第5話 私の役割

 今日も放課後、いつもの様に部室にはみんなが集まって、自分の担当の役割をこなしている。


 私のお気に入りである人形のように可愛い古都ちゃんは、1人でスマホを見ながら次の動画のネタを考えているみたいだし、美沙ちゃんはいつも通り、1人でイヤホンを耳に当て曲を聴きながら、ノートパソコンで編集作業をしていた。


 そして、キョウちゃんの方はと言うと、パソコンに向かいながら別の動画の制作を行っていた。


 普段は、皆でお菓子を食べながらお喋りをしてすっごく楽しいのだけれども、動画のアップ前になると、みんなすっごく忙しそうに編集作業等に没頭してしまう。そうなってしまうと、まだ動画制作の初心者である私は、1人だけ特に役割がないので、すっごく退屈になってしまう。





 その為、私はこんな退屈を脱却する為、まずは私の隣に座っている古都ちゃんに話しかけに行く事にした。


「ねぇねぇ、古都ちゃん。今日もすっごく面白い話があるんだよ」


「今は忙しいから、また後でな」


 古都ちゃんは私の予想通り、今日は新作のネタ探しですっごく忙しい為、私の相手をしてくれない。忙しい以上、私は更なる秘策を使い、古都ちゃんが私に気を振り向かせる様、ある必殺技を使う事にした。


「んもぅ~ そう言わずに聞いてよ!!」


「わぁっ!! 何するんだよ!!」


「人形の様に可愛い古都ちゃんを、ギューと抱きしめているの」


 私の必殺技である秘策とは、人形に抱きつくかの様に古都ちゃんを抱きつく事である。この様に抱きつく事により、忙しそうに新作のネタを考えている古都ちゃんもきっと、私が1人ですっごく寂しがっているのを分かってくれて、私の遊び相手になってくれるはず。


「古都ちゃんの髪と言い、この小柄な身体…… そして、このいつまでも突きたくなるプ二プ二のほっぺ。古都ちゃんは可愛いとこだらけだよ!!」


「あぁ~ もう…… 早く離れろ~」


「いやだ!! 古都ちゃんが私と遊んでくれないと、私は古都ちゃんを絶対に離さない!!」


「わっ、私は、次のネタを作らないといけないんだ!! 離れろ~」


 古都ちゃんは、私から離れようと必死であったが、私は古都ちゃんを離すつもりはない。なぜなら、私は古都ちゃんと一緒にお話しをして遊びたいからだ。と言うよりも、古都ちゃんを抱いていると、すっごく気持ちがいい……


 そう思っている間に、古都ちゃんはスカートのポケットに手を入れ、そこから棒付の飴玉を取り出した。


「ほらっ、これをやるから、少しは大人しくしていろ」


「ふごっ!!」


 古都ちゃんは私の口の中に、棒付の飴玉を入れてきた。この飴玉は、ミックスフルーツの味で、これがまたすっごく美味しかった。


 この美味しい飴玉を口に入れた私は、美味しさのあまり、つい古都ちゃんを離してしまい、幸せそうな顔をやりながら両手でほっぺを押さえてしまった。


 その隙を見た古都ちゃんは、すぐさま私の元から離れてしまった。


「ふぅ~ やっと離れられた」


「あぁ!! 古都ちゃんが離れてしまった!!」


「何度も言うけど、今日の私は忙しんだよ。その飴玉をあげるから、今日は1人で過ごしな」


「そっ、そんなぁ~」


 私の元から離れた古都ちゃんは、早速スマホを手に持ち、次の動画のネタ探しを始めた。


 どうやら、今日の古都ちゃんは次の動画のネタ探しですっごく忙しいので、とりあえず今日は古都ちゃんを構うのは止めにしよう。古都ちゃんと話が出来ないのは残念だけど……





 そんな私は、次に目の前に座っている美沙ちゃんに話しかける事にした。


「み~さちゃん、何してるの?」


 私は、イヤホンを耳に当てて音楽を聞いてる美沙ちゃんの顔に近づいて話しかけた為、美沙ちゃんはすぐに私の声に反応をした。


 そして、耳に当てていたイヤホンを外し、私の方を見た。


「どうしたのよ、秋風さん?」


「だぁかぁらぁ~ 今、何をしているのかなって?」


「見たら分かるでしょ。BGMを聴きながら編集作業をやっていたのよ」


「そのBGMって、次の動画で使うの?」


「そうよ」


「そうなんだ。でもどうしてBGMを聴きながらの編集なの?」


「それは単に、動画内でBGMや効果音を流す場面で、どのBGMや効果音を使うかをより集中して厳選する為よ。あと、それ以外の理由としては、部室の場所柄、あまり大きな音を出せそうにないってのもあるしね」


「なるほど!!」


 美紗ちゃんから、イヤホンを付けて編集作業を行っている理由を聞けた。


 そう言えば、美紗ちゃんは自分でオリジナルのBGMを作ったりしていると言っていたし、もしかしたら、次の動画でも新曲のBGMが流れるかも知れない。


 そう思った私は、早速、美紗ちゃんに真相を聞いてみた。


「ねぇ、そのBGMって、美紗ちゃんが作った新曲なの?」


「そうよ。それがどうしたの?」


 美沙ちゃんは私の予想通り、次の動画で新曲のBGMを流すつもりであった!! 


 私の予想が見事に的中!! 


 そうだ、この際だし美沙ちゃんの新曲を聞かせてもらおう!!


 そう思い、私は美沙ちゃんに、その曲が聞けるか頼み込んでみる事にした。


「ねぇねぇ、美沙ちゃん。私にもそのBGMを聞かせてよ」


「まぁ、他人の感想も聞きたいところだし、いいわよ」


「やったぁー!!」


 結果は、あっさりとOKを貰えた。やっぱり、頼んでみるもんだね。


 そして私は、美沙ちゃんからイヤホンを借り、そのイヤホンを耳にはめた。


「ん~ 美沙ちゃんが作るBGMはいつもいいね~」


 私の言葉通り、美沙ちゃんの作るBGMは、いつ聞いても凄く良い音楽だった。

そんなBGMも演奏が終わると、私は耳にはめていたイヤホンを外し、美沙ちゃんにイヤホンを返した。


「美沙ちゃん、新曲も凄く良かったよ!!」


「そう、ありがとう。でっ、BGMの感想は?」


「感想? 凄く良かったよ!!」


「それだけ? もっと詳しく、具体的な感想は言えないの?」


「えぇ!! 凄く良かった以外に?」


 イヤホンを返した後、美沙ちゃんから曲の感想を細かく具体的に言う様に求められてしまった。


 これは大変だ!! 


 作文でも、ここまで詳しく書けと言われると、そう細かく書くのが苦手な私にとっては、この質問は返答が出来ないほどの高難易度の質問であった。ただ、良かったという回答ではダメなの!?


「そうよ、新曲を聞いたのなら、凄く良かったと言う以外の感想ぐらい言えるでしょ?」


「そっ、それは……」


「どうなの? 細かい感想は言えるの?」


「え~と…… 今までに聞いたBGMよりも良かった……」


 私は、凄く考えながら美沙ちゃんが作った新曲の感想を言ってみた。


「もういいわ」


「えっ!?」


「私が間違っていたわ。秋風さんに細かく具体的な感想を求めた私がいけなかったわ」


「と言うのは、つまり?」


「言葉通り、細かく具体的な感想は言わなくていいってこと」


 突然、美沙ちゃんは私に対し、細かく具体的な感想を求めなくなった。


 ある意味助かった気持ちではいるが、これはこれで少しばかり寂しい気持ちでもある。


「でっ、でも…… 私は考えて考えて、細かく具体的な感想を言うよ」


「そんなのいつになったら言えるか知ったものではないわ。そんな時間を待つぐらいなら、もっと出来のいい新曲を考えている方が、まだいいわ」


「あぁ!! 美沙ちゃ~ん」


 そう言って美沙ちゃんは、再び両耳にイヤホンをはめ、ノートパソコンの画面を見ながら、再び編集作業を始めた。


「も~う」


 美沙ちゃんったら、相変わらず厳しいんだから……





 この忙しい中、古都ちゃんと美沙ちゃんにはほとんど構って貰えなかった。


 こんな時、1人だけ何もやる事がないと言うのは、凄く退屈だ!! 


 この際、いっその事、普段から忙しそうであるキョウきゃんにも話しかけてやる!!


 私は、無理を知りつつも、壁に体当たりをやる気持ちで、パソコン席に座り、動画の編集作業に没頭しているキョウちゃんに話しかける事にした。


「キョウちゃ~ん」


「ん? どうしたんだよ、優?」


「私もそろそろ、キョウちゃんの様な編集作業をやってみたいかなと思って?」


「いきなり何言ってんだよ?」


「だから、私がキョウちゃんの編集作業を手伝うって言ってるの!!」


 私は以前から読んでいた動画の編集作業の本の成果を試そうと思い、キョウちゃんに動画の編集作業の手伝いをやるつもりで、編集作業は出来ないか聞いてみた。


 自分だけ何もやる事がないからと言って、ただ単に暇つぶしに話しかけに行くのなら、相手に構って貰えない確率は高い。でも、手伝いをやるとなれば、きっとその答えも大いに違ってくるはず。手伝うと言われた相手は、絶対に喜ぶはずだ…… そう、私は思っていた。


「いいよ別に」


「えっ!?」


 私の予想とは大きく異なり、キョウちゃんはあっさりと断った。


 私だって、編集作業の本を読んで勉強をしたんだから、動画の編集作業は出来るはずだよ!! そんなありがたいお願いを断るなんて、ぶぅ~!! 


 私は子供の様に拗ねた表情を、キョウちゃんに見せた。


「私が手伝ったら、キョウちゃんは楽が出来るんだよ!! いっつもいっつも1人で編集作業をしているのを見ているから、それぐらいは、分かっているんだもん!!」


「そうか、そうだったのか。その気持ちは凄く嬉しいよ」


「ホント!! じゃあ、編集作業を手伝っても良いってこと?」


 この時、私はキョウちゃんの手伝いである動画の編集作業が出来ると、本気で思ってしまった。


「いやっ、優に手伝ってもらうのは、動画の編集作業ではないよ」


「えっ!? じゃあ、何を手伝うの?」


 私は、本当に疑問に思った。


「そうだなぁ~ この際、優にはサムネでも作ってもらおうかな?」


「サムネ?」


「うん、サムネイルだよ」


 サムネイル? 聞いた事のない言葉が、キョウちゃんの口から出てきた。


 キョウちゃんは、そんなサムネイルを私に作ってもらおうと言って来たのだけれども、私は、サムネイルが何であるか全くイメージが湧かなかった。


「その、サムネイルって、何なの!?」


「サムネイルと言うのは、動画の画像と言ったら良いのかな? 例えば、UTubeを開いた時に動画の一覧が出るだろ。その時に表示されている動画のイメージ画像だよ」


「イメージ画像?」


 キョウちゃんが言うには、サムネイルとは動画のイメージとなる画像の事なのだけども、まだパッとしたイメージが湧かなかった。


「そう、サムネとはイメージ画像だよ」


「そうなんだ。でも、サムネを作るって言っても、どんな風に作ったら良いの?」


「その動画を1枚の画像で説明する様な感じかな?」


「けっこう難しそうだね」


「まぁ、難しく考えずに作ってみたらいいよ」


「そうかな? じゃあ、頑張って作ってみるね」


「その勢い」


 キョウちゃんの独断の決断ではあるものの、私にも、この部活内での役割が決まったようである。


 私のこの部活内の役割は、サムネと言う、動画のイメージとなる画像作りである。





 そして早速、私はキョウちゃんと席を代わり、パソコンの前に座って、動画のサムネ作りを始める事になった。


「さぁ、良い画像を作るぞ!!」


 私は凄く張りきった様子で、パソコン画面を見つめた。


 当初の予定とは大きく異なり、動画の編集作業はまだまだやらせてもらえなさそうだが、私にも古都ちゃんや美沙ちゃんやキョウちゃんの様に、自分の担当する役割が出来たみたいで凄く嬉しくなった。


 このサムネ作りの担当が、完全に私の担当になる様に、しばらくは頑張らないといけないね。これで以前の様に、1人だけ部室内で退屈って事にはならなくなるでしょう。


 そして私はキョウちゃんの指示の元、動画のサムネを作り始めた。

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