リオがいる下町はいつでも人で溢れかえっている。人で溢れかえっているというのは同時に面倒事――つまり、犯罪とか、暴力とか、そういう類のものだ――がごろごろと転がっている、というのと同じ意味だ。下町は決して治安の良い場所ではない。皆ある程度の暴力や横暴は見過ごすし、関わらない。そうでもしないと生きてはいけない場所だ。

 この国の名を、ルーティンという。この「下町」というのは本当にそういう名前なわけではない。言うなれば俗称というものだ。ここはルーティン国の首都であり、都市の名はアルフリード、という。アルフリードと言うのは王族の苗字から取ってつけられたものらしい。

 首都アルフリードは少し変わった都市で有名だった。真ん中の小高い部分に城があり、それをぐるりと囲むように街が広がる。この城のふもとにある部分――いわゆる本当の城下町というやつだ――の存在が、この地が「下町」と呼ばれる大きな原因の源だ。城のふもとに広がる街はリオたちのような庶民は入ることさえ叶わない地だった。身分の高い人々、すなわち貴族のための街である。ここのことを、「上」と人々は呼んだ。この「上」をさらに囲むようにして下町は存在する。

(まるで『壁』だ)

 いらないものでぐるぐると周りを囲み、大切なものを内に丸め込んでしまう。大事なのは中身だけだ。下町はあくまで「上」を守るための、薄っぺらい壁のようなモノ。ここはおそらく、そういう場所なのだろうとリオは解釈していた。

 ルーティン国は身分制度の厳しい国だ。物事は高層の人々のために動く。自分たち低階級の人間が入り込む隙など少しもない。そういう国である。

 生まれ落ちてしまったその時から身分に縛られる。生まれ落ちた、その身分で何とか生きていかなければならない。這い上がることは難しい。

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