「今日の朝刊でーす!」

 朝のバザール。まだ早い時分だというのに、すでに多くの人たちでごったがえしていた。人と人の熱がひどく不快に感じるが、もうそんなのにも慣れ切って、リオは器用に人込みを掻き分けながら進んでいた。

「一枚ください」

 新聞売りのもとへ歩き、声をかける。

 ざわざわとうるさい喧噪の中、新聞売りの少年は目ざとくリオの声を聞きとり、ニッと笑った。

「毎日ありがとうございます、リオの旦那! 銅貨一枚になりますっ」

「君も毎日大変だね」

 そう言って、ポケットから銅貨を抜き出す。

「毎度あり! 今日も、親方さんのお使いですか?」

「お使い……って言われると小さい子供みたいだな」

 リオは苦笑し、差し出された新聞を受け取った。

 新聞というにはあまりにもお粗末な、数枚の紙きれだ。だが、この街でまとまった情報を得る手段はこの紙切れしかない。お粗末でも、新聞は大事な情報源だった。

「おい、邪魔だ坊主」

 ふいに野太い声がして、ドン、と背を押された。

「通行の邪魔すんな」

「あ……」

 リオはよろめきつつも、無様に倒れるという事態だけは避けることができた。

 曖昧に笑みを浮かべ、押してきた男を見上げる。

「あの、すみませんでした」

「ふん」

 男は言いたいことだけ言ったら気が済んだのか、すいと横を通り抜けていった。

「旦那、大丈夫ですか……!」

 新聞売りの少年が慌てたように駆け寄ってくる。

 リオはそれを手で制して、にこりと今度こそ綺麗に笑って見せた。

「うん、大丈夫だよ。じゃあ僕はもう行くから」

 頑張ってね、と一言言い残してリオはもと来た道を引き返し始めた。

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