第3話

あの日は、台風の接近が間近で朝から土砂降りだった。こんな日にも学校に来させるなんてさすが進学校。意識がお高いようで。

私が学校に着くと、なんだか教室が騒がしかった。席について聞き耳を立ててみると、

「どこに行ったのよもう!カードとか入ってるんだけど⁉」

「引き出しに忘れて帰るのが悪いんじゃねーか。自己責任だろ。」

「うるさいだまってて!!もう誰が取ったのよ!返しなさい!」

なるほど、財布を盗まれた?ようだ。叫んでいるのは…クラスの女王・春香だ。私からすると、いじめの主犯。まあ、私にとってはどうでもいいことだったので聞き耳を立てるのを止め授業が始まるのを待っていた。それがいけなかったのだろう。予想もしていなかったことが起きた。

矛先が、私に向いたのだ。

「ねえ黒坂、あんたでしょ。私の財布取ったの。いつもされてることの仕返しのつもりでやっちゃったんでしょ?ほら、正直に言いなさいよ。」

ひどい言いがかりだ。確かにいじめられることはめんどくさかったが、その仕返しなんてもっとめんどくさい。つまり、やっていない。やるわけがないのだ。

「春香ー、こいつだよ絶対。」

「うんうん。沈黙は肯定を意味するって言うし!」

…何だこの取り巻きたちは。媚売り人形も大変だな。そんなことを考えていると、

「そうねえ。なら…お仕置きが必要よね?」

春香はそう言うと、自分の取り巻きの女子から何かを受け取り、私をじっと睨んだ。彼女の手に握られていたものは、カッターだった。カチ、カチ、カチと少しずつ刃を出していく。私はその音に嫌な寒気を覚えた。そして、カッターの刃をすべて出し終えた春香は、

「体で………払ってもらうからね?」

今までに経験したこともないような恐怖を感じた。今から自分が、どんな目にあうのかも。

予想は、的中してしまった。春香は――――――私の制服を切り裂いた。上半身に、冷たい空気が触れる。逃げ出そうとした。だが、取り巻き達に抑えられていて、動けなかった。動けない。怖くて声も出ない。初めて感じた恐怖。助けて。助けて。ああ……もうだめだ。目を閉じて覚悟を決めたそのときだった。

「なにやってんの!!!!」

そんな声と共に、私を押さえつける力が無くなった。恐る恐る目を開くと、そこにいたのは、冬美だった。

「何?そっちがなんなの?邪魔すんな!!」

春香が吼えた。だが、冬美は顔色一つ変えない。

「何があったか知らないけどさ、あんた今自分が何やってるのかわかってるの?犯罪だからね?それ。」

「うるさい!!!邪魔すんなって言ってるでしょ!!」

ついに春香は、冬美にカッターを向ける。それでも冬美は、引かなかった。

「やめときなって。まだ罪増やしたいわけ?まあ、どうせ出来やしないだろうけど。」

春香は、図星を突かれたからか、うつむく。その直後、教師数名が飛び入ってきた。誰かが呼びに行ったのだろう。そこからは覚えていない。私は、緊張の糸が切れ、意識を失った。


4話に続く

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