヤーに向かって投げ渡した。
「これも使っていいわ! その代わりあとで返して!」
「……了解」
ユーヤーはソノイに渡されたガンと拳銃を受け取り、ソノイもクローン兵と一緒に司令部へ向けて走った。
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