第6話 この日の部活は報告会
この日の部活の活動は、前回に投稿をした動画に関する報告会である。
この部活での報告会は、主に動画の再生数や評価数やコメント内容、そして動画の出来について話し合う場である。
今回の話し合う対象となる動画は、映像制作部の部員達で遊んだ海外製のボードゲームの時の動画である。
そして、報告会を行うに辺り、映像制作部の部長である古都がホワイトボードをソファーの隣に持って来て、その隣に立ちだすと細く長い棒を持ち出し、小さな体つきにも拘らず、部長らしくチームのリーダーの様な振る舞いを見せ始めた。
「さぁ、今から最新動画の報告会を始める訳だが、今回は色々と言いたい事がある!!」
「一体、言いたい事ってなんだよ?」
「色々とあるのがだ、まずはサムネの件!!」
サムネの件? あぁ、そう言えば優に作らせたっけな、サムネを。優が変なサムネを作らない様にと、一応、見守ってはいたんだけどな。それに投稿する際には古都もOKを出していたし、一体古都は何が気に入らなかったのだろ?
「そのサムネがどうしたんだよ?」
「ん~ 改めてチャンネルページを開いて見た時に動画のサムネを見ていたら、今までの動画のサムネとの違いが大きく出てしまっていて、逆に違和感があるんだよな」
確かに言われてみると、先日優が作ったサムネは今までにキョウが作っていたサムネと比べると違和感があると言われてもおかしくない出来であるのは間違いない。
そんな中、サムネに違和感があると言われ、そのサムネを作った張本人である優が、古都の方を見ながら喋り始めた。
「違和感があるって言うのは、それは私の作ったサムネがいっちばん輝いて見えていたって事なの?」
「なんでそう思うかな? 大体なんでサムネに私の顔が貼られてあるんだよ!!」
「それは、古都ちゃんがすっごく可愛いからだよ!!」
「それだけの理由でやったのかよ。さすがに恥かしいわ!!」
「どうして恥かしがるのよ。古都ちゃんは主役だから胸を張るべきだよ」
「なんか、私の顔の隣の文字のせいで、私がバカみたいに見えてしまうだろ」
古都が優の作ったサムネに対して違和感があると言ったのは、古都自身の顔だけがアップで貼られてしまっていて、同時に『すごーい』やの『たーのしー』などと言ったセリフが古都の顔の隣に書かれていたからだろう。
完成当初、古都はそのサムネを見た時に大した反対はしなかったが、動画が公開された後で改めて見た時にそのサムネの恥かしさに気が付き、今更ながら優の作ったサムネにボツを出したい気分だが、投稿してしまった今ではすでに手遅れな状況なんだろな……
「この調子だと、次からは今まで通りキョウにサムネを作ってもらった方が良いかな?」
「そっ、そんなぁ~ せっかく私の役割が出来たと思っていたのにぃ~」
どうやら優が作ったサムネが気に入らなかったあまり、古都が優をサムネ担当から外そうと考えている。
せっかくだし、ここは1つ、助言を入れて何とか外されないようにしてやろう。
「ほらほら古都、せっかく優がその気になっているんだから、ここはいっその事、優にサムネ担当をやらせてあげたらどうかな?」
「キョウは優が作る変なサムネを見たいのかよ?」
「そりゃあ、今は変なサムネしか作れなくても、経験を重ねていくうちにいつかは凄いサムネが作れるようになるさ」
「そんなものかな?」
「そうだって。この際、サムネ作りは優で良いんじゃない?」
「ん~ 今まで担当のなかった優にはサムネ担当をあげるくらいいいかな」
「ホントに!!」
「あぁ、本当だよ」
「やったぁ!! これで完全に私がサムネ作りの担当になれたー」
優は凄く嬉しそうに、飛び跳ねながら喜んでいた。
「これもキョウちゃんのおかげだよ。ありがと」
「いやっ、ボクは別に何もしてないよ」
「そんな事ないよ。これからは良いサムネが作れるように頑張るから楽しみに待っていてね」
「あぁ、楽しみに待っているよ」
これで、とりあえず優が完全にサムネ作りの担当だと言う事が決まった。それは同時に、今まで1人で行っていたサムネ作りの担当が消え、仕事内容の1つが減った。
その後の報告会は、動画のBGMの使われ方が良かったというコメントに関する内容であり、これを発表している時の古都は先程とは異なり、ニコニコとした表情で喋っていた。
BGMの使われ方が良いという事はイコール、その場面で流れているBGMが見事に一致しているという事である。
BGMが流れる場面に関しては、今回は完全に美沙に言われるがまま作り上げた場面だった為、結果からして、BGMの使い方のセンスに関しては完全に美紗の勝ちという事になってしまった。
動画編集に自信を持っていたキョウにとっては、少しばかり悔しい思いをした結果であった。
そして、BGMの使われ方が良かったという報告が終わると同時に、今回の動画に関する報告会は終了する。
この日の部活動は報告会だけである為に、報告会の終了と共にこの日の部活動も終了となる。
「このあとどこに行く?」
「ん~ そうだな…… せっかくだし、皆でハンバーガーでも食べに行こうよ!!」
「いいね!!」
部室を出る際に、優と古都の会話から、この後ハンバーガーを食べに行く事が決まった。
「もちろん、美沙とキョウも来るだろ?」
「そうね、せっかくだし行ってみようかしら?」
「まぁ、まだ時間はあるし、一緒に行くのもいいね」
「じゃあ、決定だね。この後の予定は」
特に断る理由のなかったキョウは、古都と優と美沙と一緒に部活帰りのハンバーガー屋に行く事になった。
「着替えで少し時間がかかりそうだから、先に校門に行っておいてよ」
そして、美沙が部室を出たのを部室の中から確認をしたキョウは、部室の入り口で待っている古都と優と美沙に先に校門に行ってもらう様に声をかけた。
「それもそうだね。じゃあ、先に校門に行っているから、早く着替えろよ」
そう言った後、古都は優と美沙と一緒に部室を離れ、校門に向かって歩いて行った。
そして、部室のドアを閉めた後、キョウは部活中ずっと着ていた制服のブレザーを脱ぎだし、着替えを始めた。
「さてと、みんなが待っている事だし、急いで着替えないとな」
ブレザーを脱いだ後、今度はリボンを外し、それと同時にカッターシャツも脱ぎ出した。
その次はスカートを脱ぎ、スカートの下にはいていた黒タイツも脱いだ。そして、リボンと共に髪に付いているサイドテールの部分を引っ張り、部活中ずっと付けていたウイッグを外した。
「ふぅ~ これでキョウちゃんとはおさらば」
先程まで着ていた服を脱ぎ終えた後、キョウは灰色のボクサーパンツを一枚だけの状態で、部活中の疲れを取るかのように勢いよく両腕を伸ばした。
「しっかし、部活中だけとはいえ、まだまだこの格好にはなれないな」
床に落ちている、先程脱いだブレザーやスカートを見ながら僕は、着なれていない制服を見て呟いた。
こんな感じで、1人しかいない部室でのんびりと制服を脱いでいた時に、突然、部室のドアが開いた。えっ!? 誰かが入って来た?
「夏川さ…… って、キャアァァァ!!」
突然部室のドアを開けて来たのは、同じ映像制作部の美沙であった。なぜ勝手にドアを開けた!? こっちは着替え中だよ!!
美沙が突然なぜノックもせずに部室のドアを開けたのかは知らないが、この時の僕には身体を隠すタオルもなく、ただ顔を赤面にしながら驚くしかなかった。
「いっ、いきなり入って来るなよ!! まだ着替え中だよ!!」
「着替えをするなら、カギぐらい閉めておきなさい!!」
そう言った後、美沙は持っていたカバンを思いっ切りキョウに向けて投げ出した。
「イデッ!!」
美沙が投げたカバンは、キョウの顔面に当たり、その勢いからキョウは部室の床に倒れ込んだ。
その後――
しばらく時間が経ち、現在は校門を出た先にある川原が見える道を、映像制作部の部員と一緒に歩いていた。
「全く、美沙も入って来る時はノックぐらいしてよね」
「だって、作成中のBGMが入っているUSBを部室に忘れてしまって、つい」
どうやら、美沙はノックもせずに突然部室を開けた事に関しては反省をしているようだ。
「でもね、いつどんな事があるのか分からないのですから、着替えをやる時はしっかりとカギをかけて来なさいよね!! 夏川君」
「わっ、わかったよ」
しかし、カギをかけずに着替えを行っていた事に関しては、美沙は怒っていた。
僕が部室で着替えを行っていたのは、部活中は古都や優や美沙と同じ女子の制服を着ている為である。
同時に、この女子の制服は僕にとっての部活でのユニフォームそのものなのだ。
――なぜ僕が部活中は女子の制服を着ているのかと言うと、フェイカーズのイメージを可愛い女子高生4人組にするという古都のもくろみの為に、男である僕が女の子の格好をさせられているのである。
最も、男の格好をしていても女顔+小柄で女子にしか見えないと言う理由もあり、古都や姉である顧問の先生から女子の格好を強いられてしまったのである。
そもそもなぜ古都が4人目の女子部員を入れずに僕に女装させたのかには理由がありる。
それは、部活紹介後に優と一緒に仮入部をしてきた優の友達である夏木田千百合の勧誘を僕が行わなかった為である。
そのせいで千百合が入部をする事もなく、部活動に昇格をするのに必要な人数である4人に達する事が難しくなった為、僕が男の娘になってフェイカーズのメンバーに入るのと同時に映像制作部に入部をする事になった。
女装をしていると、リスナーの誰もが僕の事を本当は男だとは思わないせいもあり、僕はそのままフェイカーズの一員となり、今では部活中は完全に女装をしなければならなくなってしまった。
そんな僕がなぜ古都と一緒にUTube活動を行っているのかと言うと、入学早々、古都から散々しつこくUTube活動の協力を求められた為、最低限の手助けを行ったのが全ての始まりであった。
最もなぜ女子である古都が男である僕にUTube活動の協力を求めてきたのかと言うと、かつて僕は『マイスターズ』という、男女5人組のグループでUTube活動をしていた為である。
ただ単に活動をしていただけでなく、チャンネル登録者数が10万人を超え、今後が期待された若手UTuberグループの1つだったからである。
そんなマイスターズは僕が中三の夏頃にメンバーの1人が脱退した事をきっかけに、残りのメンバー達も新しい事に挑戦する為に別々の道を歩む事になり、結果、秋が終わる頃には完全に活動が停止してしまった。
そして入学式の時、そこに目を付けた古都により、僕は古都のUTube活動に付き合わされる事になった――
僕がフェイカーズ4人目の女子高生であるキョウになる経緯を振り返りながら歩いていると、突然、古都が僕の方を見ながら喋り始めた。
「せっかくだしさ、今日は京におごってもらおうよ!!」
「えっ、なんでそうなるの!?」
「お前が部室のカギを閉めずに着替えていた不注意さの罰だな」
「それだけの理由かよ!!」
どうやら、カギを閉めずに着替えを行っていた為だけに、ハンバーガーを奢らなければいけなくなってしまったようだ。
「それ、いいね。今日は京君のおごりだぁ!! おごりだから、たっくさん食べないと!!」
「ちょっと、優……」
「奢ってくれるの? それは、凄く気前がいいわね」
「みっ、美沙まで……」
奢りと聞いた後、優と美沙までもが京の方を見ては、嬉しそうな表情をした。
「じゃあ決まりだね。京のおごりだから、うんと高いハンバーガーでも食べないとな」
「そうだね。早く行こうよ」
「私も遠慮せずに、たくさん食べよっと」
「ちょっとみんな、勝手に話を進めないでよ~」
勝手に京の奢りと決めた古都は、優と美沙と一緒に凄く楽しそうな様子で京に喋りかけてきた後、先を急ぐように走り出した。
どうやら、今日は全員分のハンバーガー代を出さないといけない事が完全に決まったようだ。
こうして、財布の中に入っているお金が一気に減ってしまうというガッカリ感の中、京は先を楽しそうに歩く古都と優と美沙の後ろを追う様に走り始めた。
もし、僕がマイスターズのメンバーでもなく、動画編集が上手くもなく、小柄+女顔でなければ始めから古都から声すらかからなかっただろう……
そうすると、今とはまた違った高校生活があったのかも知れない。
以前こそはそちらの方が良かったと思っていたが、今となっては、こう自然に男と女子数人が友達感覚でごく自然に恋愛を抜きで会話をやる日常に関し、これはこれでアリかなと思ったりもしてしまう。
その証拠に、この映像制作部の部員同士では、同性の友達感覚で会話をやるのはごく日常の事である。これも、部活中は女子の格好をやっているおかげなのだろうか?
そう思いつつ、女子3人+男1人という肩身の狭い中、今日もまたいつもの様に部活帰りの会話を楽しんでいた。
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