第28話 いよいよ始まる……
スーパー銭湯での朝風呂の後、同じ施設内の大部屋の休憩室で3時間程仮眠をとった。
その後、私達は夕方から始まるイベントの会場であるショッピングモール内のホールへと向かった。
私達が会場であるモールに来たのは昼前であったが、既にモール内ではイベントのお祭りが開催されており、多くの人で賑わっていた。
一方の私達がイベントを行うホール周辺では、スタッフ達によるイベントの準備が行われていた。そんな準備をしているスタッフ達の様子を見ていると、その中にキョウの姿が目に入った。
「あっ、キョウちゃんだ!!」
「あらホント。ケガは大丈夫なのかしら?」
私だけでなく、優と美紗もまたスタッフに混ざるキョウの姿を確認した。
「あっ!? キョウだ!!」
キョウの姿を確認した古都は、一目散にキョウの元へと走って行った。
「あっ、こと…… って!? グハッ!?」
キョウの元へと駆け寄った古都は、走った勢いのまま、キョウに飛びついた。
「無事だったのか~ 私はずっと心配していたんだよ!!」
「ちょっと、降りてくれないかな?」
古都に抱きつかれたキョウは、抱きついている古都によって顔が塞がれてしまっていたので、フラフラと足元がよろついていた。
「ちょっと古都、キョウから離れなさいよね。まだケガだって完全に治っていないかも知れないじゃないの!!」
「いいじゃない!! こうしてキョウが私達の前にいることが私は凄く嬉しいんだよ!!」
嬉しそうにキョウに抱きついている古都は、キョウから離れようとする様子を全く見せなかった。
「はいっ、ここまでよ」
「あっ!?」
そんな中、映像制作部の顧問の先生がどこからともなく現れ、キョウに抱きついていた古都を抱き上げる様にキョウから放した。
その後、顧問の先生とキョウが私達の前にやって来た。
「あっ、キョウ…… この間はゴメン。私と古都の言い合いのせいで、手足を痛むケガを負わせてしまって」
「気にしなくても大丈夫だよ。そのおかげでボクだって休む事が出来たんだから」
目の前にやって来たキョウを見た私は、真っ先に先日の件を謝る事にした。
キョウは気にしていない素振りを見せたが、ケガをした原因を作った側としては、非常に申し訳ない気持であった。
「ほらっ、キョウだって気にする事はないって言っているんだからさ、細かい事は気にしなくていいんだよ」
「そういうアンタこそ気にしなさいよね!! 最も、アンタのせいなんだからね!!」
「何を言うか!? お前の方が悪いんだろが!!」
私は特に気にもかけない古都に対し責める様に怒ったが、確かにあの時の状況をよくよく考えてみると、言い合いの末、階段の上から古都を突き飛ばした私こそがキョウをケガさせた最もの原因を作ってしまったのかも知れない……
そんな真実を考えていると、美紗がキョウの状態を心配したような様子で話しかけた。
「ところで、ケガの方は大丈夫なの?」
「まぁ、一応、前みたいに動く事は出来るから、休むわけにもいかないと思って来てみたのだけど?」
「そうなの。ダンスもあるから調子に乗って無理はしない方がいいわよ」
「それぐらい分かってるよ」
美紗はキョウのケガの様子を心配した様子で聞いてみると、キョウのケガは既に治っているみたいで、特に痛そうな表情はしていなかった。
当日までにケガが治ってくれたことに関しては、直接の原因を作ってしまった私としてもホッとした気持ちである。
そんな事を思っていると、優がキョウの方を見ながら話し始めた。
「そう言えば、キョウちゃんはどうして早くから来ていたの?」
「いやっ、それはイベントの準備をやる為だよ。一応自分達が出るイベントなんだから、機材の配置とかはチェックをしておかないと」
「なるほどね。その為に早く来ていたんだね」
キョウが早く来ていた理由を知った優は、納得をした様子で頷いていた。
「あと、全てをスタッフに任せるわけにもいかないと思って、手伝えるとこは手伝う様にしていたんだよ。そう言えば、優の友達の千百合も一緒に準備をしているよ」
キョウがそう言った後、どこからともなく私達に対して呼びかけている様な声が聞こえてきた。
「あっ、みなさん、ついに全員お揃いですわね」
「ちっ、千百合ちゃんだぁ~」
私達の方に駆け寄ってくるのは、優の友達の千百合であった。千百合の姿を見るなり、優は千百合と両手で握手を交わした。
「千百合ちゃん、ホントありがとう!! 今回のイベントは千百合ちゃんのお陰だよ~」
「せっかくのイベントだし、今人気のあるアイドル系UTuberさんの力を借りて、今回のイベントに来てくれた人に、私のお店も紹介しておこうと思ってね」
「千百合ちゃん、商売上手だね」
「そうかしら? 私はあくまでもスポンサーよ」
優と握手をしている千百合は、今回の私達のイベントに協力をしてくれた理由を言った。それはともかく、千百合のとこの店がどれだけ発言権があるのかは知らないけど、とにかく千百合は凄いな……
その後、優との握手を終えた千百合は、私達の方を見て喋り始めた。
「みなさん、お疲れ様です。お菓子の方は楽屋に置いてありますので、休憩時間等に食べてくださいね」
「あっ、ありがとう」
「サンキュウ、千百合」
「私達の為に。本当にありがとう」
千百合は私達の為に、お菓子を用意していてくれた様であり、それを知った私と古都と美紗はすぐさま千百合に感謝をした。先日の徹夜の時の差し入れといい、優はホント、良い友達を作ったと感心をした。
「それじゃあ、私は準備の方があるから行くね」
「頑張ってね~ 千百合ちゃん」
私達にお菓子の差し入れを用意しているという事を伝え終えた千百合は、再びイベントの準備を手伝う為、私達の元から離れて行った。
千百合が離れた後、顧問の先生が私達の前に立ち、喋り始めた。
「ところで、イベントで上映をする映画が入っているUSBメモリは持って来ているかしら?」
顧問の先生が喋り出した内容は、イベントで上映をする映画の映像が入ったUSBメモリに関する話であった。USBメモリに関しては、優がきちんと持って来ている筈。
「大丈夫だよ先生!!」
優は右手を前に出しながら自信を持って答えた。
「USBメモリならここに……」
自信を持って答えた後、優はカバンの中に手を入れてUSBメモリを探し始めた。
しかし、なかなかUSBメモリが見つからないのか、優は次第に顔色が悪くなった。
「優、もしかして、USBメモリを忘れたの?」
「ゴッ、ゴメン!! USBメモリを忘れちゃったよ~!!」
確認の為、私が優にUSBメモリの確認を聞いてみると、優は泣きついた様な表情をしながら私に抱きついて来た。
「どこにUSBメモリを忘れたか覚えてる?」
「たっ、多分、部室に置いて来たかも知れない……」
「それじゃあ、忘れ物を取りに行くのを頼むよ。姉さん」
「仕方ないわね。それじゃあ、一緒に忘れ物を取りに行きましょ」
「うん」
優がUSBメモリを忘れたのを知った後、キョウからUSBメモリを忘れた場所を問われ、優が部室に忘れて来たという事を伝えると、顧問の先生は優を車に乗せ、一緒に学校の部室まで忘れ物のUSBメモリを取りに行った。
その後、優が部室に置き忘れたUSBメモリも無事に確保をする事が出来た後、私達はリハーサルに備え、楽屋でイベント用の衣装に着替えた。
イベントで着る衣装は、見た目はアイドルらしいフリフリの衣装であり全員が同じのを着るが、衣装のメインカラーは1人1人異なる。キョウは赤、美紗は青、優はピンク、古都はオレンジである。そしてメインの私は自分の好きな色のレモンイエローの衣装である。
「どう? すっごく似合うでしょ?」
「すっごい似合うよ。香里奈ちゃん」
「でしょう!! なんたって、私に似合う様にデザインをしたんだから」
イベントのライブ用の衣装を着た私は、自分でデザインをした衣装の自慢をするのと同時に、自分に最も似合う衣装を着た私を優に自慢をするように見せた。
そんな感じで、優にライブ用の衣装の自慢をしていると、別室から着替えが終わったキョウが楽屋に出てきた。
「本当に、ボクがこんな衣装を着て人前に出てもいいのだろうか?」
「何言ってんのよ? 私がデザインした衣装が気に入らないって言うの?」
「いやっ、そうじゃなくて…… ボクが着るには少しばかり可愛い気がして」
「そんな事ないわよ。キョウも女の子なんだったら、もう少し可愛い衣装を着る事を意識しなさい!!」
普段は可愛い服を着ない為なのか、キョウは恥ずかしそうな様子でいた。
「そうだぞキョウ。もっと女の子らしくならないと」
「キョウなら、可愛い服も似合うと思うよ」
「も~う!! みんな揃って!!」
私に続く様に、ソファーでくつろいでいた古都と優もまた可愛らしい女の子らしい衣装を着る様に言うと、キョウは迷惑そうに困惑した表情をした。
私達がイベント様に衣装に着替え、楽屋で盛り上がっていたところ、美紗だけはまだイベント用の衣装には着替えていなかった。その為、私は美紗が着替えているであろう個室を覗いてみる事にした。
「ねぇ、もう着替えは終わったかしら?」
美紗が着替えている個室を覗くと、美紗は既にイベント用の衣装に着替え終わり、ただジッと鏡を見つめている状態であった。
「って、勝手に覗かないでよ!!」
「別に良いじゃない。どうせ人に見せる格好なんだから」
私の声に反応して振り向いた美紗は、赤面な顔をして凄く恥ずかしそうな表情で後ろを振り向いた。
「そうは言っても、私が着るには似合わないくらい凄く可愛い衣装じゃないの!! こんな格好で人前に出るなんてやっぱり出来ない!!」
「今更何言ってるのよ!? この間試し着したばかりでしょ!!」
「あの時はギリギリ耐えれても、当日になってこれを着た状態で人前に立つことを考えると、凄く恥ずかしいんだもの!!」
美紗がイベント用の衣装に着替え終わってもなかなか楽屋に出てこなかったのは、実際に着てみた衣装があまりにも可愛い過ぎた為に、恥ずかしくなってしまったようだ。
恥ずかしがったまま、個室から出ようとしない美紗に困っていたところ、顧問の先生が美紗のいる個室の方へとやって来た。
「ほらっ、何言ってるの。恥ずかしいと思うから余計に恥ずかしくなってくるのよ」
「先生、そうは言ったって……」
「大丈夫よ。アイドル衣装を着た冬月さんだって凄く可愛いわよ。そんな可愛さを恥ずかしがらずにもっと自分に自信を持ちましょ」
「でっ、でも……」
そのまま個室の中に入って行った顧問の先生は、恥ずかしがったまま動こうとしない美紗の背後からそっと優しく抱きしめた。
「どんな事だって、自信を持つ事によりそれは凄く強力な武器にだってなるのよ。冬月さんだってその可愛さを武器にすれば、今以上に視野が広がるわ」
「やっぱり、私には出来そうにないです……」
「そう言わずに、今日のイベントの為にこの1ヶ月の間必死になって練習をしたり撮影をしたりと、イベントの準備を頑張って来たじゃない。それに、冬月さんがいない事には、全員集合にはならないわよ」
「そっ、それもそうですね…… とりあえず私、もっと自信を持って頑張ってみます」
「その調子よ、冬月さん!!」
顧問の先生の説得のお蔭で、美紗は恥ずかしさを堪えた状態で個室から出てきた。
その後、無事にリハーサルも終わり、あとはイベントが開始される時間を待つだけとなった。
「もうすぐで、私達のイベントが始まるんだね」
「確かに、始めは本当に出来るのかと不安に思っていたけど、見事にここまで来る事が出来たわね」
楽屋にあるソファーに座りながら優と話をしていた私は、まさにもうすぐ始まるイベントに対し、まだ実感がわかない気分でいた。
確かに1ヵ月程前にキョウがイベントの話をやって来た時は本当に実行出来るのかと半信半疑な気持ちで思っていたけど、当日になってみると部活の力とは言え、私達だけでここまで来る事が出来たんだなとイベントに向けて準備をされている会場の様子を見て改めて実感をした。
「まだ緊張が収まらないわ」
「初めは誰だって緊張するものだよ。どんなになれていたって、この時ばかりは緊張するものさ」
ソファーに座っていた美紗とキョウもまた、共に緊張を隠せない様子でいた。
そんな中、古都に関しては、いつもの様にマイペースな様子でソファーに座っていた。
「ここまで来ることが出来たのも、私が凄いという証だよ!!」
「あんたではなく、私がいたからこそ、この様なイベントが出来たのよ」
「何言ってるんだよ!! 私がいなければ映画は作れないだろ!!」
「主役である私がいなければ、映画なんて成り立たないわよ!!」
「いつからお前が主役になったんだよ!! 主役は私なんだぞ!!」
イベントが始まるという直前にも関わらず、私は楽屋で古都といつもの様に下らない言い合いを始めてしまった。
「まぁ、誰が主役とか今は別にいいじゃない。とにかく今はこれから始まるイベントを皆で協力をして盛り上げる事を重点に置いて考えようよ」
「主役は重要よ!!」
「そうだ!! 主役らしくないキョウには言われたくないセリフだな!!」
「えっ!? そこまで言う?」
そんな中、キョウから皆が主役でいいじゃないかという事を言われた為、私と古都は2人そろってキョウに言い返した。
その後も緊張をしつつも、皆で話をしていると、顧問の先生が楽屋に戻って来た。
「みんな~ そろそろイベントが始まるわよ~」
時計を見てみると、時間はもう18時であった。いよいよ待ちに待ったイベントの開始時間である。
「もうそんな時間なんだ。それじゃあ、行こっか!!」
顧問の先生の声をキョウは、真っ先にソファーから立ち上がった。
「そうね。くれぐれも私の足を引っ張らないでよね」
キョウに続く様に、私もソファーから立ち上がった。
「そう言いながら、1人だけ目立ちすぎない様に気をつけろよ」
「そうよ。これは四季神さんだけのイベントではないのよ」
「とにかく、みんなで楽しもうよ!!」
その後、古都と美紗と優の3人もソファーから立ち上がった。
楽屋のドアを開けるとイベントの舞台となるホールの方から、既にファン達による声援がわずかながらに聞こえてきた。そんな声援のする方に向かって私達は歩き出した。
そして、ついに、待ちに待ったみんなで作り上げたイベントが始まった。
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