特別編③ クリスマスと年末年始

第39話 サンタの事は秘密に

 11月も終わりに近づくと、街中ではクリスマスソングが聞こえてくるようになるこの季節。もうすぐでクリスマスが来ると実感させられるこの時期、映像制作部の部室内ではクリスマスに上げる動画に関する会議が行われていた。


「高校に入って初めてのクリスマスは何をやる?」


 映像制作部の部長である古都から直接の質問が来た。


「せっかくだしさ、ファンをたくさん集めてクリスマスライブをやりましょ」


 そんな古都の質問を聞いた香里奈が、一番先に返事を返した。


「えぇ、またライブをやるの!?」


「いいじゃないの。私が憧れるアイドル系UTuberの先駆者であるディードルは、結成した年のクリスマスにはファンを集めてライブを行っていたのよ。私達もディードルに負けずにライブをやりましょうよ」


 香里奈は、自身の大好きなUTuberを引合いに出し、自分達もディードルと同じようなライブをやろうと提案をしてきた。


 そんな香里奈の提案を聞いた古都は、凄く怠そうな表情をやりながら、香里奈の方を見た。


「えぇ~ ライブをやるとなったら練習とか、凄く怠くて面倒だし……」


 古都は指で髪をクルクルと回しながら、面倒な事はやりたくないという表情をやりながら喋っていた。


「そんな事言わずに、またライブやろうよ~」


 面倒な事を嫌う古都に対し、香里奈は何としてもクリスマスでライブをやりたいと、ねだる様に言っていた。


 そんな香里奈を見た古都は、少々イラッと来た様子で、ねだる様に言って来た香里奈に言い返し始めた。


「そんなにライブをやりたかったら、1人でやっていればいいだろ?」


「私はそのつもりでいるよ!! 私だけでもフェイカーズよりも再生数が高い動画を作れるのだから!!」


「なにを!! フェイカーズの作る動画は、チョコチップムービーよりも面白いんだから!!」


 仕舞には、古都と香里奈は言い合いを始めてしまった。古都と香里奈の言い合いは、今回だけでなく、いつもの事である。





 そんな2人の言い合いを止めるかのように、優が2人の話に入り込むように、古都と香里奈に話しかけに行った。


「ねぇねぇ、せっかくのクリスマスなんだし、クリスマス動画ではみんなでサンタになろうよ!!」


 言い合いをしていた古都と香里奈に対し、優はクリスマスの動画でサンタになろうと言い出した。優の考えている事は、未だに予想がつかない。


 そんな優の声を聞いた古都と香里奈は言い合いを止めた。


「クリスマスと言ったら、サンタの恰好は当たり前の事よ。どんな内容の動画になろうとも、サンタの衣装は外せないわ!!」


 優の方を見ながら、香里奈はサラッと言い返した。


「そうだよね。やっぱりクリスマスと言ったらサンタの衣装だよね」


 香里奈が自分の考えに賛成をしてくれたと思ったのか、優はニコッと微笑んだ表情をした。


 また、香里奈と同様にサンタという言葉を聞いた古都は、言い返す前に何か考え事をしていたが、ようやく何か言いたい言葉が思いついたのか、何かしゃべり始めた。


「サンタ…… サンタで思い出したのだけど、今年もサンタさんは来てくれるかな?」


 考え込んでいた古都が何を言い出すのかと思えば、まさかのサンタが実在していると思い込んでいる発言!! 


 古都の発言を聞いたキョウだけでなく、香里奈と優と美紗もポカンとした表情をしながら驚いていた。そして、表情を改めた香里奈は、古都の方を見ながらキリッとした表情で話し始めた。


「古都、あなたは一体何歳なの?」


「何歳って、私が16歳である事を知っているだろ!! 私が小さいからって、新手の嫌がらせをやるな!!」


 何を思ったのか、香里奈は突然、古都に年齢を聞き出した。突然、年齢を聞かれた古都は、新手の嫌がらせかと思い、香里奈に対し怒り出した。


「それぐらい知ってるわよ」


「だったら、今更聞くな!!」


「肝心なのは、そこじゃないのよ。サンタの事よ」


「サンタがどうしたんだよ?」


 先程の年齢を聞いていた事から考えると、どうやら香里奈は古都にサンタがいないという事を伝えようとしているのかも知れない。


 もし、この場で古都にサンタが本当はいないという事を知ったら、どんな反応をするだろうか? やっぱり、物凄く怒るのか? それとも、凄く悲しむのか?


 そう思っている間にも、香里奈は古都にサンタがいないという事実を言い出そうとしていた。


「あのね、古都。サンタと言うのはね…… !? フガッ!?」


 香里奈が古都にサンタがいないというのを伝えようとした瞬間、見事にタイミング良く、背後から美紗に口を押えられてしまった。


「四季神さん、夢は壊してはいけないわよ」


「そうだよ、香里奈ちゃん。夢は壊されるとすっごく悲しくなるんだよ」


 美紗はサンタの存在を信じている事の気持ちを考え、香里奈にサンタがいないという真実を喋らそうとしなかった。また、美紗と同様に、優も古都にはサンタがいないという事を知って欲しくないと思っていた。


 そう思いながらその様子を見守っていると、美紗がキョウの隣へと寄って来た。


「夏川さんも分かっているとは思うけど、ここは空気を読んで春浦さんの夢は壊さないでいで欲しいの」


「わっ、分かったよ……」


 まさかの、美紗からの念入りでの頼み。そんな美紗からの頼みだと、とても断れはしない。最も、始めから古都にサンタなんかいないなんて言うつもりもなかったのだが。


「いいこと夏川さん。女の子と言うのは、夢を壊されるというのが最も傷つく行為なのよ」


「そっ、そうなんだ。その言葉に免じて、気をつけるよ」


 映像制作部のメンバーだけでなく、女子との会話では、所々気をつけないといけないな。


 美紗と2人でコソコソ話の様に話をしていた内容が凄く気になったのか、古都が話しかけに来た。


「一体、2人で何話していたんだよ?」


「ちょっと、顧問が春浦さんの事を探していたという話を、夏川さんと確認をしていたの」


 すぐに返事に答えた美紗は、何の迷いもなく、ここでは本当の事を言わずに嘘を言った。


「顧問が私に話を?」


「そうよ。だから、すぐに職員室に行った方がいいわよ」


「そう。じゃあ、会議は一旦中止だな」


 美紗に言われるがまま、古都は何の疑いもなく、映像制作部の顧問がいる職員室へと向かった。





 古都が部室を出た直後、美紗の話に合わせる様にキョウは自分のスマホを取りだし、顧問である姉のスマホに古都と適当な話をやってくれというメールを送信した。


 そして、古都がいなくなった後、美紗が再び喋り始めた。


「サンタの件に関して春浦さんに真実を知られないようにする為に、とりあえず部室から出てもらったけど、春浦さんが戻って来るまでの間に、最低限の出来る限りの事は考えておきましょ?」


 美紗は古都がいない間に、クリスマスに上げる動画の企画を考える様提案し始めた。


「古都ちゃんが、サンタさんから未だにプレゼントを貰っていると信じている事で思い付いたのだけど、今年のクリスマスの夜は、私達がサンタさんになって、古都ちゃんにプレゼントを渡さない?」


 そんな中、優が1つの提案をした。


「そうね。その案は面白そうだとは思うけど、それを直接動画でやってしまうと、完全にやらせだとバレてしまうわ」


 優が提案をした案を聞いた美紗は、古都にサンタの真相がばれてしまうと危機を察した。


「確かにサンタが夜中にプレゼントを渡しに来るとかいう動画をやると、動画に付くコメントを見て本当はサンタがいないという事に気づいてもおかしくないわね」


「そうね。だから、サンタになってプレゼントを渡すというのは動画として出すのは良くないわ」


「そうなんだ…… 残念」


 美紗と香里奈からその案は古都には良くないと言われると、優は傑作だと思って提案をした案がボツになりがっかりした様子を見せた。


「でも、動画とは別にプレゼントを上げるなら別にいいんじゃないかしら?」


 がっかりした様子の優を見た美紗は、そんな優を元気付けようと一つの提案をした。


「そっか!! その手があったね!! これでサンタさんになれるね!!」


 美紗の案で優が機嫌を取り直したのはよしとして、問題はどんな方法で夜中に古都の枕元にプレゼントを置くかだ。


「ところでさ、サンタになって古都にプレゼントを渡すのは分かったけど、それをどんな風にプレゼントを渡すつもりなの? 古都の家に侵入するのは良くなさそうだし」


 肝心の流れが気になったキョウは、どのような流れを考えているのか美紗に聞いてみた。


「そうね。こんなのはどうかしら? 私達のクリスマス動画はチョコチップとの生放送コラボをここでやるの。そして、そのままお泊り会もやって、その時にサンタ役が春浦さんの枕元にこっそりとプレゼントを置くの。もちろん、春浦さんにはただの生放送動画として参加をしてもらうわ」


 美紗の案は、一件凄くシンプルに思うが、色んな意味で最もベストな答えだと感じた。


「クリスマス生放送パーティーとお泊り会のミックスなんて、すっごく楽しそう!!」


「まぁ、フェイカーズとのクリスマス生放送パーティーも悪くはなさそうね」


 美紗の案を聞いた優と香里奈も、喜びながら賛成をした。


 そして、一通りの流れが分かった後、美紗はキョウの方を見ながら話し始めた。


「あと、サンタ役なんだけど、ここは夏川さんに任せてもいいかしら?」


「私はそれでもいいよ」


「なんとなくボクがやらなければいけない様な気がしたし、この際サンタ役でいいよ」


 美紗からサンタ役を頼まれたキョウは、優の賛成もあり何の迷いもなくすんなりとサンタ役を引き受けた。


「ありがとう。くれぐれも春浦さんに正体がバレない様に気を付けてね」


「分かってるよ。難しそうだけど頑張ってみるよ」


 そして、サンタ役をやる事に決まった直後、美紗からの注意を受けた。


「決まりね。春浦さんが戻ってきたら、部室で生放送パーティーをやる動画っていいましょう。間違ってもサンタの件は言わないようにね」


 こうして、古都がいない間に、クリスマスに上げる動画の内容は決まった。

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