第4話 この世界への道のり
「ソノイ・オーシカ少尉ですか」
静かに呼吸器を鳴らしながら、無骨な軍用車両に乗ってやってきたのはどう見ても試験管で生まれたタイプの、人造人間だった。
これは人間じゃない、アンビギューターだ。
装甲服でガチガチに身をかためた人類史上最強の兵士集団の一人が、ゆっくりと車上からソノイを覗く。
ソノイは黙って男のジープに荷物を投げ入れると、ドアのない助手席に乗り込んでベルトを締めた。
「この基地に人間はいないの」
「コマンダーなら一ヶ月前に頭を撃ち抜かれて死にました。今はゾーンガードのグレイブ・ジャトーヒル大佐が、コマンダーの代わりに指揮を執っています」
白いアーマーの兵士は乱暴にアクセルを吹かすと、ハンドルを握って基地の建物へと車を走らせた。
「条約違反じゃないの。あなたたちアンビギューターが人間の指揮下から離れて行動することは、国連の条約にも、私たちの軍規にも違反しているわ」
「我々はこの一ヶ月で何度もコマンダー補充を本部に要請しました。それで来たのが、あなたです」
アーマーの男は低く野太い声で、吸気の音のあとにゆっくりと現状を説明した。
「我々は撤退作戦中です。各所に分断され待機中のアンビギューター・サテロイドフォース各隊を生きてこの基地に迎え入れる必要があります」
ジープが基地脇の小道を走っていると、ドックで整備中の大型兵器群の姿が見えてきた。
最新型の白兵闘用モビオスーツ「ゴーゴン」、戦域偵察に特化した飛行タイプの「ノクターン」。
どれも人間の形を模したように二本足と腕を持つ特殊な戦闘車両だったが、大きさはどれも人間の数倍ほどの高さと幅を有していた。
「何か質問ですか、少尉」
兵士が乱暴にハンドルを切って、ジープがタイヤを斜めに滑らせていく。ソノイはあと少しでジープから振り落とされそうになりながら、自分の体と荷物を必死で抑えてジープにしがみついた。
「もう少し安全に運転できないの!?」
「気を付けましょう少尉」
兵士は前を向きながらそっけなく答えた。
基地にいる兵士たちはみな同じ形のアーマーで身を守っており、体中を覆う装甲は、顔も同時に守っていた。
目の部分には黒いセンサーのようなものが着いており、マスクと、おそらくスコープや無線機も付属しているのだろう、ヘルメットと一体化していた。
体を守るアーマーの基本形は全員同じようだったが、よく見れば兵士はそれぞれ細部に違いがあるようにも見えた。
例えば、ヘルメットに施された指揮官用のカラーリングと体を守るアーマーの色が違うとか。
片腕だけプロテクターの色が違うとか。
目の部分だけ肥大化した別のセンサーを着けているとか。
いろいろだ。隣の運転席に座っている兵士のように呼吸器を着けている者もいたが、赤色の肩章と青い指揮官用のアーマー、腕に赤、黄色、緑色のカラーリングを施した兵士はこの男一人だけのようだった。
フルフェイスマスクの運転手はソノイの視線をちらりと見ながら、呼吸器の音を一段大きくならして外を向いた。
「あなた、もしかして名前はあるの」
「サテロイドフォースグランド、ユーイーマルニーナナゼロゼロナインスリー、ケーゼロエイト。初期型です」
「識別番号、量産型なのね」
「ユーヤー、とお呼びください」
「ユーヤ?」
「我々のイントゥリゲートへようこそ」
ユーヤーのジープが、二人の歩哨が守っている建物入り口前で乱暴に止まった。
暑苦しい砂混じりの風がふく荒野。それは過去この基地に墜落した、巨大な戦艦を再利用したシェルターだった。
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