第40話 サンタがやって来た

 12月24日の夜、この日はフェイカーズとチョコチップとのクリスマス生放送が部室で行われた。


 クリスマス生放送の主な内容は、主にメンバー内で楽しくお喋りをしてクリスマスパーティーを過ごすという内容だった。それ以外には1人1人がメインとなった5本のショートドラマの上映と、クリスマスに合わせた新曲を披露したライブ映像の上映も行った。


 そんな生放送は約3時間の放送だった。生放送とはいえ、ショートドラマとライブ映像に関しては、事前に撮影をしておいた映像を生放送中に流すという形であった為、生放送中にも関わらず、少しの休憩時間は確保出来た。


 そんな、半月前から撮影等の準備を行ってきたクリスマス生放送が終わり、いよいよクリスマスの終わりが近づいて来たと感じるこの時間帯、キョウには生放送以上のビッグイベントが待ち構えていた。


「春浦さんには絶対に見つかってはダメよ!!」


「わっ、分かってるよ」


「分かっていたら別に良いわ。春浦さんと秋風さんがコンビニから戻ってくるまでに確認をしておこうと思って……」


 クリスマス生放送が終わり、パーティー会場として使っていた部室の掃除を行っていた時、美紗からこの後の予定に関して厳重な注意を受けた。注意の元となったこの後の予定というのが、部室内で寝ている古都の枕元にサンタクロースになってこっそりとプレゼントを置くというものである。


 最も、今回の生放送に関する本当の目的は、未だにサンタの存在を信じている古都にプレゼントを渡すという目的の為に実行をされた企画であった。その為、今日の生放送終了後は、部員の皆で部室にお泊りをするというスペシャルなイベントも付いて来ている。


「サンタの衣装は外に隠しているから、そこでサンタクロースに変身をするのよ」


「そしてその後、サンタの格好のまま部室まで歩いてきたら良いんだろ?」


「出来れば、窓から侵入をしてきた方が雰囲気に合うような気がするけど?」


「それは出来ないね。だから、廊下からやって来るよ」


「そう。それは残念ね」


 美紗の無茶な要求にはあっさりと拒否した。ただでさえ動きが鈍くなるサンタコスをやるのに、その状態で3階の窓からの侵入なんて、忍者でもない限り、とても出来やしない。





 その後、優と古都がコンビニから戻り、同時に部室の後片付けも終わり人数分の布団も引き終わり、いよいよ皆が寝る事の出来る空間が出来上がった。


「じゃあ、私がこの場所頂きぃ!!」


 自分の気に入った場所を見つけた古都は、飛び込み様に布団に入り込んだ。


「じゃあ、私は古都ちゃんの隣ね」


「も~う、古都ったら、私がその場所を狙っていたのに!!」


 古都に続く様に、優はその隣に引いていた布団に入り込んだ。それと同時に、古都に狙っていた場所が取られてしまった香里奈は、凄く悔しがる様子を見せていた。


「じゃあ、ボクは入り口に近い場所でいいかな?」


「古都に狙っていた場所が取られたから、私はキョウ様の隣で寝よ!!」


 そんな中、キョウは気軽に出入りが出来る場所として入り口から一番近い場所を選んだ。


 すると、先程古都に狙っていた場所を取られてしまった香里奈が、新たな場所を求める様に隣の布団に入って来た。本当であれば、隣は誰もいない方が落ち着くのだが、この後サンタになるという事を考えると、落ち着かないぐらいの方が良いかも知れない。


 そんな事を思っている間にも、皆が布団の中に入り、いつでも寝る事が出来る状態になった。





 布団に入り始めた事は話をしたりと賑やかな状態が続いたが、今日の生放送で疲れたのか、そんな賑やかさもしばらくすれば収まり、気が付いた頃には皆が寝ていた。


 皆が寝始めたところで、いよいよサンタに変身をして古都にプレゼントを渡すメインイベントが始まった。


 サンタに変装をする為、まずは寝室となった部室を出る事にした。部室を出るときは、古都が起きてしまわない様に厳重に注意をし、物音を立てない様に慎重に部室を出た。


 部室を出た後、美紗が予め隠していた場所まで移動をし、そこで直接、サンタの衣装に着替える事にした。


「しっかし、優のイメージの中だと、サンタは太っていないとダメなのかよ?」


 優が用意したサンタの衣装は、キョウの体格の倍以上もある衣装だった為、そんな優が用意したサンタ衣装を着る為、同じ様に用意をされていたセーターを複数枚着る事になった。そんなセーター着終えた後で、今度は白髪のカツラと白ひげを付け、いよいよサンタコスの完成である。


「さっ、古都に渡すプレゼントも持ったし、早いとこプレゼントを置いて寝よ」


 どこからどう見てもサンタにしか見えなくなった今、白い袋の中に入っている古都に渡す用のプレゼントを持ち、再び部室へと向かって歩き始めた。





 クリスマスの夜の誰もいない校舎の中、冬の夜の寒さのせいで、夏とはまた違う不気味さを感じさせる夜の校舎内。そんな校舎内を1人、ただ古都にプレゼントを届ける為だけに、サンタの格好をして歩いている。


 もし今、誰かとバッタリと出会ってしまうと、たちまち学校の7不思議が出来上がってしまうのだろうな? 


 そんな事を思いながら、真夜中の冷たく暗い不気味な冬の廊下を1人で歩いていた。


 それはそうと、よくよく考えてみたら、別にサンタコスは必要なかったんじゃないかと今更ながら思ってしまった。


 優は古都の為にサンタの格好をしてプレゼントを渡す様に言っていたけど、そもそも肝心の古都は寝ているし、寝ている以上、古都はサンタコスのキョウの姿を見る事はない。肝心の対象者が見ないのなら、別にサンタコスでなくても良かったのでは? 


 そう思いつつも、セーターを何枚も着込んでいるおかげで、いつも以上に寒さを防げているという点は悪くはないと思う。





 余計な事を考えながら暗い廊下の中を歩き、ついに映像制作部の部室の前までやって来た。冬休み期間中であり、他に誰もいなかったおかげで、ここまでは何事もなく、無事に来る事が出来た。


 しかし、ここからが本番である。ここで寝ている古都にバレてしまうと全てが台無しになってしまう。その為、ここからは完全に気配を消す勢いで行動をしなければならない。


 入口のドアを開ける時も、完全に音を出さない様にする為、貴重品を扱うような感覚で、入口のドアをゆっくりと開けた。ドアを開けた後、冷たい風が入らない様にする為、再びゆっくりとドアを閉めた。


 ドアを閉め、音を出さない様に部室内を歩く姿は、完全に泥棒そのものだと自分でも感じてしまうぐらいだった。最も今は、物を盗む泥棒ではなく、物をあげるサンタなのだが。


 そして、古都が寝ている場所まで来てみると、古都は昨晩の生放送で疲れたのか、完全にグッスリと寝ている様子だった。今なら少しくらい音を出しても起きる事はないのでは? そう思ってしまうくらい、古都はグッスリと寝ていた。


「確か、古都のプレゼントはこの中に……」


 白い袋の中から、古都に渡す用のプレゼントを取り出し、それを古都の枕元に置いた。古都に渡すプレゼントを用意したのも優である為、現時点ではプレゼントの中身は分からない。朝になって、古都がプレゼントを確認すれば、中に何が入っていたかが分かるので、今は時に気にする事もなかった。


 そして、古都の枕元にプレゼントを置き、これでようやくクリスマスが終わる。そう思うと、今すぐにでもサンタコスを脱ぎ捨て、布団に入って寝たい気分になった。


「さてと、このサンタ衣装をバレない場所に隠して、ボクも寝るとしようか……」


 そう思い、古都の元を離れようとした時、何者かにズボンの裾が掴まれた様な感覚がした。その為、恐る恐るその感覚がするズボンの裾を見てみると、寝ている古都に裾が掴まれている状態であった。


 一瞬、凄くビビったが、流石に寝ている以上、意識的に掴んだのではないと思い、ゆっくりと古都の手を裾から離そうとした。


 裾を掴んでいる古都の手を離そうと思い、古都の手を掴んだ瞬間、暗い部室内の中ではあったものの、完全に嫌な気配を感じた。それは、古都が両目を開けて、こちらを見ていたからである。今の状態なら寝ぼけている状態のはずだから、夢と勘違いしてくれるはず。そう思い、再び古都には眠ってもらう為、古都の手が裾から離れた瞬間、何事もなかったかの様に、そのまま部室を出て行った。





 そして、翌朝――

 

 この日は、古都と優の騒ぎ声のせいで、目が覚めてしまった。


「なんだか、私だけにプレゼントがあるよ!!」


「すっごいじゃない、古都ちゃん!! 本当にサンタさんが来たんだよ!!」


 枕元に置いてあったプレゼントに驚いている古都を見ながら、隣にいた優も一緒になって喜んでいた。


「ねぇ、サンタさんから貰ったプレゼントを見てみようよ!!」


「それもそうだな。一体何が入っているのかな?」


 優に進められるがまま、古都はプレゼントの中を開けた。


「わぁ!! ぬいぐるみが入っていたよ!!」


「サンタさんにプレゼントを貰えてよかったね」


 昨晩、サンタの格好をして暗く寒い中を歩いて届けたプレゼントの中身は、シンプルにもクマのぬいぐるみであった。プレゼントの中身はともかく、こう喜んでいるのを見ていると、サンタコスをしてプレゼントを届けた甲斐があったと1人で関心をしながら古都が喜ぶ様子を見ていた。


「どうやら、バレずに成功したみたいね」


「当たり前だろ。これがボクの実力さ!!」


 プレゼントを見ながら喜んでいる古都を見ながら、美紗にサンタになってプレゼントを無事に渡せた事を簡単に伝えた。


「古都ちゃん、サンタさんにプレゼントが貰えた事が、余程嬉しいみたいだね」


「だって、今年は本物のサンタさんに合えたのだから!!」


 完全にミッションが成功をし、1人で自慢げになっていたところで、古都から予想もしない発言が出てきた。


「古都ちゃん、それは夢じゃないの?」


「夢なんかじゃないよ!! 昨晩ふと目が覚めたら、目の前にサンタさんがいたんだよ!! サンタの服だって掴んだんだから!!」


 古都の発言を聞く限り、どうやら昨晩の古都は寝ぼけている事もなく、ハッキリと意識があったという事になる。完全に見つからなかったというのは失敗したかも知れないが、正体がバレていない以上、強引にセーフとしておこう。


 それにしても、中途半端なとこで古都が目を覚ましてしまったせいで、古都のサンタ信仰が余計に酷くなったのではないかと思ってしまった。


 でも、古都にとってはサンタに合えたのだから、それも十分にアリな答えなのかも?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る