第2話 あなたはこの世界にいる

 地上滑走路の片隅で、ティルトコプターのパイロットがゴーグル越しに地上を見てハンドサインを送る。

 コパイロットも首だけで頷き冷静にギアレバーを操作すると、ローターのホバリング音とともに機体下部からランディングギアが解放され、機械音が機内に響いた。

 ヘリの下を覗き見ても、見えるのは砂と荒野、それからやつらに破壊され燃やし尽くされたかつての旧都市のビル群だけだ。

 砂の舞う封鎖区画内部。

 大戦でばらまかれた放射性微粒子が空を漂い、空からの侵入者から都市を守る壁だけが人類の希望となった世界。核シェルターと、要塞化したゲートで自身を守るだけの人類。

 セボリアのゲート付近には、この地下都市を守るオートキルゾーンが敷かれていた。

 トカゲのように横に広いた二本足の異形が、燃え残った何かの骨に食らいついている。

 カートと呼ばれる、肉とその集合体による生き物のような物体の総称。

 物を捕らえ、飲み込みその特性を自身の物に変えて侵略を続ける異形の物体。

 ゲートを守る無人兵器は黒煙を吹いている。


 戦役から人類を守っているのは壁と、もう一つはかつて人類が生み出したアンビギューターと呼ばれる世界最強の人工兵士集団だった。

 かつて彼らは、とある植民地惑星に移住する最の先発隊として開発されていた。

 だが彼らがいざ星に旅立とうとした日に、カートが突如降って沸いてきた。

 タワーと呼ばれる惑星移動用のカタパルトの最先端から、カートたちが逆に地球侵略を始めたのだ。

 このカートとの戦いにアンビギューターたちは急遽その任務を変更し、人類とカートの戦いで最前線に身を置いて戦うことになった。

 タワーは未だ地球に建っている。この地球から、衛星軌道上にあるスペースグラウンドを経由して植民地惑星へと続くガイドラインを未だ示し続けている。

 アンビギューターと人類の戦いは、長い時を経てタワーから徐々に撤退していった。

 タワーは発展と未来の象徴から、いつしか勝てない戦いの象徴として戦場の中心地にそびえ立つようになっていた。

人類は、カートとの戦いに勝つ事を諦めていた。

 カートが進撃し、アンビギューターが戦う時、人類は作られた壁の中でまがい物の平和と空だけを見て、傍観に徹し平和に生きることにしている。


 白と茶色の混じるカートが、人骨にかじりついて空を見あげる。

 その視線の先には、先ほどセボリアの地上滑走路を飛び立ったティルトコプター輸送機の翼。

 意思疎通もできない未知の生き物カートを飛び越えて、パイロットはヘリの中身と共にその最前線基地へと降り立った。

 コパイロットは最前線基地にヘリが降りると、せき立てるように機内の客を煽って下に降ろした。

「少尉、目的地に到着です。ではご健闘を祈ります」

 後部貨物室のハッチが閉まり、仕官が地面に降りると輸送ヘリは素早くエンジンを回して高度を取って、ふたたびセボリアの壁の中へと帰って行った。

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