第41話 新年の初詣
12月31日の夜、1年で1番最後のこの日は映像制作部の部員達と一緒に二年参りに行く為、待ち合わせ場所の駅で待っていた。部長の古都がまだ来ていない為、同じ部員の優と美紗と一緒に待っていた。
「お待たせ~」
「やっと来たわね」
「ずっと待っていたよ」
待ち合わせ場所であった駅に1番最後に来たのは古都であり、古都が来た事で全員が揃い、神社へと行く事になった。
「そう言えば、キョウは着物を着ていないな」
「当たり前だろ。初詣に着物なんか着ないよ」
「でも、女でいるなら、着物を着た方がいいと思うけどな?」
「そう言うけどさ、古都も着物を着ていないじゃない」
「だって、着付けとか面倒じゃない」
「だろ? だから着物を着ないんだよ」
神社に向かって歩いて行こうとした時、古都から着物を着ていない事を言われた為、着物を着ていない理由を言った。
着付けが面倒なのかは知らないが、古都だけでなく、優も美沙も着物は着ていなかった。着物を着るよりも、ジャンバーを着た方が温かいという事だろな?
そう思いながら神社に向かって歩いていると、突然優が古都の隣へと駆け寄って来た。
「着物を着ていなくたって、古都ちゃんは十分に可愛いよ!! ギューっとしたくなるよ」
「って、オイ!! そう言いながら突然抱きつくな」
古都の隣へとやって来るなり、優は古都に抱きつきにいった。
「だって、今の古都ちゃんは、クマの耳みたいな形をした帽子をかぶっていて、着ているジャンバーもモコモコしてて気持ちいんだもの」
「私は、お前のぬいぐるみじゃないぞ!!」
「古都ちゃんは、私のお人形だぁ~い!!」
早く離れてほしいと思っている古都とは真逆で、優は抱きついたまま離れようとはしない。優が映像制作部に入って以降、この様な光景は頻繁に見かける。きっと来年以降も、相変わらず、優なりの古都に対するスキンシップは続くのだろな?
その後、美紗の注意の元、古都を抱きつくのを止めた優は、抱き着く代わりに、古都と手を繋いで話をやりながら歩いていた。
「今日は、香里奈ちゃんは自分のチャンネル内で生放送をやってるんだよ」
「大晦日だっていうのに、香里奈のヤツは頑張るね~」
「だね。香里奈ちゃんは、自分のチャンネルの年越し生放送があるから、一緒には行けないけど、私達も一緒に出れば良かったね」
「良くないよ。クリスマスは特別だったけど、大晦日ぐらいはゆっくりしたいじゃない」
「まぁ、それもそうだね」
神社に向かう途中、古都と優は、香里奈が自身のチャンネル内の年越し生放送で行けない件について話をしていた。
「ところで、どうして片方の耳だけにイヤホンを付けてるの? 歌合戦でも聴いてるの」
「違うよ。これは香里奈ちゃんの生放送を聞く為だよ」
「全く、そんなの聴く必要ないだろ?」
「そんな事ないよ。生放送を聴いてあげると、1人で生放送を頑張っている香里奈ちゃんは喜ぶよ!!」
「全く…… お前は今年1年、ホント香里奈の事に対し、色々と尽くしたな。この調子だと、来年も変わらなさそうだな」
確かに古都のいう通り、この1年の優は香里奈に対し色々と尽くして来たと思う。香里奈が映像制作部に入部をした件に関しては、完全に優がいなければ実現しなかったと思う。また、香里奈の入部以降は、UTubeに関する事を優は香里奈から色々と学ぶ事も出来、優は香里奈のおかげで成長出来たといえる面もある。
「四季神さんの応援をやるのは勝手だけど、周囲には気をつけなさいよね」
「大丈夫だよ。その為の片耳イヤホンなんだから」
優が片耳で香里奈の生放送を聞いていた件で、美沙から注意を受けた。
そんな感じで、適当な話をやりながら神社まで歩いた。
そして、神社に来た後、早速参拝を行った。大晦日の人が多すぎる神社での参拝は、ただ長座の列を並ぶのではなく、真冬の夜の極寒の中を待たないと行けないから、昼間よりも大変。
そんな大変な夜中の参拝が終わった後、優がおみくじ売り場を目掛けて走り始めた。
「あっ!! おみくじがあるよ。みんなで引こ!!」
こんな時の優は誰の声も全く聞こうとしない。そんな身勝手な優だったが、来年以降も変わらなさそうだな。
「こらっ!! 勝手に走らないの」
「全く、優はいつも自由気ままだな」
優の身勝手さはキョウだけでなく、美沙と古都も悩まされている様だ。そう思い、優に続くように、キョウ達もおみくじ売り場に向かう事にした。
大晦日の二年参りでのおみくじ売り場もまた、参拝と同様に長蛇の列が出来ていた。そんなちょう座の列を並ぶ事数分、ついに念願のおみくじを引くことが出来た。
巫女から受け取ったおみくじの結果を見てみると、結果は『半吉』だった。実に中途半端な結果で終わってしまった。
そして、全員がおみくじを引き終えた後、おみくじ売り場の近くの比較的人が少ない場所に全員が集まった。
「ねぇねぇ、おみくじの結果はどうだった?」
「私は大吉が出たよ!!」
「凄いじゃない!! 私は小吉だよ」
古都がおみくじの結果を聞くや否や、優が嬉しそうな表情をやりながら『大吉』が出たと言うと、その言葉を聞いた事は驚く様子を見せた。
「ちなみに、キョウの結果はどうだった?」
「ボクは半吉だったよ」
「キョウらしく、中途半端な結果だな」
「余計な御世話だよ」
古都からおみくじの結果を聞かれた為、出た結果をそのまま伝えると、古都に笑われた様な反応をされてしまった。
「そう言えば、美紗の結果はどうだったの? 見せようとせずに、ただおみくじに書かれている事を読んでいるだけの様にしか見えないけど?」
「おみくじの結果なんて、そう容易く人に言うものではないわ」
「そう言わずに、結果だけでも見せてよ」
「だから、ダメって言ってるでしょ」
1人だけおみくじの結果を見せようとしない美紗は、古都が美紗の持っているおみくじを覗き見しようとしている中、結果を見せようとせずに、おみくじを木に結び付け始めた。
「も~う、美紗ったら、結果を見たぐらいで減るもんじゃないのに…… 見せてくれたっていいじゃない」
「って、そう言いながら、結びつけたおみくじを解かないでよ!!」
「ほ~う、美紗は末吉だったか……」
「も~う!! 言わなくていいのに!!」
美紗がおみくじの結果を言わずに木に結びつけた為、古都は結びつけられたおみくじを勝手に解き見始めた。古都が声に出して結果を言った為、美紗が引いたおみくじの結果が『末吉』だという事が分かった。4人の中での吉凶判定では一番悪かったからこそ、黙っておきたかったのだろう?
その後、『大吉』が出た優以外は、おみくじを木に結びつける事にした。
「そう言えば、大凶なんて本当にあるのかな?」
「あるんじゃないの? 流石に他の吉凶判定と比べて、出る確率が低い為になかなか見る事が無いだけじゃないのかな?」
おみくじを木に結び付けていた時、古都から『大凶』が本当に存在するのかを聞かれた為、勝手な予想の答えをそのまま古都に言った。
「なるほど…… じゃあさ、おみくじ売り場のおみくじを全部引いてみて、おみくじ売り場にある吉凶判定の割合を調べる動画を出そうよ!!」
そうすると突然、古都は動画撮影の企画を思いつき、その案を言い始めた。
「そんな動画を撮ったら、いくらお金がかかると思うんだよ? 第一、正月にそれをやってしまったら、他の参拝客に迷惑だろ?」
「でも、あったらあったらで、面白そうな動画じゃない!!」
「そうかな? なんだか、祭りのクジの全部引きと同じパターンな気がする……」
もちろん、古都が咄嗟に思いついた案に乗る事はなく、そのままスルーをする事にした。
そして、もうすぐで年越しを迎えるというこの時間、突然、優に進められるがまま、香里奈の生放送を観る事になった。
「なんで、神社に来てまでアイツの動画を見ないといけないんだよ?」
「いいじゃない。香里奈ちゃんの頑張っている姿を観よ!!」
そして、それぞれのスマホで香里奈の生放送を視聴する事になった。
優に進められるがまま観始めた香里奈の生放送の内容は、ファンの人達から送られてきた質問に対する返答をしているという内容の生放送であった。アイドル系UTuberらしく、ベタな内容の生放送にも感じるが、それでも香里奈は視聴してくれているファンを楽しませようと思い、面白く楽しいトークを頑張っているようにも見えた。
そんな質問コーナーも、しばらく時間が経てば終わり、突然、新コーナーが始まった。その新コーナーは、どうやらどこかと中継が繋がる様であり、そのどこかとテレビ電話を通して話をするみたいであった。アイドル系UTuberにしては斬新なコーナーを思いつくなと関心をしながら視聴し続けることにした。
『それじゃあ、現場に繋げますね!!』
生放送中の香里奈が言った一言の次の瞬間、スマホの画面には、優の顔が映し出された。
『はぁ~い!! チョコチップちゃん元気ぃ? こちらは今、神社に来ています!!』
「えっ!? 何!?」
「何勝手にコラボやってんだよ!!」
自撮り棒にセットされたスマホに向かい、元気良く話しかける優を見た美紗と古都は驚きを隠せなかった。それはキョウも同じであった。まさかの中継先に優がいる事に。それ以上に、まさかのサプライズでのゲスト出演を果たすとは。まさかここまで香里奈に尽しきるとは……
フェイカーズの優が、香里奈の生放送にサプライズで出演した事により、香里奈の生放送のコメント欄は大荒れ状態となった。
まさか、一年の最後の最後まで、優の行動に驚かされるとは思いもしなかった。そう思っている間に年は跨ぎ、新年を迎えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます