第17話 一緒に話をした

 最新動画が投稿された翌日の昼休み、私は同じクラスの友達の夏木田千百合なつきだちゆりちゃんと一緒に、校庭にある自動販売機に来ていた。


「優さん、この間の短期バイトの成果は生かせましたか?」


「何とか上手く行けたよ。この間はありがとね、千百合ちゃん!!」


「お礼なんて良いわよ。私だって、短期だけど店のイベントが出来ましたし、何よりも同じ歳の人と一緒にお仕事が出来た事が楽しかったですわ。またいつでも手伝いに来てね」


「ありがとう」


 ジュースを買いながら、私は千百合ちゃんと一緒に短期バイトの話をしていた。


 先日は千百合ちゃんの家の店で運よく短期でバイトが出来たおかげで、お目当てのVRカメラとVRゴーグルを買う事が出来たのだから、こちらだって、千百合ちゃんには感謝がしきれない。


 そう思いながらジュースを買ってから校内を少し歩いたところで、千百合ちゃんは用がある為、ここでお別れをする事になった。


「それでは、わたくしは職員室に用がありますので、ここでお別れですわ」


「そうなの。じゃあ、また教室でね」


 そして、千百合ちゃんは用事があると言い、職員室から近い場所の校庭に着いた時に、私の元から離れた。





 先程まで一緒にいた千百合ちゃんがいなくなってしまったので、1人で座ってジュースを飲もうと思い、私は校庭にあるベンチがある場所へと向かって歩いた。


 そして、ベンチに着いてみると、そこには先着者が既に座っていた。その先着者をよく見てみると、私と同じクラスの香里奈ちゃんであった。


「あっ、香里奈ちゃんだ!! こんなところで何をしているの?」


 私はベンチで1人で座っていた香里奈ちゃんに話しかけると、突然話しかけられたせいなのか、後ろ向きに座っていた香里奈ちゃんはビクッと驚いた。


「なっ、何って!? ただ座っていただけよ!!」


「そうなんだ。1人で座っても退屈だと思うので、私が隣に座って話し相手をしてあげるよ」


「いいよ、そんなの。別に退屈でもなんでもないし」


 香里奈ちゃんが迷惑そうな表情をしながら私の方を見ている中、私は香里奈ちゃんの隣のベンチに座り出した。


 ベンチに座った私は、早速先程買ったジュースを飲む事にした。


 そして、一通りジュースを飲んだ後で、私は香里奈ちゃんにこの間の件を言った。


「香里奈ちゃんの最新動画を観たよ。私達の動画よりもすっごく再生数が多かったね」


「あっ、当たり前でしょ!! あんた達のザコフェイカーズよりもチャンネル数が多いのだもの。そりゃあ、見ている層が多ければ多いほど再生数が多くなるのは当たり前の事よ」


 私が香里奈ちゃんに話しかけると、香里奈ちゃんはどことなく緊張をした様子で言い返してきた。


「やっぱり、香里奈ちゃんの動画は凄いね」


「私は凄いわよ。でも、あんた達の動画も充分に凄かったわ。前回のだけでなくて、今までの動画もそこそこね」


 突然、香里奈ちゃんは前回の動画だけでなく、今までに作った動画も凄かったと少し照れ隠しながら褒めだした。


「でも、初めて部室に来た時は、私達の事をザコUTuberとか言っていたじゃない?」


「アレは、古都をからかう為に言っただけであって、別に古都以外には悪意があって言ったわけじゃないのよ」


「そうなの!?」


「そういうものよ。ああ言って相手を挑発した方が、相手側はヤケになって面白い動画を作ろうとするでしょ?」


 香里奈ちゃんは、私達に面白い動画を作らせる為に、フェイカーズの事をザコUTuberと言って挑発をしていただけだったみたい。そんな挑発に、私達は見事に乗ってしまっただけだったんだね。


 その後、私は香里奈ちゃんが行った挑発行為が少しばかり過激であった事を思い出した。


「私達に面白い動画を作らせる為に挑発するにしても、どうして古都ちゃんに対してあんな意地悪な事をしたの? それとキョウちゃんにも」


「意地悪な事って何よ?」


「古都ちゃんを踏みつけたり、キョウちゃんのスカートを捲ったりと」


 私は、香里奈ちゃんが部室に来て古都ちゃんとキョウちゃんにやった悪行の事を言った。


「アレに関しては、元々古都が悪いのよ。キョウって、あの貧乳のデカ女かしら?」


「そうだよ」


「そう。確かにキョウって人に対しては、少しやり過ぎたかもしれないわね」


 香里奈ちゃんは、キョウちゃんにやったスカート捲りに関してはやり過ぎた行為であったことを認めた。しかし、古都ちゃんを踏みつけた事に関しては、全くの謝罪はなかった。


 その次に私は、なぜ香里奈ちゃんが私達と面白い動画を作らせようとしたのか、その理由を聞いてみた。


「どんな理由で古都ちゃんの事を嫌っているかは知らないけど、嫌っているのなら、どうして私達に面白い動画を作らせようとしたの?」


「それは、同じ学校にいるUTuber同士ってのもあったし、何よりあんた達のザコフェイカーズの動画の編集技術はそこら辺のザコUTuberと違って、少しばかりレベルが高かったからよ」


「それだけの理由で?」


「それ以上にも、他人の力を頼っているグループ系UTuberってのがあまり好きでもないし、他人の力を頼っている古都に、私の実力と凄さを見せつけて、上には上がいる事を思い知らせてやろうと思っただけよ」


 香里奈ちゃんが私達に面白い動画を作らせようと思った理由を聞いた私は、なんとなくグループでUTubeをやっている古都ちゃんに対する嫉妬なのではと思えてしまった。


「結局は、古都ちゃんが羨ましかったのでしょ?」


「別にそんな事ないわよ」


「ウソだ!! グループで楽しくUTubeをやっている古都ちゃんが羨ましいからこそ、嫉妬心が悪い様に出てしまって、古都ちゃんに意地悪をやったんだよ!!」


「はぁ!? あんたバカ?」


 私が頭の中で予想した結論をそのまま香里奈ちゃんに言ったら、香里奈ちゃんは呆れた顔をしながら私を見ていた。


 例え、香里奈ちゃんがそう思っていなくても、きっと心の奥深くではそう思っているに違いない!!


「例えバカと言われても、私は考えを変えないよ」


「もう、勝手にしろ……」


 私の決意を見た香里奈ちゃんは、完全に頭を悩ます様に呆れた様子になった。


 そんな香里奈ちゃんを見ながら私は、次に動画対決の件について聞いてみる事にした。


「古都ちゃんの事が気になるのなら、面白い動画を作っての動画対決じゃなくて、一緒に動画を撮ったりとかしようとは思わなかったの?」


「思わなかったわ。だってザコと一緒にUTubeをやっても、私の利益にもならないし面白くもないし」


 私は、香里奈ちゃんに動画対決ではなく、一緒に動画を撮ろうとは思わなかったのかを聞いてみたが、香里奈ちゃんにはその気は全くなかった。


「そうかな? 誰かと一緒にUTubeをやるのって、凄く楽しいと思うよ。苦手なところを助け合って1つの動画を作るのって、意外と達成感もあるし」


「でもそれって、1人じゃ動画が作れないからこそ、他人の力に頼っている様にしか思えないのよね」


「それでもいいじゃない!!」


「私はそれはあまり好まないのよね。実力のある人と動画のレベルを競って、その人よりも凄い動画を作ってこそ、本当の達成感を感じるのよね」


 香里奈ちゃんのUTubeに対する考えは、私とは全く違っていた。UTubeに対する考え方の違う香里奈ちゃんの話を聞いた私は、私達のグループであるフェイカーズの4人とは異なる別の凄さがあると思い始めた。


「確かに、香里奈ちゃんはフェイカーズとは違う凄さを持っていると思うよ。だって1人で動画の全てを作っているのだもの」


「そう? UTubeを1人でやるのなんて、誰でもやっている事よ」


「香里奈ちゃんはそう言うけど、1人でやるなんて実際は思っているよりもずっと難しいと思うよ」


「そうかな?」


「そうだよ。動画の編集も1人でやって、更には1人で作曲に作詞をやって、更には更には歌ったり踊ったりと、そんな凄いUTuberはなかなかいないと思うよ!!」


 そして私は、香里奈ちゃんの動画を観て思った事をそのまま言った。すると、それを聞いた香里奈ちゃんから意外な返事が返ってきた。


「何言ってるのよ。その程度なんてUTuberなら出来て当たり前の事よ。最も、アイドル系UTuberを名乗るなら、最低でも歌と踊り以外にも自分で作詞作曲ぐらい出来ないとダメよ。それぐらいの事を出来るUTuberなんて、全国にはたくさんいるわ」


「そっ、そうなの!?」


 それを聞いた私はすっごく驚いた。


 この間観た香里奈ちゃんが1人で作ったという動画だけでも凄いと思っていたのに、そのレベルの動画を作れる人達が全国にはたっくさんいるという事に。


「当たり前でしょ!! 今やUTubeなんて世界中の誰もが自由に投稿をしている時代だもの。プロアマ問わず、いろんな人達がいろんなジャンルの動画を出しているのよ」


「そうなんだ。世界って、思っている以上に広いんだね……」


 香里奈ちゃんの話を聞いた私は、UTubeの世界が自分の思っている以上に広い世界であった事を改めて感じ取った。


 その後、香里奈ちゃんは空を見上げながら私に話しかけてきた。


「世界は広くて当然。そんな広い世界だからこそ、大都市でもないごく普通の町に住んでいながらでも、私達の活躍を全世界に発信して、その活躍を多くの人に観てもらう事が出来るのよ」


「なるほど。だからこそ、香里奈ちゃんはUTubeで歌って踊ったりするアイドルになったのだね。アイドルだと一昔前だと大都市にでも行かないとなれなかったもんね。それが今の時代だと、世界中どこに住んでいようがUTubeに自分で撮影をした動画を投稿するだけでアイドルになろうと思えばなれちゃう時代だもんね」


 香里奈ちゃんのいう通り、確かに今の時代だと自分のやりたい事を自由に発信する事が出来る時代である。歌って踊るアイドルにだってなろうと思えば、カメラとパソコンがあればどの場所からでもなれる時代でもある。


「私がUTubeでアイドル活動をやろうと思ったのは、Dー$ディードルの動画を観てからよ」


「ん!? ディードル? ディードルって何?」


 香里奈ちゃんがアイドル系UTuberになろうと思ったキッカケであるディードルという言葉の意味が良く分からなかった。


 すると、ディードルという言葉の意味が分からなかった私を見た香里奈ちゃんは、先程までとは異なり、物凄く怒った顔をやりながら私の顔に近づいてきた。


「あんた、あのディードルを知らないの!?」


「しっ、知らないよ……」


「あっきれた…… ディードルと言ったら、アイドル系UTuberの先駆け者よ。今のアイドル系UTuberはディードルから始まったと言ってもいいくらいよ」


「そっ、そんなに凄いんだ……」


「凄いも何も、ディードルは元々どこにでもいるごく普通の女子高生達だったのよ。そんな彼女達がUTubeでアイドル活動をやった事により、これまでの時代とは違い、芸能人でもないごく普通の女子高生達でもアイドルになれたという事を証明してくれたグループよ」


 香里奈ちゃんは、ディードルというアイドル系UTuberの先駆け者について、歩く語り出した。


「そんなディードルがいたからこそ、こんな私でも日常生活を送りながら、UTubeの動画内だけでのアイドル活動が出来るのよ。ディードルがいなかったら、一般人がUTubeでアイドル歌手になろうなんて考えはなかったわよ。きっと」


「そうなんだ。ディードルがいたからこそ、香里奈ちゃんもアイドル系UTuberになろうと思ったんだね」


「多分、そうかも知れないわね。ディードルに出会う事がなければ、今のアイドル系UTuberとしての私はいなかったし、それに今は動画内だけでも、その時だけ本物のアイドルになったつもりで歌ったり踊ったりしている時が凄く楽しく思うの」


 私は香里奈ちゃんの話でしかディードルの事を知らないが、香里奈ちゃんが憧れるだけあり、少なくとも人を引き付ける事が出来る凄さを持っているグループだという事だけは、話を聞いていて感じた。


「でも、ただ自分の好きな事だけを動画にして投稿していても、それが人気になる事なんかないわ。どんな場所でも結局は実力がない事にはどんな場所で何をやってもダメなのよ。UTubeってのは、才能のない人間がいくら動画を投稿しても、恥さらしのデジタルタトゥーを残すだけの場所でしかないのよ」


 この話を聞いて、どんな時代になっても、人気者になれるのはほんの一握りなんだと思った。


「ディードルも、ここまで成功する事が出来たのは、運だけでなくてそれ相当の才能や実力があったからこそ成功できたのだと思うの。私はアイドル系UTuberとしてやっていくうちに、どうしてどこにでもいる様なごく普通の女子高生であったディードルが、ここまで多くの人を魅力させる事に成功をしたのか凄く気になったの。今の私の目標は、そんなディードルに少しでも追いつこうと思う事。そうすればきっとディードルが成功をした答えが分かると思うの」


 香里奈ちゃんが動画対決を好んでいた理由は、目標にしているアイドル系UTuberであるディードルの実力が少しでも追いつく為の技術力向上だったのかもしれない。だからこそ、フェイカーズと動画のレベルを競う事を望んだのかも。





 香里奈ちゃんと話をしていくうちに、香里奈ちゃんの事が色々と分かって来たという時、突然の校内放送で香里奈ちゃんの名前が呼ばれた。


「なんか私、呼ばれたから職員室に行くね」


 そう言った後、香里奈ちゃんは飛び上がるように立ちだした。


 香里奈ちゃんが職員室に言ってしまう前に、私はどうしても言いたい事を言った。


「香里奈ちゃん。いつか一緒にコラボが出来る様になる日まで、私頑張るから」


「そう。頑張ったらいいと思うよ」


「一緒に動画を撮ればきっと、今まで嫌っていた古都ちゃんとも仲良くなれる日が来るよ」


「そうかしら? 私はコラボよりもどちらが面白い動画を作れるか競う方が楽しめると思うけどね」


 職員室に向かって歩いて行く香里奈ちゃんに、一緒にコラボが出来る日が来るまで頑張る事を伝えると、それを聞いた香里奈ちゃんは私の方を見てニコッとほほ笑んだ。


「とにかく、私を楽しませてくれるなら応援をするわ」


 その後、香里奈ちゃんは職員室へと向かって歩いて行った。


 今日の昼休みの会話から、私は香里奈ちゃんの様にUTuberをやる上で、ひとつの目標が出来上がった。とにかく、しばらくはこの目標を達成する様に頑張っていこうと思う。

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