映像制作部の部員と日常
第1話 映像制作部の部員
UTubeとは、誰もが自由に自分の好きな事を動画として全世界に配信する事が出来る全世界で流行っている動画配信サイトである。
それはまるでテレビの向こう側にいる有名人や人気番組の様な動画を自分達の手で作る事が出来る、旧世紀の人達が知れば羨ましく思う様なモノでもある。
中には、その配信でお金を稼いで生活をしている人達もいる。その人達の事を、世間ではUTuberと呼ばれている。
そんな今話題のUTubeに動画を出す事を目的とした部活動、映像制作部がこの学校には存在する。
映像制作部の部員は4人であり、4人で1つのチャンネル『フェイカーズ』というチャンネル名で活動をしている。フェイカーズが主に上げている動画は創作ゲームをみんなで遊んでみるという動画が今のところのメインである。
そんな映像制作部の部室は学校の図書室の隣にある為、資料探しには困らない。でも、あまりうるさ過ぎると、クレームものであるのは承知の事実。その為、映像制作部の部屋である部室では、大声や騒音を出すような行為は、基本的にはNGである。一応のNGである為、ほとんど守られていない。
また、この部室では主に動画制作の企画を話し合ったり、撮影をしてきた動画の編集を行ったりする以外にも、ただただ寛いでいるだけに使用されることも多い。
そして、この日もいつもの様に映像制作部の部室の中にある鏡を見ながら髪に付いているリボンを整えている1人の映像制作部の部員がいた。
その部員の名はボク、夏川キョウであり、フェイカーズでは主に動画編集を担当している。
そんなキョウは今日もまた、いつもの様に鏡を見ながら髪に付いているリボンを整えた後、制服のリボンを整えたり、スカートの長さを調節しながら、他の部員が来るのを待っていた。
この様に、キョウが誰よりも早く部室に来て身だしなみを整えるのは、全て、UTubeに動画投稿を行う為である。
そして、キョウが制服の乱れがないかチェックを終えた後、部室内にあるソファーに座った直後にタイミングよく、1人の部員が映像制作部の部室へとやって来た。
「あっ、キョウちゃん。こんにちわ!!」
「あぁ、こんにちは」
キョウが映像制作部の入り口のドアの方を見ると、映像制作部の部員である秋風優がそこで手を振りながら立っていた。優のフェイカーズ内での担当は、今のところはない。
「まだ、美沙ちゃんと古都ちゃんは来ていないのね?」
「僕が一番乗りだったから、2人はまだ来ていないね」
「そうなんだ。私達部員は全員クラスが別々だから、ここに来る時間も違うのよね」
「そうだね」
優はテーブルにカバンを置きながら、先に部室に来ていたキョウと話をしていた。
そして、カバンをテーブルに置き終えた後、優はキョウが座っているソファーの隣に座り始めた。
「隣座るね」
「うん」
「そんな事よりも聞いてよ、キョウちゃん」
「なんだよ、どうしたんだよ?」
「あのね、今日は授業中にこんな事があったのよ」
「どんな事があったんだよ?」
ソファーに座った直後から、優はキョウに何か話したい事があったらしく、キョウの顔に近づけて、今日の授業中にあった出来事を話し始めた。
しばらくの間、優が楽しそうに話す今日の授業中での出来事を聞いていた後、突然、部室のドアが開いた。部室にやって来たのは、同じ映像制作部の部員の冬月美紗であった。
「あっ、美沙ちゃんが来た!!」
「やぁ、こんにちは」
「全く、こんな昼間から、2人で何をやっていたの」
「べっ、別に…… 怪しい事なんてやっていないからな。勘違いはするなよ」
「キョウちゃんとは、今日の授業中にあった面白かった出来事を話していただけだよ」
「別に勘違いなんてしていないわよ。夏川さんのそういう反応が、余計に怪しいと思わせたりもするのよ。気を付けなさい」
美沙は、部室に入って来るなり、優と話をしていたキョウの方を冷めた表情で見出した。
「ほらっ、キョウちゃん。美沙ちゃんに言われているんだから、そういう所は気を付けないとダメだよ」
「わっ、分かってるよ……」
そして、美沙だけでなく優にも気を付ける様にと言われたキョウは、少し恥かしそうな表情で、優から顔をそらした。
その後、美沙もキョウと同じ場所にカバンを置いた後、美沙はキョウと優が座っている向かい側にあるソファーに座り出した。
「そうそう、私、また新曲を作ったの」
「へぇ~ そうなんだ。今度はどんな曲なんだ?」
「美沙ちゃんの新曲を、早く聞かせてよ!!」
「そう慌てなくても、あとでみんなに聞かせるわよ」
ソファーに座った美沙は、足を組みながら座った状態で、新曲が出来た事をキョウと優に伝えた。
そんな美沙のフェイカーズ内での担当は、動画を音楽で華やかに演出する、いわゆる音響担当である。
それ以外にも、美紗は自分で曲を作ることが出来、美紗によって作られた曲により、フェイカーズの動画がより一層華やかに盛り上がりを見せる。
そして、美沙はキョウの方をジッと見つめながら、喋り始めた。
「ところで、夏川さんの方は、前回の動画の編集は終わったのかしら?」
美沙は、鋭い目つきでキョウの方を見ながら行って来た。
「今回の動画の編集はまだ終わっていないけど……」
「そうなの。忙しいのは分かっているけど、なるべく早く終わらしてよね。夏川さんの担当が終わらない事には、曲を動画に入れる事が出来ないのだから」
「分かったよ」
そんな美沙は、まるでこの映像制作部のマネージャーとも言うべきか、管理人の如く、厳しい一面もある。
美沙に早く動画の編集を終わらす様にと言われたキョウを隣で見ていた優もまた、キョウを励ますかのように、寄り添うように喋りかけにきた。
「キョウちゃん、編集が大変だったら、私が代わりにやってあげるよ」
「優、その気持ちはありがたいけど…… 優はまだ手伝いだけで良いよ」
「もう、キョウちゃんったら!! もっと私も頼ってよね」
優は手伝いだけというのが気に入らなかったのか、少し怒った様子となった。
「優のその気持ちも分からなくはないけれども、優はまだ動画制作を始めたばかりでしょ。まずは編集作業等を覚えるところから始めなさい。そうすれば、いつかは編集もやらせてもらえるようになるわ」
そんな優の様子を見ていた美沙が、優に対して一言言い放った。
「そうだね…… やっぱり、まずは動画の撮り方や編集作業を覚えないといけないね。これが結構難しんだよね」
「確かに難しいけれども、何事も積み重ねよ」
「とにかく、頑張るしかないね」
「その勢い」
確かに美沙の言う通りである。何事も日々の積み重ねが大事であると。その積み重ねがいつかは実る日が来るのだから。
それからしばらくの間、美沙と優と3人で話をしていた時、美沙が古都がまだ部室に来ていないという事をキョウに言って来た。
「そう言えば、春浦さんはまだ来ないわね」
「そうだな。古都の事だから、次の動画の撮影に使う小道具をどこかで仕入れに行っているのかも?」
「そうかも知れないわね」
古都が遅れてやって来る時は、基本的に動画で使う小道具という名の商品を持って来る時である。
古都とは、この映像制作部の部長である春浦古都の事である。
この映像制作部が作られるきっかけになったのも、古都がUTuberになりたいという願望から苦労の矢先、部員を集めて1から作り上げた部活である。
そんな古都の事を考えていた矢先、部室のドアが勢いよく開いた。流石に1人でドアが開く訳がない。となると、映像制作部の部室に誰かが入って来たという事になる。
そう思っていると、この部室内に勢いよく高く元気な声が入って来た。
「ヤッホー!! 来るのに遅くなっちゃった!!」
その声がする方を見てみると、そこには映像制作部の4人目の部員、いや、この映像制作部の部長である古都の登場だ。
「あっ、古都ちゃんが来たー!!」
「って、いきなり抱きつくな~」
「いいじゃない!!」
映像制作部の部長である古都が部室に入って来たのを見た優は、ずっと古都が来るのを待っていたのか、古都の姿を見るなり古都に飛びつくように抱きつきに行った。優は可愛いものが大好きらしく、小柄な古都を見ると抱きしめずにはいられないのだろな。
こんな感じの流れは、ほぼ毎日の出来事である。
その後、優は先程座っていたソファーの場所に座り、そして自分の膝の上に古都を座らせた。
「古都ちゃ~ん、今日も可愛いね~」
「わっ、私は、いつも可愛いわ!!」
優に金髪のパーマヘアーをモフモフされながら、古都は少し迷惑そうに照れ恥かしがる様子でいた。優は古都を、まるで洋風の人形かの様に髪を触っては楽しんでいた。
そんな古都は、優の隣に座っているキョウの姿を見て一言――
「キョウ、今日もバッチリと決まっているじゃないか」
と言って来た。
「そっ、そうか?」
「うん、そのリボンも充分に似合ってるな」
「それはどうも」
部室に一番早く来て、誰も見ていない所で身だしなみを整えている成果はこんなところに現れていた。
古都はキョウの服装がいつも通りバッチリと決まっていたところを見ながら評価をすると、その古都の反応を見た京は、照れ恥かしそうに顔を少し赤面になった。
当初はなれなかった身だしなみを整えるという行為だが、映像制作部という部活が出来てからは毎日、身だしなみの整えを行っていた為、今では少し慣れ始めてきた。
優の膝の上に乗っている古都を見た美沙は、古都にある質問を行った。
「ところで春浦さん、次はどの様な動画を撮るの?」
美沙が古都に行った質問は、次の投稿用の動画の内容に関する質問であった。美紗が古都に次の動画の内容を聞いたのは、単に部長であるからというわけではなく、古都のフェイカーズでの担当が、動画の脚本を担当しているからである。
古都が考える脚本を元に撮影が行われ、撮影終了後のバラバラの動画を一本にまとめるのがキョウの役割。そして、最後に美紗が動画に合う音楽を入れ、フェイカーズの動画は完成となる。
「次の動画は、海外製のおもちゃを使って遊ぶ動画を撮ろうかなと考えている」
「そのおもちゃって、どんなおもちゃよ?」
「確かに、気になる。教えてよ、古都ちゃん!!」
古都が次の投稿用の動画で、海外製のおもちゃを使って遊ぶ動画を撮影すると言った途端、そのおもちゃがどの様なおもちゃなのか、美沙だけでなく古都を膝の上に乗せていた優も気になっていた。
「まぁ…… そのおもちゃはまだ入手出来ていないから、実物が手に入ってから見せるわ」
「確かにそうね。実物が来るまで待ちましょう」
「とにかくそういう事だな。今言えるのは、そのおもちゃは、とにかくみんなで遊べて楽しめるゲーム系のおもちゃという事だけ言っておこう」
「ゲーム系‼ すっごく楽しみだね」
古都が次の動画で使うと言った海外製のおもちゃの詳細が皆で楽しめるゲーム物と知った途端、ゲーム系と聞いて嬉しそうにいる優だけでなく、キョウまでもが古都が用意している海外製のおもちゃの真相が気になってきた。
でも、そのおもちゃの真相を知るのは、古都が持ってきた時にしよう。その方が、楽しみがある。
その後、古都を膝の上に乗せていた優は、古都に美沙の新曲が出来た事を伝え始めた。
「あっ、そうそう、美沙ちゃんがね、また新曲を作ったんだよ」
「そうなのか? それは早く聞いてみたいね」
「古都ちゃんもそう思うでしょ。実は私とキョウちゃんもまだ聞いていないの」
「なるほど、まだ美沙の新曲を聞いたやつはいないのか……」
「うん、そうだよ。だからこそ早く聞きたくなるでしょう?」
美紗の新曲を凄く気にしている優の表情を見た古都は、前方に座っている美紗の方を見始めた。
「確かにそれは気になるな。おい、美紗よ、早く新曲を聴かせるのだ」
「そう言わなくても、みんながそろったのだし、聞かせてあげるわよ」
美紗はそう言いながら、カバンの中に入れていた音楽プレーヤーを取り出した。
「やっと美紗ちゃんの新曲が聞ける‼」
「次はどんな曲だろな?」
「次の曲も、動画制作に使えるかな?」
キョウだけでなく、優と古都も美紗の新曲が流れるのを、今かと楽しみに待っていた。
「それじゃあ、新曲を流すわね」
そう言いながら美紗は持っていた音楽プレーヤーのボタンを押すと、部室中に新曲が響き渡った。
その新曲はまるで凄く気持ちが良くなるかの様にリラックスした曲であった。
映像制作部の部活は、動画を制作していない時は、だいたいこんな感じに日常ほのぼの系ライフをおくっているだけの部活なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます