第4話
目を覚ますと、私は保健室にいた。外では生徒が熱心に部活動に励んでいるので、おそらく九時間近く眠っていたのだろう。そのせいか、少し体がだるかった。
さすがにこの時間まで寝かせてもらったのも申し訳なかったので、先生にお礼を言いに行こうとまだ少し眠っている体を起こそうと手に力を入れた。だが、動かない。何かに包まれているかのような感覚だった。恐る恐るベッドの端に目をやると、そこには。冬美がいた。手が動かなかったのは冬美が手を握っていたからか。ずっとそばにいてくれたのだろう。今は疲れたようで、眠っていた。そんな彼女を見て私は、何だか心がポカポカしたのを今でも覚えている。今日は色々初めての気持ちが多いなあ、などとため息をついていると、冬美が目を覚ました。
「あ、起きたんだ。私もいつの間にか寝てたわ…。それよりも、大丈夫だった?一応見た限りではたいしてけがとかなかったけど。」
そういえば何だか前がスースーすると思ったら、制服の前が全開……とその瞬間、ようやく今の自分の状況を理解した。制服の前は全開、よくみたら下も履いていなかった。私は恥ずかしくなり、猛スピードで布団の中に逃げ込む。
「あはは。あなたおもしろいね。いじめたくなっちゃう。」
彼女は無邪気に笑っていた。そんな彼女に、疑問をぶつけたのだ。
「ねえ、どうして私を助けたの?メリットなんてないはずだし、下手したら今度はあなたが。」
私と同じような目に、と言おうとしたところで彼女の言葉に遮られた。
「あんたほんとネガティブだね…。そんなの困ってたからに決まってるじゃない。それにもし仮に私に矛先が向いても、ここで助けていればきっとあなたは味方でいてくれるでしょ?それがメリットね。」
そう彼女はとてもすこやかな笑顔で言った。本当に、おてんばな太陽さまだなあ。
「――――――――っ………。」
あれ。なんで、なんで私泣いてるんだろう。突然大粒の涙がこぼれ落ちる。まるでそれは、だんだん氷が溶けていくかのように。止まらない。止められない。ただひたすらにこぼれる滴を、冬美が手ですくいとり
「だいぶ無理してたんだね。もう大丈夫だよ。今ここには、私とあなたしかいないから。思う存分泣きな。怖かったね。辛かったね。」
そういい、強く私を抱きしめた。
ああ。私は、私は誰かに頼りたかったのか。いつもひとりで何でもこなしてきたけど、やっぱり心のどこかでは、寂しかったんだ。冬美の体は、手は、心は、とても温かった。その熱でさらに涙がこぼれる。今までの自分が、消えていく。「氷の女王」などと皮肉られてきた自分が。弱いくせに強がりで、人を信じることができなかった愚かな自分が。私は、冬美のおかげでやっと人間らしい「私」になったのだ。そして保健室には、私の泣き声だけが響いていた。
五話に続く
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