第4話 考えが合わない2人

 この日の放課後も、キョウは部室にあるパソコン前に座って、動画の編集作業を行っていた。


 そのすぐ近くの場所では、古都と優がテーブルの上にたくさんのお菓子を広げて、楽しそうに話をやりながらソファーに座って過ごしていた。


「キャハハハ!! そんなのがいるのかよ!!」


「そうだよ。すっごいまんまるの雪だるまみたいな犬がいてね」


 古都と優がどんな話をしているのかは知らないが、1人で編集作業に没頭していると、大きな声で会話をされていると、嫌でも耳にその会話は入って来る。


 そんな2人とは異なり、キョウは動画の編集作業に追われている為、古都と優と一緒にお菓子を食べながら楽しそうに話をして過ごすのは、しばらくは出来そうにないな…… 


 でも、少しの間の休憩なら大丈夫だろう。そうだ!! ここのキリの良いところまで終われば、休憩を踏まえて古都と優の会話に混ざりながら、一緒にお菓子でも食べよう!! 


 そう思いながらキョウは、自分で決めたキリの良いところまでの動画の編集作業を進める事にした。





 そう思った矢先、美沙が遅れて部室に入って来た。


 美沙は部室に入って来るなり、楽しそうにお喋りをしながらお菓子を食べていた古都と優を見るなり、大きな声で叱った。


「ちょっと、大きな声で話をしながらお菓子ばっかり食べていないで、真面目に次の動画のネタでも考えたらどうなの!?」


 美沙の叱り声を聞いた古都と優は、先程まで食べていたお菓子を喉に詰まらせる勢いで、突然の出来事にビクッとした様子で驚いた。


「いきなりなんだよ、美沙!!」


「そうだよ、すっごく驚くじゃないの!!」


 突然、美沙に叱られた古都と優は、美沙の方を見ながら文句を言い始めた。


「一体、何やっていたのよ? ここは部室でしょ?」


「知ってるよ、それぐらい」


「私だって、知っていますよ」


 美沙に怒られている古都と優は、頬を膨らせるような表情をしながら怒られていた。


「部室にいるのだったら、ちゃんと部活をやりなさい!!」


「今、こうして部活をやっていたじゃない!!」


「お菓子を食べてお喋りをしている、どこが部活と言うのかしら?」


「それだけでも、充分に部活らしいじゃないか!!」


「ちっとも部活らしくないですわ!! 最低でも、所属している部活動の活動ぐらいはやりなさいよね。映像制作部は、お菓子を食べながらお喋りをする部活なの?」


「そうだよ!! そうだよ!! 映像制作部は、動画制作を行う以外は、楽しくお菓子を食べてお喋りをする部活なんだよ!!」


 美沙に怒られている古都は、まるで親に怒られてダダをこねている子供の様に見えた。それに関しては、古都があまりにも小さく子供っぽい外見をしているせいだろう?


 それはそうと、部室で楽しくお喋りをやりながらお菓子を食べている部活って、昔、どこかのアニメであったような気もしないな…… 


 古都はそんな部活でも作りたかったのかな?


 先程から編集作業を止めてその様子を見ていたが、少しばかり真面目な性格である美沙の説教は、まだ続いていた。


「お菓子を食べてお喋りをしたいのであるのなら、部室を出て、ファミレスやカフェにでも言ったらどうかしら?」


「うぅ~ 何を言うか!! この部活の部長は私なんだぞ!! 部長が一番偉いんだぞ!!」


「そうだそうだ!! 古都ちゃんの言う通りだ!!」


「秋風さんまで、春浦さんの影響は受けないの!!」


 美沙の説教に対して文句を言っているのは、古都だけでなく優も言っていた。最も、優の場合は、古都の意見をそのまま鵜呑みしている様にも見えるが……


 古都と優の文句に対し、美沙も負けずにと言い返していた。


「それに春浦さん、自分で部長と言うのなら、もっと部長らしい事をやったらどうなの!!」


「十分にやっているよ!!」


「お菓子を食べてお喋りをしているだけのどこが、部長らしいと言うのかしら?」


「私は、ただ何も考えずにお菓子を食べながら楽しそうにお喋りをしていたわけではない。現にこうしている間にも次の動画のネタの1つや2つぐらいは考えていたんだよ!!」


 古都は美沙に対し、ただ何も考えずにお菓子を食べながらのお喋りをしていたわけではなく、その会話の中から、次の動画で使えそうなネタを考えている様な事を、まるで言い訳を言う様に言った。


 そう言えば古都は、前回にも似た様な事を言っていたな。一件、何もない日常から動画のネタを考えていると。本当に考えているかなんて、分からないものだけど……


 それはそうと、さっきはキリの良いところまで終わった後で休憩をとろうと思っていたけど、無事に休憩は取れるのだろうか?


 そう思いながら、キョウはパソコンの置いている席から編集作業を止めたまま座り、古都と優と美沙のやり取りを見ていた。


「あぁ、も~う!! 美沙はどうしてこう頭が硬いんだよ!!」


「私はちっとも硬くなんかないわよ!! あなた達がだらけ過ぎているから注意しているだけでしょ」


「その行為が、硬いんだよ!! 美沙は甘いモノを食べて、少しは頭を軟らかくしたらどうなんだ!?」


「そんな事、言われる筋合いはないわ」


「そう言わずに、ほ~ら、ここにすっごく甘い海外製のチョコレートがあるんだよ。ほらっ、その口を大きく開けて、このチョコレートを食べるんだ。そうすれば、そのすっごく硬い頭もトロトロに溶けて凄く軟らかい頭になるだろ……」


 古都はそう言いながら手に持っていた板チョコの紙を破り、むき出しとなった茶色のチョコレートを、美沙の口元へと近づけた。


「ほらっ、美沙ちゃん、その美味しいチョコレートを食べて、頭を軟らかくするんだよ」


「ちっ、ちょっと!! 秋風さんまで何をしているの!?」


 それと同時に、優が美沙の後ろに回り込み、美沙の両肩を押さえ、美沙を逃がさない様に押さえた。


「さぁ、今すぐにその甘いチョコレートを食べて、硬い頭を軟らかくするんだ!!」


 古都と優は、同時に美沙に対し、同じセリフを言い放った。それと同時に、古都が手に持っていた板チョコを、美沙の口の中に突っ込んだ。美沙は口の中に入ったチョコを、何言わぬ顔でモグモグと食べ始めた。


 そして、チョコレートを噛み終え、飲み込んだ後で、古都の方を見ながら一言言った。


「いっ、意外と甘いじゃないの……」


「だろ~ 私の言う事には間違いはないんだよ」


 チョコレートを食べた後、口をハンカチで拭きながら古都の方を恥かしそうに見ながら美沙は、古都が強引に食べさせに来たチョコレートが甘い事を認めた。


「でもね、こういう事はやるものではないわよ」


「はいはい、わかったわかった」


 その後、美沙はチョコレートを強引に食べさせた事を、古都に注意をした。一体、何をやっているのやら……





 その後、美沙は古都と優に静かに話をする様注意をした後、カバンをテーブルの上に置いた。


 そして、美沙はキョウのいるパソコン机の方にやって来た。


「夏川さん、動画の編集の方は進んでいるかしら?」


「見ての通り、この調子だよ」


 美沙が動画の編集の進行状況を確認しに来た為、キョウは美沙に編集作業を行っているパソコン画面を見せた。


 キョウの編集作業が終われば、最後に美紗がほぼ無音の動画にBGMや曲を入れたり、動画内の音声の調整を行ったり雑音を消したりとする編集作業を行う為、事前に動画の確認にでも来たのだろう? 


 ちなみに、美紗が編集作業を行う時は、部室内に置かれているパソコンではなく、自分のノートパソコンで行っている。ハイテク機よりも使い慣れている方が良いのだろう。


「なるほどね、そろそろ夏川さんの作業は終わりそうね」


「だろ。この調子だと、今日中には終われそうだよ」


 編集作業の成果を、キョウは自信気に美沙に見せつけた。


 そんな美沙は進んでいる編集作業の画面を見て嬉しそうな表情をするのかと思っていたのだが、どうも美沙の表情は嬉しいとは正反対の表情であった。


「それよりも夏川さん、この場面の演出はなんなの?」


「何って?」


「この場面に私がイメージしている曲は合わないと思うのよ。だからこの場面は私の言う通り訂正するべきよ」


 美沙が嬉しそうな表情をしなかったのは、どうやら動画内のある場面が自分のイメージと異なり、それが気に入らなかった為であると考えられる。


 最も美沙は、フェイカーズの動画中に流れるBGMの厳選だけでなく、自分で曲の制作も行っている為、自分で作った曲には自分なりのこだわりってのがある。


 その為、今回の動画の編集作業中の画面を見た時に、自分で作った曲が使われるであろう場面の演出に納得が出来ず、ついつい指図が出たのだろうか?


 それはともかく、いつも動画の編集作業を行っているキョウもまた、美沙の指図を丸々受け入れる気はなかった。


「そう言うけどさ、ボクはボクなりに自分で完璧だと思った演出を作り上げただけだし、なによりも古都から渡された脚本を元にして作ったんだから、フェイカーズの動画としてはこの演出でいいと思うよ」


「それは夏川さん、あなただけの考えですよね?」


「そうだけど、それが何か?」


「私は前から夏川さんの作る動画を何度も拝見していたけど、いろんな場面での演出が、どうも私が自分で作ったり、フリー素材から厳選したりするBGMのイメージとは違うのよ」


 美沙は自分で作っている曲の使われ方に納得が出来ず、キョウに文句を言った。

そんな美沙に負けずとキョウもまた美沙に対し、文句を言った。


「そう言うけどさ、ボクだって編集作業をやっていれば誰よりもこだわりのある場面ぐらいいくらでも出てくるよ。そんなにボクが編集する場面の演出に納得がいかないのなら、その部分だけでも自分で編集作業をやったらどうなんだよ?」


「編集作業は夏川さんの役割でしょ。自分の役割は自分でやりなさいよね。誰もが納得のいく場面を作れてこそ、真のプロよ」


 文句を言ってみたのだが、やはりこうなったか……


 美沙は中学の時から自分でオリジナルの曲を作っていた様であり、以前に活躍していたUTubeとは別の動画投稿サイトであるNN動画内ではそこそこの知名度を誇っていた様である。


 NN動画にいたせいか、美沙はUTuberの事をあまりよく思っていない一面もあり、昔からUTube一色であったキョウの事を、どことなく毛嫌っているとこもあるみたい。


 そんな毛嫌いは、今もあまり変わっていない様に見える。


「そう言わずに、自分で納得のいく場面を作ろうと自分で編集作業をしてみたら、そんな事は言わなくなると思うんだけどな……」


「それは、夏川さんが楽をしたいだけなので、そう言ったのでしょ?」


「いやっ、そんな事はない!!」


 キョウは、断固をして否定をした。確かに、少しでも手伝ってくれれば楽になるのは間違っていないけど…… 一応、自分の役割である編集作業にも、自分なりのこだわりってのがあるせいで、寧ろ、1人でやった方が楽だという考えである。


 でも、誰かが代わりをやってくれれば、こっちはのんびり出来る時間が増える。


 キョウが楽をしたいだけと言うのを拒否した後、美沙がキョウの方を見て一言言って来た。


「そう言うけど、嘘は言わなくていいのよ」


「別に嘘なんて言ってないけどな」


「そう。編集作業が動画投稿の作業の流れで一番大変であるのは、私だって知っているわよ。私だって、NN動画で新曲を投稿する時に、自分で編集作業をやったりするもの」


 美沙もまた、自分で編集作業を行った事があるようで、編集作業の大変さを知っていた。でも、美紗がNN動画に投稿していた動画なんて精々、自分で作った歌や曲を流していただけだから、編集レベルなんてたかがしれているだろ? 


 そう、余計な事を考えてしまうキョウであった。


「という事は、美沙は自分で納得のいく場面の編集作業をやるって事なの?」

キョウは美沙の言った事に、少し嬉しそうに期待感を寄せながら答えてみた。


「いや、そうじゃないわ」


「えっ!?」


「だから、少しでも私の納得のいく場面が出来る様にする為、夏川さんが行う動画の編集作業のアドバイスを私がやるのよ」


「それだけ!?」


「それだけでも、十分に多忙な編集作業が少しでも楽になると思うわ。それに、自分で作った曲に合う演出ぐらいは、自分で決めたいし」





 その後、美沙はパソコンに映る編集中の画面を見て、訂正すべき個所を指定してきた。


「この場面は、もっとこう盛り上げる演出をやってみてはどうかしら? あとそれから……」


 美沙は少しばかり嬉しそうな表情をしながら、キョウに指示をしてきた。自分で作った曲の場面を自分で決める事が出来るのって、そんなに嬉しい事なのだろうか? 


 そう思いながらキョウは、美沙の指示通り、改めて編集作業を始めた。


 共にフェイカーズの動画の編集を行うもの同士。最も美紗は音響部分だけで、大半の編集作業はキョウが行っているのだが…… 


 どうしても意見が食い違う事が多い2人。これは単に美紗とは気が合わないという証拠なのか? とにかく美紗は苦手な存在だ。


 それとは別に美紗につかまった以上、しばらくは休憩を取れそうになさそうだ。

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