第6話

さて、復讐するとはいったものの、今の状況を全く把握出来ていないことにはなにも始まらないわけで。わかっていることは、①今自分は魂が肉体から離れ霊体のようになっている。②そしてその姿は他の人からは視認されない。③窓やドア、建物などのかべをすり抜けることが出来る。(これは先ほど外に出た時発覚)

「後は……。」

私はふと、自分の本物の肉体に触れようとした。けれど、私の手は体をすり抜け空を切った。―――④この体で、人やものに触れることは出来ない。それに気づいた時、なんだか無性に心が痛くなった。もう2度と彼女に、冬美に触れることが出来ないかもしれない。寂しいという感情。辛いという感情。今まで感じたことのない気持ちだ。それだけ私の中で冬美という存在は大きかったということだろう。でなければ、こんな時に彼女の顔が浮かび、生まれて初めての感情が芽生えるはずがない。

「冬美……。」

ふと口からこぼれたその言葉は、私の心の深く、とても深くに刻みついた。




周りを見渡すと、部屋にはもう誰もいなくなっていた。私の体も、救急車によって運ばれてしまったようだ。そろそろ帰ろう、と思い建物の外に出ると海岸に誰かが座り込んでいるのが見えた。気になって側によってみると

「ごめんなさい……ごめんなさい……。」

―――――冬美だった。私の死体(死んでいるかはまだ不明だが)を見たことのショックがよほど大きかったのか、顔を涙と鼻水でグシャグシャにして、ただひたすらに懺悔の言葉を呟いていた。実は冬美は、私が霊体として目を覚ました後すぐに、泣きながら部屋を飛び出して行ったのだ。あれからずっとここにいたのだろう。かなり体が砂に埋もれている。そんな彼女に、私は声をかける。けれど、言葉は届かない。彼女には聞こえない。触れることも出来ない。そんな親友に私は、横に座って「大丈夫、大丈夫。」と自分の声が枯れるまで言い続けることしか出来なかった。

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