第42話 大変だった動画撮影
正月の最終日、この日は新年一発目となる動画の投稿日である。この動画が完成した事を古都に報告を入れると、古都から電話がかかって来た為、キョウは古都と電話で話をする事にした。
「最初の双六の後に、撮影用に台本を作って、更に撮影用の双六を終えた後で、外へ出ての各お題の撮影…… ホント、今回の動画を作るのは大変だったよ!! そのおかげで、正月はほとんど編集作業に追われてしまったよ」
「初めは面白そうだと思ったけど、アレは確かにやり過ぎたと今更思う……」
「無茶苦茶なお題を入れるから、大変になったんじゃない?」
「でも、その方が面白いじゃん!!」
古都は電話越しで自身気に言うが、ホント、今回の動画撮影は無駄に手の込んだ作業が多かったせいで、凄く面倒な撮影だったと、古都と電話で話をやりながら撮影の日を振り返った。
それは今から数日前の年末のある日――
部室でのクリスマスパーティーが終わり、同じ部員の香里奈以外のメンバーと一緒に年末の大掃除をしていた時、優と古都の会話から次の動画の内容が少し聞こえてきた。
「どんな双六なの?」
「双六の止まったマスにはいろんなお題が書かれていて、実際に飛んでそのお題をこなして行くちょっと変わった双六だよ!!」
古都は次の動画で双六をやろうとしているみたいであり、話を聞く限り、その双六は完全に普通の双六ではなさそうな雰囲気だった。
「なんか面白そうだね~」
「そう思うでしょ!! じゃあ、早速やろうよ!!」
「それよりも先に、掃除を終わらせなさい!!」
優が早くその双六をやりたそうな目つきで古都を見ていた為、古都も優の反応に答える様に今からその双六を始めようとしてテーブルに向かおうとすると、美沙はその行動を止めるかのように割り込み、古都にホウキを差し出した。
「なんだよ、これは?」
「見ての通り、ホウキよ。動画撮影の為の双六をやりたいのなら、まずは部室の掃除からよ。動画撮影はそれが終わったあとね」
「なんだよ。美沙は今年の最後まで頭が固く厳しいな」
「今年一年の汚れを落としてから、翌年に投稿する動画の撮影に挑んだ方が気持ちいいでしょ?」
ここは美沙の言う通り、年明けに公開する動画の撮影なら、先に掃除だけでも終わらせておいてもいいかも? 最も、今日は掃除の為に部室に来ていたのが第一の目的だったし。
「確かにそうだけど…… わかったよ、終わらせばいいんでしょ!! 掃除を」
美沙からホウキを受け取った古都は、渋々と部室の掃除を始めた。
そして、一通りの掃除が終わった後、いよいよ今年最後の動画撮影が始まった。
「じゃあ、今から双六を始めるけど、今回のゲームの結果を元に完成形の動画を作るから、くれぐれも悪い結果にならないように」
古都は動画の脚本を作る前に実際にゲームをやって、その結果を参考に動画の脚本作りに取り掛かっている。一件、凄く面倒な作り方だとは思うかも知れないが、このやり方は意外にも撮影中の無駄を省く事が出来、編集作業の手間を少しでも省く事が出来て意外と良いやり方である。
「この双六には、各マスごとにお題が書かれているので、そのお題は絶対にやるように」
「一体、どんなお題なの?」
「それは、双六を始めてからのお楽しみと言いたいけど、一言で言うなら、外でこなす系のお題かな?」
「そうなの。もちろんそれは後で別撮りでやる予定よね?」
「当り前じゃない。一回一回外に出てお題もこなしていたら、様子を見るだけのゲームでも、終わるのに凄く時間がかかってしまうよ」
「でしょうね」
その後、美沙の疑問に答えた後、古都は双六を始める準備を始めた。
確かに古都の言う通り、一回一回お題までこなしていたら、終わるのに何時間もかかってしまう。一応、UTubeに上げる用の動画の撮影なんだから、上手い具合に編集で繋げればそれで良いわけだし。
そう思い、今回の双六で悪い結果が出ない事を祈りながら、キョウも古都が作った双六を楽しむ事にした。
今回の双六は美沙から始まり、優そしてキョウと、最後に古都の順で回して行く事がジャンケンで決まった。
「まずは私からね。一体マスに止まると何が起こるのかしら?」
そう言いながら、美沙はドキドキとした様子でこれから先何が起こるのか気にする様子でサイコロを振った。
サイコロを振り、出た数の分だけコマを進め、その先の止まったマスの下にある丸い紙をめくると、そこにメインのお題が書かれていたようだ。
「何!? このお題は!!」
「見ての通り、美沙が行うお題だよ」
「ちょっと、なんで私がこんな事をやらないといけないのよ!!」
止まったマスに書かれているお題を見た美沙は、その内容が気に入らなかったのか、古都に不満の抗議をした。
「だって、普通に双六をやったって面白くないじゃない。だからこそのお題だよ」
「だからって…… これはないわよ!!」
美沙が不満に思ったお題を見てみると、こう書かれていた。
『人が多い駅前で、フリフリ衣装のツインテール姿で、アイドルらしくノリノリで歌を歌う』と。
確かに美沙なら不満に思っても仕方がない。しかし、古都はとんでもないお題を考えやがったな…… この先も似たようなお題が出てくるのか?
そう思っていると、次は優がサイコロを降り出した。
「どんなお題が出るかな~」
先程の美沙とは異なり、優はワクワクした様子でサイコロの出た数を進めた。そして、止まったマスに書かれているお題を読み始めた。
「フムフム…… 『犬の着ぐるみを着てコンビニで買い物をする』ってお題が出たけど、犬の着ぐるみなんて簡単に用意出来ないよ!!」
優の心配は着ぐるみを着るという恥ずかしさよりも、その着ぐるみを用意出来ないというところだった。
「心配しなくても、犬のきぐるみぐらい、こっちで用意するよ」
「ホント!! それなら大丈夫だ」
古都から着ぐるみの用意が出来る事を聞いた優は、安心した様子になった。
そんな優はさておき…… 次はいよいよキョウの番である。
「一体、どんなお題が出るかな?」
恥ずかしい事をやらされる系のお題が出ない事を祈り、手に持っていたサイコロを振った。そして、サイコロに書かれた数の分だけコマを進め、その先で止まったマスの下に書かれているお題をドキドキしながら見た、
『フリフリ衣装のメイド服を着て、街中を探索』
美沙や優が当たったお題を事前に見ている為、恥ずかしい系の内容は来るとなんとなく予想していたけど…… いざ実際に見てみると、本当にこれは実行しないといけにのか?
「本当にやらないといけないのかよ?」
「当り前だろ? 自分で当てたお題なんだからさ」
全く…… 古都はどうしてこう、面白半分に恥ずかしい系のお題ばかり入れたんだよ。単にその様なお題ばかりを引き当ててしまったのかも知れないけど。
そう思っていたところ、最後の古都がサイコロを振る番が来た。
「やっと私の番だな。一応、自分で作ったとはいえ、お題はシャッフルしてあるから、自分でもどのマスに何のお題が書かれているかは分からない状態なんだよね」
少しの裏話を語りながら、古都はサイコロに書かれている数の分だけコマを進め、止まったマスの裏に書かれているお題の内容を見始めた。そして、その内容を見た古都は、表情が固まったままの状態で動かなくなった。
「なっ、なんで、よりによってコレを引き当ててしまったんだよ!!」
自分で作ったとはいえ、とんでもないお題を引き当ててしまった古都は、表情が固まったままの状態でそのお題を見ていた。そこには一体どんな内容が書かれているのか気になり、こっそりと見てみた。
「フムフム…… 『すっぽんぽんでバタフライ』…… さすがに、これはアウトだろ?」
裸で水泳。確かにこのお題を引き当ててしまうのは相当運が悪いとしか言えない。最も、他の誰かにコレを引き当てて面白いモノを見たさに選んだのかも知れないが、書いたご本人がコレを引き当てるのは、ホント、自業自得としか言いようがないな……
「裸で泳ぐとかありえないよ!!」
「だったら、なんでこんなお題を入れたのよ!?」
「ロシアンルーレットみたいに、凄くヤバい奴が1つくらいあった方が面白いと思って、つい……」
美沙に理由を聞かれた古都は、凄く公開をした様子でその理由を答えた。
「美沙は水泳をやっていたんだからさ、このお題、代わりにやってよ!!」
「なんで私がやらないといけないのよ!! 自分で作っておいて自分で引き当てたのなら、自分で責任はとりなさい!!」
「そっ、そんな~」
助けを求める様に美沙と変わることを求めた古都だったが、美沙から断られてしまい、完全に助かる術を失ったかのような雰囲気を古都は見せてしまった。
その後も双六は続いたが、皆が皆揃いに揃って、その後も酷いお題を何度も連発してしまった――
そして、数日後の今日……
キョウは動画の制作過程を振り返りながら、古都と電話で話を続けていた。
「しかし、『すっぽんぽんでバタフライ』というお題、いざ実際にプールに行ってやろうとしたら、美沙から肌色の全身水着を用意されてよかったじゃない」
「流石に本当に裸で泳いでいる様子を動画に出すのはマズいからだろ?」
「まぁ、それもあるね。その理由もあって、動画内ではその場面はモザイクをやってあるから、誰もわからないよ」
「確かに今回はモザイク等で誤魔化しを入れたけど、キョウは私が裸で泳いでいるところを見たかったと思ってる?」
突然、古都は変な事を聞き出してきた。何の準備もなく普通に話としていただけに、突然の展開に、少しばかりドキッとしてしまった。
「いやっ!! いきなり何言ってるんだよ!!」
「正直に言っていいんだぞ。私はキョウを男と思っていないから裸を見られる事ぐらい特に気にするつもりはないから」
「古都がそう思っていても、ボクは凄く気にするよ!!」
普段から女の格好をしているせいで、男と思われていないのは仕方がないとして、こうもあっさり、ストレートに言われてしまうとは。
これだと、今年は昨年以上に同姓の様に扱われそうだと、キョウは悩むように考えてしまった。
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