特別編① それぞれの夏休み

第31話 夏の始まりは海水浴場

 7月も後半になり、ついに待ちに待った夏休みがやって来た。高校生活最初の夏休みは、映像制作部の部員達と一緒にとある海水浴場へと来ていた。


「私を照らすまぶしく光る暑い太陽、風に運ばれる白い砂浜のにおい、そして、この広い海! ホントに、この光景を見ていると夏が来たって感じね!」


 海水浴場を目の前に見た香里奈は、今からでも海に向かって走って行くような勢いのテンションであった。


 全く、今日は遊びで来たってわけではないのに、まるで遊びに来たようなテンション。


「おいっ、香里奈。私達が今日ここに来た目的は知ってるだろな?」


「なによ、それぐらい知っているわよ、古都! 私達が海の家の一日アルバイト体験をやるって事ぐらいをね」


 そう、今回海水浴場に来た目的は、海で遊ぶ為ではなく、優の友人の千百合の親戚が経営している海の家で一日だけのアルバイト体験をやる為である。もちろん、タダでアルバイトをやるわけではなく、私達と香里奈のチャンネルである『フェイカーズ』と『チョコチップ』とのコラボ動画の為でもある。


「皆さんの頑張りをきっちりとカメラに収めますので。ぜひ海の家とのコラボ動画を楽しんでね!」


 今回の撮影はメンバー全員が海の家で仕事をする為、その仕事をしている様子をキョウの姉である顧問の先生が代わりに撮影をやってくれる。多分、変な撮り方はしないとは思うけど……


「それじゃあ、ボクは姉さんと一緒に店の人と今回の打ち合わせをやるから、みんなは先に着替えて来てよ」


「わかった。キョウも後でちゃんと水着に着替えろよな」


「わかってるよ」


 キョウと顧問の先生が海の家の人と今回のコラボ動画に関する打ち合わせをやっている間に、私達は先に水着に着替える事にした。それとは別にキョウの水着姿は、面白いものを見たいという下心もあるせいか、少しばかり期待している。





 そして、打ち合わせをしているキョウを海の家に残し、私達は先に海辺にある更衣室で水着に着替える事にした。


 海の家での仕事とはいえ、一応海水浴場にいる為、私達も水着姿になる事になったのだが、海に入らないのに水着姿になる理由はあるのか? とつい疑問に思ってしまった。


「それにしても、海の家でバイトをやるだけだったら、別に水着に着替える必要なんてないんじゃないかな?」


「言われてみると確かにそうね。普通、動きやすい服装であれば十分だと思うわよ」


「そうだよね。なんで先生はわざわざ水着に着替える様に言ったのかな?」


 更衣室で水着に着替えている最中、海の家でのアルバイト体験でわざわざ水着になる必要はあるのかふと疑問に思った私は、隣で着替えていた美紗とその事について話しをやってみた。


 そんな事を考えながら水着に着替えていると、特に疑問に思っていなさそうなヤツが一番先に水着に着替え終わり、自慢をする様に私達に見せつけてきた。


「みてみて! これが、私の水着姿よ!」


 真っ先に水着姿を披露したのは、香里奈であった。香里奈が着ている水着は黄色い水玉模様のビキニであり、同時に香里奈はビキニが似合うくらいスラッとした細い体系の持ち主でもあった。


 全く、海の家で働くだけにしては完全に露出が高い。そして、いろんな意味で場違い感もある。


「そう、凄い露出が高い水着だね」


「その水着姿でファンを魅力するのかしら?」


「香里奈ちゃん、大胆……」


 香里奈のビキニ姿を見た私と美紗と優の3人は、それぞれ水着に着替えながら香里奈が自慢をやりながら見せつけてくる水着姿の簡単な感想を言った。


「それだけの反応? もっと言う事は色々とあるはずでしょ?」


「そうだな…… お前の水着は下着みたいだぞ」


 私は香里奈に言われるがまま、ストレートな感想を言った。


「そうそう下着…… って、なんでそうなるのよ! それにあんた達の水着をよく見たら、それって水着じゃなくて服じゃないの!」


「何言ってるんだよ。今の時代の水着って、大体こんな形だよ」


 そう言う私が着ていた水着は、街中で着ていても違和感がない見た目をしている蒼いワンピース型の水着であった。私だけでなく、優はさわやかな夏をイメージする様なシャツと半ズボン型の水着を。美紗に至っては蒼い上着に半ズボン、その下に足首まである長いタイツを着用し、見るからに主婦の人が着るような格好の水着であった。


「こんなのは水着ではなくて服よ服! 海水浴に来たのだから、もっと大胆になりなさいよね」


「なんで私達がお前みたいな大胆にならないといけないんだよ? それに今日は海の家で仕事をやるだけなんだから、別にこの水着でもいいだろ?」


「よくないわよ!! これだと本当に私だけが下着姿でいるみたいじゃないの!!」


 私達が来ている服の様な水着を見た香里奈は、1人だけが下着の様なビキニ姿でいる事に対し、先程までの自信はなくなったかのように恥ずかしがる様子を見せ始めた。


「全く…… 恥ずかしいと思うなら、そんな無理をしなくてもいいのに」


 1人だけが下着の様なビキニ姿でいる事に対し恥ずかしがる様子を見せ始めた香里奈に対し、美紗は自分が持っていたフード付の白いパーカーを香里奈に着せた。


「恥ずかしくなんかないもん! 露出がある私の方があんた達以上に注目を独占するんだから!!」


 全く、香里奈ってホント、無駄に目立とうとして自滅してるような気がするな……





 その後、水着に着替え終えた私達は海の家の店内に入った。


 そして、少し遅れて店内にやって来たキョウの水着姿は、なんとなく優と似たような感じの服っぽく、肩の部分が露出していてブラの紐がチラリと見えているタイプの水着であった。私が言うのもなんだが、ここはもっと大胆な水着で出てきたら、絶対に面白く最高傑作になっていたと思う。


 今回の仕事場所の担当は、一応クジで決めたのだが、見事に面白い様に別れたと思う。私とキョウの2人は厨房で皿洗いや料理作りを担当。そして、美紗と優と香里奈の3人がホールで料理を運んだりするウェイトレスを担当。


 そして、営業が始まる直前に、顧問の先生が私達の方を見ながら喋り始めた。


「くれぐれも、今回のアルバイト体験は動画になるという事を忘れずに。難しいとは思うけど、動画内での自分達のキャラを見事に演じながらの接客をやるのよ」


「わかってるわよ。私は動画内とそうでない時は見事にキャラの使い分けが出来るもの」


「そうなのか? そう言っておきながらカメラが回っている時にボロが出たら面白いのに」


「私はあんたと違ってそんなヘマはしないわよ!!」


「なんだよ、私だってそんなヘマはしないよ!!」


「2人共、ケンカはしないの。もうすぐで仕事が始まるんだから、仲良くやらないとダメだよ!」


 私と香里奈がいつもの様に言い合いをやっていると、その間に入り込む様に優が入って来た。別に以前の様にケンカはやるつもりはないのだけど……





 その後、店はオープンし、店内はすぐに海水浴に来ていた人達やサーファー達でいっぱいになった。ちょうど昼食時という事もあり、店内だけでなく厨房も大忙し。


「『カツカレーチャーハン』と『3種のチーズカレーパスタ』をお願いね」


「わかった」


 ホールで注文を聞いてきた香里奈が、厨房にいる私とキョウに料理のメニューを言った。


 今回は1日だけの海の家とのコラボという事もあり、店内にあるメニューはこの日だけのオリジナルメニューである。ここにあるメニューは、チョコチップムービーで過去に作られたオリジナル料理を再現しているだけである。全く、完全に香里奈がメインのコラボになっているな!!


 そんな事を1人で思いながら私は、渋々とパスタを茹でていた。


 そして、完成した料理を運んでいく香里奈の後ろ姿を見ていると、優が新しい注文を言いにホールまでやって来た。


「は~い、『炭酸入りのシュワシュワゼリー』を一人前ね!!」


「わかった!!」


 そう元気よく返事をした後、キョウは形を崩したゼリーの上に炭酸ソーダーをかけ、『炭酸入りのシュワシュワゼリー』をあっという間に完成させた。


 しかし、この厨房の中は意外と暑い。キョウが作ったあのシュワシュワゼリーを今すぐにでも食べたくなるぐらいであった。


 そんな暑い中での仕事は、昼のラッシュ時間中は永遠に続く様に長く感じる。





 そして、昼のラッシュ時間が終わり、客足が途絶えた時に、私達は休憩を取る事にした。


「しっかし、海の家で働くのって、思っていたよりも凄く大変だな」


「確かに、普段なれない作業をやるのってホント疲れるね」


 休憩中、店内のカウンターにもたれ、目の前の海水浴場を見ながらキョウと大変だった厨房仕事の出来事を振り返っていた。


「そう言うけど、ホールの方が凄く大変よ。いっその事、厨房担当と変わって欲しいくらいよ」


「厨房は暑くて大変だよ。それに、変わってあげたい気持ちはあるけど、やっぱりそれは出来ないね!」


「あっ、あくまでも独り言みたいなものよ!」


 美紗が担当場所を厨房と変わって欲しいと言って来たが、私はキッパリと拒否をした。確かに厨房は暑くてジメジメする。


 しかし、普段から人目のつく場所では誰よりも緊張をしてしまい最大の力を発揮出来なくなってしまう美紗の苦手を克服する絶好の場としても使いたい為、私はあえて美紗の要望を断ったのである。


「ホールでのウェイトレスって、ある意味店内にいるアイドルみたいなものだから、ちょうどキャラ作りの練習にもなっていいんじゃない?」


「そうだよ! このアルバイトだって今後のUTube活動の経験に生かす事だって出来るんだから。いっその事、この後はメイドカフェみたいにいってみようよ!!」


「わざわざ海の家でやる必要ないでしょ!! それに、私はアイドルになるつもりはないんだから!」


 確かに香里奈と優の言う通り、ホールでの仕事の方がキャラ作りの練習にはいいかもしれない。そう考えると、尚更、美紗にはホールにいてもらう方がいい。


「アイドルになるつもりはなくても、最後まで頑張ってね。海のメイドさん」


「全く!! 私はメイドでも何でもないんだから!」


 私は美紗にからかう様に話しかけながら、忙しい海の家でのアルバイト体験中の休憩時間を過ごした。

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