第27話 一緒なら恥ずかしくない

 昨晩から徹夜で行っていたイベントで上映をする映画の編集作業は、朝になりようやく終わった。


 それと同時に、夕方から始まるイベントに向けて少しでも体を綺麗にしておこうという意見から、映像制作部の皆と一緒に、寝る間を惜しんで学校の近くにあるスーパー銭湯に行くことになった。ちょうど朝方は空いていた為、私達以外には客がおらず、私達はその銭湯の露天風呂へと行った。


「うっひょ~っ いっちばんのりぃ!!」


 そう言いながら、古都は身体に巻いていたタオルを勢いよく外し、そのまま目の前の大きな浴槽に向かってまっしぐらに走りダイブをした。


 その後、古都に続く様に、優も湯に浸かり始めた。優の場合は始めから身体にタオルを巻いていない為、そのまま浴槽に浸かり出した。


「はぁ~ 朝風呂は気持ちいいね~」


「だね。徹夜明けの朝風呂は気持ちいい」


 優と古都の2人は、凄く気持ちよさそうに湯船の上で浮かんでいた。


 そんな気持ちよさそうに浮かんでいる優と古都を見ながら、私も湯船に浸かる事にした。優と古都とは違い、裸体を見せる事に抵抗があった私は、例え浴槽に浸かろうとも、身体に巻いているタオルは外さなかった。


「ホント、久々の湯は気持ちいわね。今までの疲れが一気に取れるわ~」


 浴槽に浸かった私は、久々に浸かる湯の気持ちよさから、湯の中で座りながら両足と両腕を思いっきり伸ばした。


「あっ、浴槽に浸かる時はタオルを外さないといけないんだぞ!!」


「そうだよ、香里奈ちゃん!! みんなが浸かる湯なんだから、タオルは外さないとダメなんだよ」


 タオルに浸かったまま浴槽に浸かっていた私を見た古都と優が、タオルを巻いたまま浴槽に浸かるのはマナー違反だと注意をしてきた。


「なっ、なによ!! 別に綺麗なタオルなんだから、別に良いじゃないの!!」


 浴槽に浸かる時に勢いよくダイブをした奴からの注意は、私は素直に聞こうとは思わない。それ以上に、綺麗なタオルなんだから別にいいじゃない!!


「確かに春浦さんと秋月さんの言う通り、浴槽に浸かる時はタオルを外してから入りなさい。それが銭湯でのマナーよ」


 すると、先程の会話をどこからか聞いていた美紗が、少し遅れて私達のいる露天風呂へとやって来た。


「あっ、やっと美紗も来たのね。身体なんて後で洗えばいいのに」


「銭湯は自分1人だけが入る湯ではないでしょ。後で入る人の事も考えて、先に身体を洗っておくのもマナーよ」


 美紗は身体に巻いていたタオルを浴槽の前で外し、私達の目の前で裸体を見せた。


「わぁお!! 毛がボーボー!!」


「ちょっと!! 変なトコ見ないでよ!! それに、言うほど量は多くないわよ!!」


 美紗は顔を赤面にし、恥ずかしそうに両手で自分の股を抑えた。見られて恥ずかしいのなら、始めからタオルを巻いていればいいのに…… 


 そう思っている間にも、美紗もまた浴槽に浸かり始めた。





 そして、しばらく皆で浴槽に浸かっていると、先程からずっと浴槽の上で寝そべった状態で浮いたままの古都が喋り始めた。


「こういったスーパー銭湯で何か動画を撮れたら、結構面白いと思わない?」


 ラッコみたいに浴槽に浮かんでいる状態の古都が突然何を言い出すのかと思ったら、まさかの動画の案であった。


「どんな動画を撮ろうと思っているのよ?」


「それはもちろん、この広いスーパー銭湯を貸し切っての水鉄砲でサバゲーをやろうかと考えてみた。これは意外と面白いんじゃないかと思う」


「ふぅ~ん。面白そうな企画ね」


 古都が思いつきで言った案は、銭湯でサバゲーをやる動画の案であった。


 企画としては面白そうだとは思うけど、その動画が実際に作る事が出来るのかと考えてみると、現実的には難しいと思うのが私の感想。


「確かに、銭湯で何か動画が撮れたらすっごく面白そうだね」


「なっ、そう思うだろ!?」


 古都が思いつきで言っている話に、今度は優が食いついて来た。


「サバゲーも楽しそうだけど、浴槽に浸かりながらのシンクロも面白いと思わない?」


「なんでまたシンクロなんだよ?」


「だってさ、私達ってこの1ヶ月の間、ずっとアイドルみたいにダンスの練習をやって来たじゃない。だから、その経験は活かさない事にはもったいないよ!!」


「そう言えば、この1ヶ月の間、映画撮影の為とか言って、毎日毎日怠いダンスの練習をやらされたな? 今となってもただ疲れただけの思い出」


 私達が映画撮影の為に練習をしてきたダンスが、水中、それも浴槽の中で活かす事が出来るかは別問題として、確かにこの1ヶ月はこのメンバーと一緒になって映画撮影をやったり、ダンスの練習をやって来た。


 そんな1ヶ月も今日で終わる。


 嬉しい面もあれば、少しばかり寂しいと思ってしまうような……


 そんな今までになかった1ヶ月の出来事を振り返りながら、私は熱いお湯が入った浴槽に気持ちよく浸かっていた。


 私がリラックスした様子で気持ち良くしていたところ、突然、古都が湯の中に潜り、水中から両足だけを出し始めた直後、水中から出していた両足を思いっきり下した後、浴槽から勢いよく顔を出した。


「ぷっはぁ~!! 銭湯でシンクロをやるには、底が浅すぎた!!」


 古都が水中から両足だけを出していたのは、実際に浴槽に浸かりながらシンクロが出来るかどうかを試そうとしたみたいであった。それよりも、古都がシンクロの真似をしたせいで、熱いお湯の水しぶきが思いっきり私にかかった。


「ちょっとね、古都!!」


「ん? なんだよ?」


 私に水しぶきがかかった事など一切気にしない古都は、先程と同じ様に浴槽の上でプカプカと気持ちよさそうに浮かんでいた。そんな浴槽の上で浮かんでいた古都は仰向けで浮かんでいた為、裸体の全てが丸見えの状態であった。


「あんたのお蔭で、私にお湯がかかったのよ!! 熱いじゃないの!!」


「って、掴むな!! 痛いだろ!!」


 そんな古都の裸体を見た私は、お湯をかけられた仕返しをやろうと思い、目の前で浮かんでいた古都の股を思いっきり掴んだ。


「そんな浮いてばっかりで隙だらけなのが悪いのよ!! それに仰向けで浮かんでいるせいで、あんたの小さな胸や毛のない股が丸見えよ。古都って裸になると、ホント子供そのものね」


「なっ、なんだよ!! 毛ぐらいあるわ!! ただ、少ないだけで」


 私に股を掴まれた古都は、すぐさま浴槽の中に身体をつけ、股を抑え睨みつけながら私の方を見ていた。


「そんな量、生えていないのと一緒よ」


「なんだよ!! 私の成長は小学生の時に止まってしまった様なものなんだから仕方がないだろ!!」


「そうなの? 見た目の成長が止まるのって、言い方を変えれば永遠の若さを手に入れた様なものなんだから、それはそれで羨ましいわね。古都ちゃん」


 更に私は倍返しをやる為、古都に向けて浴槽の湯を思いっきり両手を使ってかけた。


「なっ、何するんだよ!! 止めろよ!!」


「何よ!! 私はやられたらやり返す主義よ!!」


「それは私だって変わらないよ!!」


 その後、古都もまた浴槽の湯を私に向けて全力でかけて来た為、私もまた古都に同じ様に浴槽の湯をかけやり返した。


「ちょっと!! 水しぶきが飛んでくるから止めなさい!!」


 その結果、周囲に水しぶきが飛び散り、近くにいた美紗や優にも間接的にかけてしまう状態となった。





 その後、熱い湯の水しぶきがかかった美紗に怒られた為、古都との湯の掛け合いは終了となった。


「古都ちゃんは大人しく、私と一緒に湯に浸かっておこ」


「全く、私は子供じゃないぞ」


「子供じゃなくて子供ぽい見た目。そんな古都ちゃんが大好きだよ」


「私の方が誕生日が早いんだぞ!!」


 私との湯の掛け合いっこを止めた古都は優につかまり、優の膝の上で優に抱きつかれる様な状態で2人で一緒に浴槽に浸かっていた。


 今は優が古都に夢中になっている為、相手をしてもらえなくなったので、今度は1人でゆっくりと寛ぎながら浴槽に浸かっていた美紗と話をする為に、美紗がいる方へと近づいて行った。


「そう言えば、浴槽に浸かる時にタオルを外したけどさ、恥ずかしくないの?」


「みんなが浸かる浴槽だったらタオルを外してから入るのがマナーよ。少しの恥ずかしさぐらい我慢しなさい」


 どうやら美紗はマナーの為に仕方なしに我慢をしているという状態だった。 


「なるほどね、マナーの為ね。その心意気に感心するわ!! そのおかげで、小さな胸が丸見えね」


「って、ちょっと!! いきなり何するのよ!?」


 マナーの為とはいえ、内心では恥ずかしいという気持ちを隠していた美紗に対し、私は少しの意地悪をやろうと思い、美紗の背後に回り込み、美紗の小さな両胸を揉み始めた。


「いいじゃない。見せているなら見せているなりの対応をされてもいいじゃないの。小さい胸だって揉まれ続ければきっと大きくなるわよ!!」


「貴女の胸だって小さいでしょ!!」


「私の方がわずかに胸はあるわ!!」


 浴槽の中で私に胸を揉まれ続けている美紗は、困り果て様に嫌な表情をしていた。


 すると突然、美紗は私の背後に回り込み、私の両脇の下に手を入れた後、私の身体は宙に浮く様に立ちあがった。


「いい加減にしなさい!! 浴槽でタオルを外すのはあくまでもマナーの為よ!! 決して見せる為じゃないのだから!!」


「あぁ!? 私のタオルが!!」


 突然、美紗に身体を持ち上げられ、美紗と一緒に浴槽に浸かったまま立ち上がった途端、美紗によって強引に立たされた衝撃で、先程まで私の身体を巻いていたタオルが外れてしまった。


「浴槽に浸かるならタオルぐらい外しなさい!!」


「そんな事言われたって、毛を剃っていて裸を見せるのが恥ずかしいので、隠す為にタオルを巻いていたのよ。そもそも、私はみんなと一緒にお風呂なんて入る気なんてなかったのよ!! 早く放して!!」


「自分がされて恥ずかしいと思う事なら始めからやらない事ね」


 美紗が放してくれない為に、私の裸体は目の前にいた優と古都に全てをさらけ出す状態になってしまった。


「プププ、良い様だな」


「笑わないでよ!! 本当に恥ずかしいんだから!!」


 優と古都に恥ずかしい裸体を見られた私は、今すぐにでもこの場から去りたかったが、美紗に身体を抑えられている以上、動く事が出来なかった。


「ちょっと待ってて、香里奈ちゃん」


 そんな中、優が突然浴槽から立ち上がり、そのまま露天風呂を離れ、室内へと入って行った。優はどこに行ったのかしら?





 その後、しばらく時間が経った頃、優が再び私達がいる露天風呂へと戻ってきた。


「お待たせ~」


「一体、どこに…… って、どうしたのよ!?」


 私達の前に戻ってきた優は先程とは明らかに異なる個所があった。それは先程まであった股の毛が全て無くなっていた。


「あんた、毛はどうしたのよ!?」


「あぁ、これね。香里奈ちゃんとお揃いにしてみたんだよ」


「お揃いって、なんでまた?」


「1人だけ毛が無い事に対して恥ずかしがっているのなら、私がそれと同じ状態にすれば少しでも恥ずかしくなくなるかなと思って、思い切って剃ってみたんだよ」


 優は仁王立ちをしながら、浴槽前に立っていた。


「それに、今日は私達の初めてのイベントがあるじゃない。だから、それに向けての気合も込めてやってみたんだよ!! いっその事、古都ちゃんも美紗ちゃんも気合を入れて剃ろうよ!!」


「嫌」


「そんな恥ずかしい事出来ないわよ」


 優から今晩のイベントに向けての気合の為、毛を剃る様にススメられたが、古都と美紗は即答で拒否をした。


「あんたね…… そんな事して恥ずかしくないの?」


「1人だと恥ずかしくても、友達と一緒ならそんな恥ずかしさもきっと乗り越える事が出来るよ!! だから、香里奈ちゃんも自信を持とうよ!!」


 そう言いながら、優は浴槽の中へと入って来た。


「ホント、優は相当のバカだよ。それも超が付くほど…… あ~ぁ、自分が今まで恥ずかしがっていたのがバカらしく思えてきた」


 優の堂々とした態度を見た私は、今まで気にしていた恥ずかしいという気持ちがちっぽけな事に感じてしまい、今度はタオルを巻いていない状態で浴槽の中で立ち上がった。


「香里奈ちゃん、ついに人前でタオルを外せるようになったのね!!」


「あんただけに恥ずかしい思いはさせない為よ。1人でいるよりも一緒でいる方がいいんでしょ?」


「うん!! 一緒の方がいいよ!!」


「ちょっと!! いきなり何するのよ!?」


 浴槽の上でタオルを巻かずに立ち上がった私を見るなり、優は私に飛びつく様に抱きついて来た。


「せっかくだしさ、ここでみんなで円陣を組もうよ!!」


 その後、優はその勢いのまま、今浸かっている浴槽で立ちながら円陣をやろうと提案をした。


「裸で円陣とか、誰かに見られたらバカみたいじゃないの!!」


「いいじゃない。そんなバカらしさも共有してこそ仲間だよ!!」


「まぁ、円陣ぐらいなら、別にやってもいいか」


 浴槽に立って円陣をやる事に対し、美紗は嫌そうだったが、古都はやろうとしていた為、美紗もその場のノリに合わせようと、仕方なく立ち上がる様子を見せた。


 そして、全員が立ち上がった為、私だけやらないというワケにはいかなくなり、少しばかり恥ずかしい気持ちを抑え、私も皆と円陣を組む事にした。


「誰かにでも見られたら、凄く恥ずかしい格好だわ……」


「気にしたら負けだよ!!」


 それぞれ隣の相手と肩を組んだ後、全員で真下の浴槽に顔を向けた。


「それじゃあ、今晩のイベントに向けて、円陣を組んで気合を入れるよ!!」


 それぞれ肩を組み、円陣を組んだ後、優が掛け声を言った。


「せぇ~の…… フェイカーズ、ゴォッー!!」


 掛け声は完全にフェイカーズ用の掛け声になっているけど、私はフェイカーズのメンバーではない。そんな事を思いながら浴槽でのイベントに向けた気合を入れる為の円陣が行われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る