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「親方、今日のことなんだけど」

「悪いけど俺は別件でずっと抜けてるぞ。これ食ったらもう行く」

「そうなんだ、夜ご飯はいるよね?」

 すぐに是、と返ってくるかと思われたが、親方はしばし動きを止めて何やら考え込む素振りを見せた。

「あー……いや、いらねぇ、かもしれねぇ」

「どっち」

 リオは食事の手を止めずに尋ねた。

「じゃあいらん」

「遅いの?」

「たぶん、な」

「ふぅん」

 こくりと一口水を飲み、リオは返事した。

「一体何の依頼?難しい依頼なんだね」

「……まぁな」

 親方にしては、歯切れの悪い返事だ。

「極秘の依頼とか?」

 【ギルド】には実に様々な依頼が寄せられる。

 失せ物探しや、配達など、大したこともない依頼もある反面、ふいにとんでもなく高額の依頼が転がってくることも、珍しいことではない。そういった依頼は大抵、親方が処理をする。

 何をしているのかと尋ねても、親方はいつも曖昧な言葉で濁す。依頼者の意向で、依頼を秘密裏にこなし、他言無用であると要求されることも、【ギルド】ではよくあることだ。分かっては、いるけれども。

 何も知らされないことに、ほんの少し、不満を感じていたりもする。

「リオにも、やってて欲しい依頼がある」

「あ、ほんと?どこに配達かな」

 リオに任される依頼は本当に些細なものだ。

 主に配達。雑用。そんなものばかり。親方はちっとも大きな仕事を任せようとはしない。

 だからきっと、今日も変わらずそうなのだろう。そう思った。

「あ、いや、それがなぁ」

 今日は配達じゃねぇんだよ。

 親方が一つため息をついた。しぶしぶ、といった様子だった。

「本当は俺が処理すればいいんだけどな」

「え、何の依頼?」

 親方がほらよ、と一枚の紙切れを差し出してきた。

「――地図?」

「そうだ、ここ、分かるか」

 親方の指がある一点をぐるぐると囲むように動く。

 古びた紙に、実に簡素な地図と、赤い点が書かれていた。親方が指さしたのは、その、赤い点の描かれた箇所だ。

「あ、うん。ここ、洞窟だよね」

 下町を普段走り回っているリオの頭は、しっかりとその概要を記憶している。地図を見ればどの場所なのか大体の見当はついた。

 この地図に描かれているのは、下町の家が密集した場所とは少しばかり離れたところだ。そこには一つ、洞窟が存在しているのをリオは知っている。

「でもここ、魔物が出るんだよね」

「そう、それが依頼なんだ」

「え?」

 リオが目を丸くして視線を上げた。やけに嫌そうな顔をする親方と目が合う。

「魔物討伐、ってやつだ」

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