第2話 撮影前のテストプレイ!!
今日も放課後、キョウはいつも通り映像制作部の部室で部員全員が揃うのを待っていた。
この日は珍しく、早くから優と美沙も来ており、2人ともキョウと同じ様に古都が来るのを待っていた。
美沙は音楽プレーヤーで曲を聞いており、優はスマホを見ながら何かをしていた。
一方のキョウは、前回に撮影をした動画の編集作業に追われていた。
そんな中、部室のドアが突然開き、映像制作部の部長である古都が、遅れて部室に入って来た。
「ヤッホー!! ついに例のおもちゃが届いたよ!!」
古都の大きな一言と共に、先程までそれぞれの時間を過ごしていたキョウと優と美沙は、一斉に古都がいる方を振り向いた。
「届いたって、何が届いたんだよ!?」
「ほらっ、あれだよ」
「アレって?」
「以前に話していた海外製のおもちゃだよ」
「あぁ、あのおもちゃね」
どうやら、以前から古都が言っていた例のおもちゃがようやく届いた様である。これで、次の動画撮影が出来る。
古都が持って来た海外製のおもちゃに関しては、キョウだけでなく、優と美沙も興味を示した。
「あっ、やっとおもちゃが届いたんだね」
「どんなおもちゃかしら?」
「そう慌てるなって、今から見せるから」
そう言いながら古都は、カバンの中から海外製のおもちゃらしき箱を取り出した。
「これが、例のおもちゃだよ」
「これがね~」
「なんだか、人生ゲームみたいだね」
古都がカバンから取り出した海外製のおもちゃの箱は、長方形の形をしたボードゲームの箱であった。
その箱は、優の言葉通り、確かに人生ゲームと似た様なゲームが入っている箱であった。どこの国にも、似た様なゲームがあるのだな……
そう思っていながらその箱を見ていると、古都が箱の中を開けだした。
「ねぇねぇ、早くこれで遊ぼうよ!!」
「まてまて、慌てなくてもすぐに遊べるから」
箱の中から取り出したゲームのマットや小道具を見た優は、早くそのおもちゃで遊びたそうな素振りを見せた。
そんな優を見ながら古都は、カバンの中から書類を何枚か取り出した。
「古都、これはなんだ?」
「見ての通り、今回の動画撮影の企画書」
古都がカバンから取り出したのは、今回の動画撮影の進行をまとめた企画書であった。
この企画書には、動画撮影の大まかな流れとシナリオがまとめられている、いわゆる動画撮影の脚本である。この、脚本を元に、UTubeに投稿する動画を作っている。
そんな脚本作りは、映像制作部の部員達との会議の元、部長である古都がまとめて作り上げている。
しかし、脚本作りの会議を行っても、現時点では古都が独断で動画撮影の脚本を作り上げている。
古都が作った動画撮影の脚本である企画書を手にした美沙と優は、早速、それを目に通した。
「なるほど…… 今回はこの流れで動画を撮影していくのね」
「それにしても、始めと最後のところしかシナリオは書かれていないよ」
「あぁ、それに関しては、実際にゲームを楽しんだ後に改めて作ろうと思うので、まずは実際にゲームをプレイしてからシナリオを考えようというワケだ」
「という事は、このゲームを今から楽しむことが出来るという事だね」
「うん、そうだ」
「わーい!!」
とにかく初めは、実際にゲームを楽しんでみてからリアルの反応を確かめ、その後でその時の様子から動画に投稿する用の脚本が作られている。
その方が、動画を作る側もゲームの仕組みが分かるので悪くないやり方だと思う。
最も、知らないゲームだとルールを覚える事も出来て、下手なグダグダ感を無くす事も出来るので。
その後、箱から出していたゲームのマットや小道具をテーブルの上に置き、ゲームを始める準備に取りかかった。
このように、動画投稿前に試しで行われるゲームのテストプレイは、部室内に置いているテーブルに集まってゲームを行う。
先にテストプレイをしてから後で投稿用の動画の撮影をやるのは、色々と理由がある。
まず1つは、一切の情報も知らないゲームを本番ぶっつけでプレイをしてしまうと、全く面白味もないグダグダな動画になってしまうのを防止する為である。
そして、もう一つの理由は、撮影用のビデオカメラが1台しかない為である。ビデオカメラが1台しかない為、古都によって作られた脚本に描かれている場面だけの撮影で済ませる為である。こちらに関しては、ビデオカメラ複数台&専属のカメラマンがいれば解決出来そうな問題なのだが、今のところは無駄が削減出来ていると思うので、このやり方でもいいと思う。
そして、準備が終わるといよいよゲームをプレイすることが出来る。ゲームをプレイする為、テーブルに向かい合わせでおかれているソファーに全員が座りだす。
両ソファーは2人が座れるほどのスペースであり、今回はキョウと古都、美紗と優がそれぞれ隣同士に向かい合って座った。
そして、いよいよゲームが始まるのかと思っていたその時、突然、古都がキョウの方を見て――
「おい、キョウ。これから始まるゲームの結果が、今回の動画にも直接繋がるから、最下位にならない様に楽しめよな」
一言言って来た。
「分かってるよ」
ゲームが始まる直前に、キョウは古都から動画の脚本に関する注意事項を受けた。
古都の一言が終わった後一言が、いよいよ次の投稿予定の動画で使うゲームのテストプレイが始まった。
ゲームの流れ、ゲームのルールを覚える為のテストプレイとはいえ、このゲームでの結果が投稿される。その為、下手に手を抜くプレイは出来ない。誰が勝ち、誰が負けるのかさえ、勝負が始まる前には予測がつかない、シナリオには無いゲームがここから始まるのである。
「それじゃあ、早速ゲームを始めるのだけど、まずは順番を決めよっか」
「じゃあ、私が一番ね!!」
「それじゃあ、私は2番でいいわ」
「そうか…… じゃあ、私が3番だ」
「てことは、ボクが最後か。まぁ良いけど」
完全に肩を抜いてのテストプレイだった為、それぞれが勝手にゲームを行う順番を決めてしまった。順番に関しては、別にどうでも良く、特に気にする事はなかった。
そんな順番が決まり、いよいよ待ちに待ったボードゲームが幕を開ける。
「まずは私からだから、サイコロを振るね」
先行である優がまずはサイコロを振り、出たマス目の数だけ、自分のコマを進める。
海外製のボードゲームである為、言語に不便があると思われがちだが、このボードゲームは都合がよく、日本語訳の解説書が同梱されていた様である。そのおかげで、言語には不便がなく、ゲームを楽しめるという事である。
そんなボードゲームを、プレイしているのを見ながら順番を待っていたキョウだったが、ようやく自分のコマを動かす番が回って来た。
「ほい、次はお前だろ」
「やっと回って来たか」
古都からサイコロを受け取ったキョウは、遅れたスタートをどれだけ遅れを取り戻す事が出来るのか?
一気に遅れを取り戻そうと思う勢いの元、サイコロを落とした。
テーブルの上をコロコロと転がるサイコロが出す数字をキョウは、凄く緊張した様子で見守っていた。
そして、クルクルと転がっていたサイコロがピタリと止まった。そんなサイコロが出した数字は、キョウの予想を大きく裏切る1であった。こればかりは、キョウの思いとは大きく異なり、予想を裏切る結果となってしまった。
「嘘だろ!! 早速1かよ!!」
ゲームのスタートが、またしても遅れた。このまま、ゲームが進まないのでは? と、キョウは少しばかり本気でそう思ってしまった。
「まぁ、残念だな」
「まだまだゲームは始まったばかりよ」
「これから、大逆転が出来るかもしれないよ!!」
サイコロの1の数字を見ながら、古都と美沙と優は、それぞれキョウを慰めるような一言をかけた。
遅れたスタートだが、ゲームはまだ始まったばかり。キョウは心の中で自分にそう言い聞かせながら、この先のゲームの展開に期待をした。
しかし、その後もゲームは進むが、キョウは思い通りにゲームを進める事はなかった。
「やったー!! 100万ドルも手に入れる事が出来たよ!!」
「凄いじゃないか」
「ところで、100万ドルって、日本円だといくらなんだろ?」
「細かい事は気にせずに、ゲームを楽しんだらどうだ?」
「それもそうだね」
一方の優は、キョウとは異なり、スタートから順調であり、今回は止まったマス目で大金をゲットしていた。
そんな絶好調は優だけに留まらず、美沙までもが都合の良いマス目に止まった。
「これは、夢を実現する事が出来るマス目ね」
「美沙の夢はなんなんだ?」
「そうねぇ…… 何にしようかしら…… って、これはただのゲームよね。ゲームに真剣に考える必要はないわ」
マス目に止まった当初の美沙は嬉しそうな表情をしていたが、すぐに通常の表情に戻った。
更に、絶好調続きは優と美沙だけでなく、古都までもが幸運のマス目に止まった。
「わぁ!! これは大金持ちと結婚が出来るマスだ!!」
「これだとどうなるの?」
「このマスに止まると、自分の番が来た時に100万ドルが自動で入るマスだよ」
「凄いマスに止まったね」
古都が止めたマスの凄さを知った優は、口をポカンと開けた状態で古都のサイコロを見ていた。
一方、そんな3人とは異なり、キョウは運が悪く、不幸なマスに止まってしまった。
「あぁ…… キョウったら、最悪なマスに止まったな……」
「このマスに止まったら、どうなるの?」
「このマスに止まると、自分の番が来る度に持ち金を没収されるマスだよ」
「それは最悪のマスだね」
キョウの止まったマス目を見た古都と優は、他人事のように話をしながら見ていた。
「なんで、僕が借金なんかを……」
「きっと、この先は良い事があるからさ」
最悪のマス目に止まって落ち込んでいるキョウを、古都は慰める様に言葉をかけた。
その後もゲームは続いたが、結局、最後の最後までキョウには運気は回って来なかった。
まるで、このゲームの悪運ラッシュが、現実の自分にも舞い込んで来そうだと少しばかり思ってしまうキョウだった。
そして、投稿用の脚本を作る前のゲームのテストプレイは終わった。
「いゃ~あ、今回のゲームは楽しかったね」
「そうだね。すっごく楽しかったね」
ゲームで大金を手にし、上位でクリア出来た事と優は、凄くご機嫌がよかった。
「確かに楽しかったけれども、ただ楽しいというよりも、ついつい自分の人生と照らし合わせて考えてしまうゲームよね」
「そう言われてみるとそうだったな。所詮ゲームと言えども、マス目の進路などの選択肢は、ついつい真剣に考えてしまうのな」
その後に、美沙と古都もゲームの楽しめる点や感想等を語った。
そして、今回のゲームでは何一つ運気を見せる事が出来なかったキョウは、あまり機嫌がよくない状態であった。
「このゲームで、結局最後まで運気を見せる事が出来なかったけども、この悪運が、現実でもあるのかと思うと、ゾッとしてしまうな…… 所詮はゲームなのに……」
ゲームで悪運を披露したキョウは、動画の閉めでは凄く暗そうな表情をしていた。
「まぁ、所詮はゲームなんだし、そんなに落ち込むなよ。現実ではきっといい事があるよ」
「そうだといいね……」
暗い表情となっていたキョウを少しでも元気づけようと、古都が励ましの一言をかけた。
そんなテストプレイもこれで終わり。
この日のテストプレイは、キョウにとっては悪運を披露するだけで終わってしまった。
確かに、ゲームのルールが分からない以上、何が起こるか分からなければ予想すら出来ない。そんなゲームのルールを覚える為に行うテストプレイだからこそ、ただ単に楽しむのとは一味違う。
そしてテストプレイが終わり、ゲームを箱の中に閉まった後、古都がキョウの方を見て一言言った。
「おいっ、キョウ。さっきの結果をそのまま動画でも起用するからな」
「それぐらい、別にどうでもいいよ」
例えテストプレイとは言えども、どんな結果でも最下位ってのは嫌だな……
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