愚鈍の陰陽師②

翌日の朝

自己嫌悪の念に浸りながら、俺は朝食を終えた

咲耶(さくや)は終始無言だったが、不思議と怒っているようには見えなかった

ただ朝飯の味噌汁がすごく塩辛かったけど

部屋に戻った俺は、すぐに外出向けの服に着替える

昨日の神楽との約束で、近場の町へと行くことになったからだ

着替えを終え、部屋を出る

既に出口には、ウキウキ顔の神楽と見送りに来てくれた母さんである神羽が待っていた

ちなみに咲耶は朝食の片付け、姉さんは朝が弱いためいない

「お兄ちゃん遅いよぉ!!神楽待ちくたびれちゃった」

「ごめんごめん、外出なんて久しぶりだから、ちょっと戸惑ちゃってな」

ブーッと唇を尖らせ拗ねている神楽の頭をくしゃくしゃ撫でながら、神楽に謝る

それだけで神楽の機嫌はすっかりよくなる

可愛いなこいつ

「それじゃ母さん、行ってくるよ」

「気を付けてね?最近は妖怪の動きが活発らしいから・・・暗くならないうちに帰ってくるようにね」

そう言えば姉さんも言ってたな・・・

「大丈夫だよ母さん。出掛けると言ってもすぐそこの町だから」

それでもまだ母さんは不安そうだったが、ゆっくり頷いた

「よし、行こうか神楽」

「おー!!」

「神威~」

神楽の手を握り歩き出そうとすると、寝ぼけ眼を擦りながら姉さんの神音が歩いてきた

「うわ・・・こんな時間に姉さんを見るとか雹でも降るんじゃないかな」

「朝っぱらから失礼ね」

姉さんはムスッとしながら、1つの黄色い札を取りだして渡してきた

「・・・これは?」

「御守りみたいなもんよ。何かあったらこの札が守ってくれるわ」

「ふーん」俺は渡された札を受け取り、懐へしまった

「じゃあ行ってきます」

「行ってきまーす!!」

母さんと姉さんに手を振り、俺と神楽は町へと歩き出した


「ふんふんふーん♪ふんふふんふーん♪」

家を出てから神楽はずっとご機嫌だ

俺の手をギュッと握り、鼻歌を歌い続け、足取りはスキップをしている

その様子に思わず俺も微笑んでしまう

「・・・?なんでお兄ちゃんは笑ってるの?」

「・・・神楽が可愛いからかな?」

「そっか!!じゃあしょうがないね!!」

「将来有望だな色々な意味で」

そんな他愛もない話をしていると、目当ての町が見えてきた

俺達の近くの町村では最も活発な町だ

と言っても人口五千人程度だから、都市とかに比べたら豆粒のようなものだ

それでも十分な店舗の数があるし、買い物をするにも十分な品揃えだ

そして、そんな町に今日は何をしに来たのかというと・・・

「さぁお兄ちゃん!!食べ歩くぞぉ!!」

食べ歩きである

なんでもこの妹様は最近甘いものに目がないらしく、とにかく色々な甘いものを食べたかったそうなのだ

これなら別に俺じゃなくても良かったんじゃないか、と思ったがどうやらそうでもなかったらしい

母さんは体調が優れないためダメ

九禅さんは別用があるのでダメ

姉さんと咲耶に至っては睨まれてしまった

なにより神楽自信が俺と行くことを望んでた

そんなわけで今日は俺が行くことになった

それにしても、母さんと九禅さんに関しては分かるけど

何で姉さんと咲耶からは睨まれたんだ?

何かお腹回りをさすってたけど・・・

特に咲耶は行きたそうだったんだけどな・・・

「さぁお兄ちゃん!!まずはあの店から行くぞぉ!」

神楽が指差したのは団子屋

この町では割りと有名なお店、なんだけど・・・

初っぱなからお腹に溜まりそうなものを・・・

とはいえ今日の主役は神楽だ

その神楽が望んでいるなら断るわけにもいかない

神楽に引っ張られるままに、俺達は団子屋へと入っていった


俺達は昼飯も食べずに・・・正確には昼飯も甘味で、一日中食べ歩いていた

口の中が甘ったるくて、気持ち悪い・・・

対して神楽は、シャーベットという氷状の物を食べて顔を綻ばせている

まぁこの笑顔が見れただけで十分かな

「さぁ神楽、もう日も傾いたし帰ろうか」

神楽が食べ終わったのを見計らって、帰りを促す

少しだけ不満そうな顔をしたものの、

神楽もお腹は溜まったのだろう、素直に頷いた

町を出ると、日は既に沈み始めていた

「(日が暮れる前に森を抜けたいな・・・暗くなるとこの森は薄気味悪い)」

けれど一日中食べ歩いたから疲れたのか、神楽の歩くペースが遅い

・・・というか眠そうだ

「眠いか神楽?おぶってやろうか?」

「・・・ん・・・大丈夫」

目をゴシゴシこすりながら、首をブンブン振る

それでも限界は近いみたいだ

今も歩きながら首がカクカクしている

このままじゃ歩くこともままならないのと、早く抜け出したいという思いから、俺はそっと神楽をおぶった

やはり限界だったのだろう、神楽はおぶられた瞬間、スゥっと眠ってしまった

可愛い寝顔だな

少しだけ神楽の寝顔を見つめたあと、俺はやや早歩きで歩き始めた

そのまま数十分程歩き続け、もうすぐ森を抜けるころまで来たとき

そいつは現れたーーーーーーーーーーーー

『・・・旨そうな匂いがするなぁ』

「ッ!?」

音も気配もしなかった

それなのに、目の前には人の3倍程の大きさの妖怪が立っていた

体は人の形に似ているが、手の数が多い

左右に腕が2本ずつ、計四本ある

さらに牛のような角に鬼のような顔をしていた

この妖怪の名前は・・・

「ぎゅ、牛鬼(ぎゅうき)!!」

『ほぅ・・・俺を知ってるということはただの人間ではないようだな』

牛鬼は鬼の形相で笑う

最悪だ・・・牛鬼は妖怪のなかでも危険な物に分類されてる

人を襲い、喰らう

妖怪の中でも最高に危険とされる妖怪の一匹だ

出会ったらすぐに逃げろ、とまで言われている

それでも、こんな浅い森で出会うなんて・・・

『・・・どれ』

ゴッ!!

という轟音と共に、牛鬼が軽く振った腕によって俺の周囲が吹き飛んだ

『・・・なるほど、陰陽師だったか』

牛鬼は顔を横に向け、俺のいる方へと向き直る

俺は陰陽師が扱う術のほとんどは扱えない

しかし、唯一の例外として、自身を強化する術だけは扱うことができた

今日ほどその事に感謝したことはない

俺が扱える数少ない術のひとつ

天翔包外てんしょうほうがい

体内の霊力を操作して肉体を強化し、高速移動を可能にする術だ

並みの妖怪の攻撃なら悠々にかわすことができる

だけど・・・

「ぐ・・・う・・・」

俺の体の半分は今の攻撃で痛んでいた

避けきれなかった!?

いや、攻撃自体は完全にかわしきった

攻撃の余波に巻き込まれたんだ

余波だけでこの傷・・・それだけで分かる圧倒的な力の差

俺の足は途端に恐怖に襲われ、動かなくなりそうになるが

「うぅーん」

瞬間、神楽の寝息で我に帰る

およそ戦闘中とは思えないほどの穏やかなこの眠り顔を守らなくては!!

俺は全速力でその場から離れる

「(戦っちゃダメだ!!逃げ切るんだ!!)」

『天翔包外』を駆使し、振り返ることなく全速で移動する

『なにつまらねぇことしてんだ』

俺は全速力で移動した

それなのに、真横から絶望の声がする

「『鎧盾包外がいじゅんほうがい』!!」

俺は直感的に術を切り替える

直後、すさまじい衝撃が俺を襲った

その衝撃が神楽に及ばないよう、抱き抱える

地面に叩きつけられ意識が飛びそうになる

『鎧盾包外』は耐久力を上げる術だ

鉄の棒で殴られようと、高いところから飛び降りようと、傷ひとつ付かないほどの効力を持っている

しかし、それでも・・・

「(あ、肋が折れ・・・み、右腕も・・・)」

俺の体は甚大なダメージを負っていた

まだだ!!

「『天翔包外』!!」

もう一度術を切り替え、牛鬼から逃げる

『・・・しゃらくさいヤローだ』

言うと牛鬼は口から何かを吐き出す

「なんっ!?」

吐き出された物は白く広範囲に広がっていく

そして俺達に覆い被さるように落ちる

「これは・・・蜘蛛の糸!?」

糸は粘着性が強く、体、そして地面から剥がれない

つまり、身動きがとれなくなってしまった

「く、くそっ!!」

『もうにげらんねぇぞ』

目の前には既に牛鬼の姿が・・・

『お前ら、シノノメの陰陽師だな?』

牛鬼は膝を折り、その巨大な体躯から見下して尋ねてくる

『別に答えなくても構わねぇよ。この辺りの陰陽師と言えばシノノメかタツミだからな』

「(こいつ・・・意外と頭が回るタイプか!?)」

なんとか糸を剥がそうとするものの、意図の粘着性は強く、動くことさえできない

『さて、重要なのはここからだ。お前らがシノノメの陰陽師だった場合、だ』

瞬間、額から汗が垂れる

『俺は人を喰うと強くなるのは知ってるよな?そいつが強い霊力を持っていればいるほどに、俺は強くなる』

心臓の鼓動が強く、早くなり、ハッキリ聴こえるようになる

『噂じゃ、最近生まれた陰陽師の小娘は相当な力を持っているそうだ・・・お前がその大事そうに抱えている小娘がそうなんじゃねぇか?』

息が荒くなる

まるで、次の言葉を遮るように・・・

『その小娘・・・喰ったら強くなれんだろうなぁ~美味いだろうなぁ~その小娘は♪』

牛鬼が笑う

至極楽しそうに

ヤバイ・・・ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

早くここから逃げないと神楽が!!

必死に体を震わすものの、糸は僅かに動くだけで立つことができない

ズシン・・・ズシン・・・

一歩、一歩と牛鬼は近寄ってくる

やめろ・・・

牛鬼は手を伸ばし、意図も簡単に自身の糸をブチブチ切り神楽を掴みとる

やめろ!!

大きく口を開き、神楽を飲みこ・・・

「やめろ!!神楽に触るんじゃねぇ!!」

直後、何が起きたのかは分からない

だけど俺にまとわり付いていた糸が突然なくなり、

代わりに槍のようなものが現れ、牛鬼を貫いていた

『ぬぐっ!?』

突然現れた槍に怯んだ牛鬼は、掴んでいた神楽を離してしまう

俺は即座に立ち上がり、神楽を抱き抱える

その勢いのまま、振り返ることなくその場から逃げる

「(もう少し!!もう少しで森を抜ける!!そしたら家にいる皆が気付いてくれるはず!!)」

情けないとは思わなかった

とにかく神楽を守る、その為だけに走り続けた

しかしーーーーーーーーーーーーーーーーードスッ

足が急に動かなくなり、俺はその場に倒れこんでしまう

「なん、」

足元には、先程の糸を固めたようなものが、俺の足を貫いていた

「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

あまりの痛さに俺は叫ぶ

『やってくれたなクソガキが!!』

声の方を振り返ると、先程とはうってかわって

その名の通り鬼の形相をした牛鬼が立っていた

『そっちの小娘さえ喰えれば言いと思って見逃してやろうと思ったが・・・やめだ』

牛鬼は再び糸を吐き出す

糸はみるみる固まっていき、俺の足に刺さっている槍と同じものになる

『その土手っ腹ぶち抜いてやる』

足が動かない

痛みで頭が回らない

神楽・・・神楽!!

「頼む・・・誰か・・・神楽を!!」

瞬間、俺の懐にあった、姉さんから貰った黄色い札が輝く

その直後

「『百花繚乱ひゃっかりょうらん雷貫ライカン』」

雷電が、牛鬼を貫いた

『ごあっ!?』

たまらず牛鬼は倒れこむ

何が起こったのか、分からなかった

けど、俺の目の前に立っている人影を見て、全部理解した

助かったんだ、と

「・・・姉さん」

日頃のふざけた様子など皆無の姉、神音が立っていた

安心した瞬間、俺の目から涙が溢れる

助かると思ったから、じゃない

自分一人じゃ神楽を守れないという情けなさからだ

「私がアンタに渡した札は、窮地に陥ったときに神威の霊力に反応するように作った札よ。一度発動すれば目の前に転送することができる仕組みになってるわ」

「けれど、」と姉さんは続ける

「その術は発動するまでに時間がかかる。発動するのが術者である私ではなく、対象を神威にしていることと、霊力を多量に必要とするから」

姉さんはこちらを振り返らず説明を続ける

「つまり、私が来るまではアンタ自身が守らなくちゃいけなかった。・・・神威、頑張ったね」

姉さんが優しくそう言った

表情は分からなかったが、今までに聞いたことがないほど慈愛に満ちた優しさだった

「頑張った?逃げただけだ!!情けな・・・」

「情けなくない」

俺の言葉を姉さんは遮る

「妖怪との戦いにおいて、大切なのは相手との力量の差を計れること。そして死なないことよ」

姉さんの言葉は慰めの言葉じゃない

「アンタは生きてるわ。そしてちゃんと神楽も守りきった」

まるで・・・俺の事を・・・

「ほんとによく頑張ったわ。陰陽師として、そして姉として心から尊敬するわ。かっこよかったよ」

また、涙が溢れた

今度は、はは、単純だな

嬉し涙だよ・・・

今までのどの言葉よりも、素直に心に響いた気がする

「あとは任せない」

そう言うと姉さんは、さらに前へと進む

牛鬼と対峙するために

『クソアマが!!俺の邪魔しやがって!!

覚悟しろ、ただでは殺さ!?』

牛鬼の言葉は最後まで続かなかった

その前に、再び雷電が牛鬼を襲ったからだ

「覚悟しろ?」

姉さんの周りから感じられる霊力はドンドン強くなる

息が苦しくなるほどに

「それはこっちのセリフだわ。随分と私の愛しい家族を痛めつけてくれたじゃない」

言いながら姉さんは袖に手を突っ込み札を取り出す

両手に4枚ずつ、計8枚の札を構える

「覚悟しなさい。私の家族を痛め付けたことを後悔させてあげる」

そう言うや否や姉さんは8枚の札を一気に投げ放つ

『ハッタリだ!!』

対して、牛鬼は先程の雷電などまったく恐れず突っ込んでくる

「『百花繚乱・雷鳴ライメイ』」

札の1枚が輝きだし、3度雷電が放たれる

『もう見慣れたぞ!!』

流石に慣れたのであろう牛鬼は、それを避ける

『ごはっ!?』

しかし、牛鬼の体には避けたはずの雷電が直撃していた

『何故だ!?』

俺には分かった

姉さんが放った札のうち、雷電を放ったのは2枚だけ

外れた雷電は、他の札へと流れて行き、そのまま跳ね返るように牛鬼へと向かっていったんだ

『この!!』

牛鬼は再び攻めようと体を動かし始める

が、その前に

「『百花繚乱・爆線ばくせん』」

先程よりも更に多い枚数の札が投げつけられる

『くっ!!』

流石に回避が間に合わないと判断した牛鬼は

四本の腕で防ごうとする

姉さんが投げた札のうち、3枚が牛鬼の腕へと突っ込み

『ぐあっ!!』

同時に大爆発を起こした

牛鬼は堪らず後ろに倒れそうになる

すると、背後に回っていた札に触れ

その札が再び爆発する

再び体勢を崩し、倒れこんだ先に札が

そして爆発

これが数回繰り返された

『か・・・は・・・』

爆発が終わった頃には、牛鬼の全身は火傷に負われていた

圧倒的だった

俺が対峙した時は絶対的な強さだと思っていたあの牛鬼が

姉さんにかかれば、まるで子供のようだった

『こ、の・・・アマ・・・』

「滅されなさい。『百花繚ら・・・」

姉さんが術を発動しようとした瞬間

目の前に突如衝撃波が襲いかかった

土埃が舞い、晴れたころに牛鬼へと目を向け直すと

そこには牛鬼の他にフードを被った人のような人物が立っていた

『随分と酷くやられたね、牛鬼』

恐らく妖怪だ

フード越しから妖気を感じる

・・・だけど、なんだ?

その奥から感じるものは・・・

『てめぇ・・・何しにきやがった!!』

『酷い言い草じゃないか。わざわざ助けに来たって言うのに』

自分を助けにきたフードの妖怪を、牛鬼は睨み付け悪態をつく

対してフードの妖怪は苦笑いで返すだけでさして気にしている様子はない

『誰が助けろなんて言ったよ!!

お前の助けなんぞなくても俺一人で・・・』

『牛鬼』

瞬間、フードの妖怪の雰囲気がガラッと変わる

『君が勝手な行動をしようと、ある程度は見逃そう。そういう約束だからね。だが君が命を落とすことはあってはならない。それが交換条件だったはずだ』

フードから発せられる妖気は、先程までの牛鬼を凌駕していた

戦っている訳でもないのに、俺の体が震える

『その約束を守れないというのなら・・・君を消して返してもらおうか』

牛鬼の顔色が変わった

返してもらう、という言葉に怯えているようだった

『分かった・・・従おう』

あの牛鬼を従えた・・・

あのフードの妖怪、何者なんだ?

『良かった!分かってくれたようで嬉しいよ』

フード妖怪から放たれていた妖気が嘘のように消える

『さて、そんなわけでボクらがこれ以上君達に危害を加えることはない。見逃して貰えないかな?』

「今は、でしょ」

フード妖怪の言葉に、姉さんは間髪入れずに返す

「あなたが何者なのかは知らないわ

けれどここで放っておく理由にはならない。

それに相当危険な臭いもする。そんな輩をみすみす目の前から逃がすとでも?」

『参ったなぁ・・・あまり怪我をさせたくないんだけど・・・』

「見下してくれるじゃない」

二人の間に一触即発の空気が広がる

先に動いたのは姉さんだった

「『百花繚乱・穿椿ウチツバキ』」

先程までとは比べ物にならないほどの数の札が

淡く緑に輝き一斉に放たれる

札自体を強化し妖怪を攻撃する、姉さんの穿椿はその攻撃力よりも数に圧倒される

一度嵌まれば永久にも思える攻撃に襲われる

穿椿による攻撃は数十秒に及んだ

向こうは土埃に覆われ、姿を確認することができない

『なるほど、君が〈千変万化〉の異名を持つ東雲神音だったか。・・の牛鬼じゃ歯が立たないわけだ』

土埃の中から平然とした声が聞こえた

次の瞬間、土埃がゴッ!!という音と共に吹き飛んだ

俺は驚愕した

「(牛鬼がいない!?)」

『素晴らしい術だ。牛鬼を逃がすにはもってこいだった』

まさか・・・牛鬼を逃がすために姉さんの術を利用した!?

『おっと!!そんな怖い顔しないでくれ

流石に効いてないわけじゃないんだ』

フードの妖怪はケロッとした様子でそんなことを言う

「・・・牛鬼を逃がしたのは私の失態ね

だけれどあなたは逃がさない」

『熱烈なアプローチありがとう。だけどボクもの状態で君に勝てると思うほど自惚れてないんでね、逃げさせてもらうよ』

「逃がすものか!!『百花繚乱・栓封せんぷう』」

姉さんが術を発動すると同時に投げられた札が

フードの妖怪を中心に広がっていく

やがて札は線のように一列に並び、交差するようにフードの妖怪の周りを回り、妖怪を捕らえる結界となった

『状況に応じた術の適応力、発動してから展開にかけての速さ、素晴らしい才能だ』

「妖怪に褒められてもね。あなたはこのまま拘束して東雲の管理下におくわ」

『それは困った。では脱出させて貰おうか』

そう言うと、フードの妖怪はソッと結界に触れた

すると結界はガラスのように意図も簡単に砕けた

「なっ!?」

流石の姉さんもこれには驚愕していた

その一瞬をつき、フードの妖怪は自ら土埃を起こした

姉さんから逃げるための目眩ましとして

『また会おう。大陰陽師の操り人形諸君』

その言葉を最後に、フードの妖怪の気配は完全に消えた

辺りは静寂に包まれ、神楽の静かな寝息だけが聞こえていた

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