第7話 冬美という人間(前編)
(※今回の話は冬美視点から、ということになっておりますのでお気をつけください。)
私「酒井冬美」という人間はひどくつまらない存在だと感じていた。毎日周りに愛想を振りまき、誰からも好かれ手本となるような、そんな自分がいやでいやで仕方がなかった。最初はよかった。誰もが頼り、信頼し、尊敬する。私が望んだ、理想の自分になれたのだから。いつもたくさんの人に囲まれていて、みんなに愛され、もてはやされるクラスの人気者。それが私。あのときは毎日が本当に幸せで、ずっとこのままでいたかった。けれど時がたつにつれ、その気持ちもだんだん薄れていった。そして気づいた時にはもう、私はただ笑顔を振りまく愛嬌のいいだけの空虚な人形でしかなかった。理由は明確にはわからないが、もしかしたらチヤホヤされることに飽きてしまったからかもしれないし、もしかしたら期待されることにプレッシャー感じ疲れてしまったからかもしれない。ただ私にとって、学校という自分が一番輝いていたステージは、アトラクションのない遊園地のようにつまらなく、意味のないものとなっていた。
月日が流れ中学三年生に上がる頃、クラスに転校生がやってきた。
「黒坂三波。」
たった一言、そうつぶやいた。とても自己紹介しているようにはみえない、まるで自分以外の人間はここにはおらず、ただ独り言をつぶやいているだけ。そう思わせるようなオーラを発していた。それを何となくだが察したクラスの大半はいい印象は持たなかっただろうし、ましてや仲良くしたいと感じた者もいるはずがなかった。ただ私一人を除いて。
予想していたとおり転校初日にも関わらず、三波に話しかける者やそうしようとしている者は見受けられなかった。それどころか、いじめの標的として目をつけ始めた者たちが出だした。だがそんな空気に中ですら、彼女は自分の態度を悔い改めようとはしなかった。いや、彼女にとってはそれが正解だったのだろう。どこまでも自分を貫き通すそんな彼女に、私は見惚れた。何と蔑まれても折れない強靱な意志には、畏怖すら感じた。「黒坂三波」という人間をもっと知りたい。心の底から湧き出た願いだった。でも私の周りには多くのクラスメートがいたため迂闊に近づくことが出来ず、結局一度も話すことなく、数ヶ月が過ぎたのだった。
8話 冬美という人間(後編) に続く
黒坂三波は、幽霊になりました。 マキハラさん @makihalla
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