3

「親方」

 やっと家に帰りつく。

 正確には、家ではないのだが。

「新聞、取ってきたよ」

「……おう……」

 奥のほうで、のそりと影が動いた。

 声には覇気がない。リオは後ろ手で扉を閉め、大きくため息をついた。

「ちょっと、親方。まだ寝てるの?」

「寝ながら起きてたさ」

「それは起きてるとは言いません」

 ガタイのいい男がのろのろと起き上がった。

「おまえは俺のおふくろか」

「親方がしっかりしてないからでしょ」

「へいへい」

「もう、ちゃんと起きて。ご飯親方の分作ってあげないよ」

 親方と呼ばれた人物はにやりと笑った。人の悪そうな笑みに見えるのは、他意があるわけではなく、もともとの人相が悪いからである。

「そいつは困る」

「でしょ。ちゃんと起きて毛布も畳んでね」

 親方――彼の名は、レオンという。姓は何というのか知らない。

 数年前、行き場のなかったリオをどういうわけかは知らないが、引き取って育ててくれている。言うなれば父親代わりというやつだ。

 レオンは下町で【ギルド】という組織を立て、その依頼をこなすことによって生計を立てていた。【ギルド】というのは、下町の人を中心に幅広く依頼を引き受ける組織である。幅広すぎて、「何でも屋」なんて呼ばれることも多い。レオンはこの【ギルド】のまとめ役、いわゆるマスターという存在で、【ギルド】の統率をしている。ちなみにリオもギルドメンバーの一員である。

「ここんとこずっと一面同じだな」

 親方はもう毛布も片づけたのか、椅子にどかりと座り込んで新聞を読みふけっていた。

「一面……って、あぁ。最近の通り魔事件?」

「そうそれだ」

 下町も物騒になったもんだ、なんて親方がからから笑った。

「下町が物騒なのは今に始まったことじゃないでしょ」

「そうだけどよ。……今度はここの近くに出たらしいな」

 ほら、と親方が新聞のある箇所を指さしながら差し出してくる。

 【通り魔、再び】――やたらと大きな見出しが紙面を踊っている。新聞はここのところ、この事件ばかり報じているのをリオも知っていた。

 最近下町には、通り魔が繰り返し出没しているのだ。

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