<混乱×混沌=解決?>

 阿久斗は酷く混乱している。

「ころねが……魔法少女……?」

 目の前に起きた光景を素直に受け止められない。

 チョココロネの姿が、突然ころねに変わった。

「どういうことだ? いや、まさか……本当に?」

 認めたくはない感情が、安直な事実を否定しようと必死に理屈をこねくり回す。

『100万の人間に値する絶望! 100万の人間に値する魔力! 見事なり!』

「やかましいぞ」

 呪願機が何やら騒ぎ立てているが、耳障りなだけだった。

『絶望は満ちた。森羅万象の理を書き換える力を貴様に与えよう。さあ、その力を持ってして貴様は何を望む?』

「やかましいと言っているだろう!! 黙っていろ!!」

『…………え?』

「くそっ! ころね……? どこに行った? どこに行ったんだ、ころねぇ!」

 阿久斗はころねを探すも、まるで幻のように消えてしまっていた。あれが本当に幻であってほしいが、楽観的に物事を考えられるような柔軟さを阿久斗は持ち合わせていなかった。

「ころね! 僕は好きでアクダークをやっていたわけじゃない! だから、出てきてくれ! ころね!」

「がははははっ!! おーい、阿久斗ぉ!! 隕石が消えておらんぞぉ!? やっぱ、だめかぁ!?」

 求めていた姿は現れず、代わりに玄麻がやってきた。

「父さん、それよりも大変だ! ころねが、ころねが……!」

「んっ!? なんだ、ころねがどうかしたのかぁ!?」

 なぜ今まで気づけなかったのか、自分の愚かさが憎い。

 チョココロネの正体が、ころねであることは考えてみれば、すぐに分かる。

 魔法少女チョコ『ころね』。

 ――ころねの名前ががっつり入っているじゃないか!

「くっ……!」

 玄麻に、ころねの正体を告げようかと思ったが、今は言うべきではない。

 兄としてころねを守らなければならなかった。

「阿久斗、どうしたんだぁ!? なぜころねの名前が出てくるっ!?」

 阿久斗の動揺した様子から、ただ事でないことを察したらしく、血相を変えて玄麻は問いただしてくる。

「それは……その……」

 混乱していて、上手い言い訳が思いつかない。

「さっぱり分からんぞぉ!? しっかりと説明しろぉ!!」

「ころねが…………ころねは――」

 ばつんっ。

 頭の中で何かが切れる音がした。

「………………??? あれ?」

 何かがおかしい。自分の中で、何か膜を張ったような感覚に陥る。

 ――いま、僕は何と言おうとした?

「おい、阿久斗ぉ!! ころねがどうしたんだぁ!?」

「ころね……? ころねがどうかしたのか?」

 阿久斗は急に落ち着きを取り戻して、問いを返す。

「んんっ!? 阿久斗、おまえがころねのことを――」

『おい……そろそろ、願いを……?』

「あぁ!? 誰だ、テレパシー送ってくんのはぁ!? いま、大切な家族の大事な問題だぁ!! 部外者は引っ込んでろぉ!!」

『あ、はい』

「ふむぅ。おかしいな……」

 なぜか記憶の遡航が出来ない。

 玄麻に言われてみて思ったが、確かにころねに何かあったような気がする。ただ、それが何であるのかはサッパリだった。

「阿久斗ぉ!! 大丈夫かぁ!! 気は確かかぁ!?」

 心配した玄麻が肩を掴み、乱暴に揺さぶってくる。

「僕は、何をしたんだ?」

 糸が解れていくように、記憶が辿れない。

 まるで――魔法にでもかけられたかのようだった。

 阿久斗の顔は、まるで憑き物が落ちたようにスッキリとしている。

「おかしいんだ、父さん。僕は、ころねに酷いことをした気がするんだが、なぜか思い出せないんだ」

「はぁ!? 何を言ってんだぁ!? ボケたかぁ!?」

『おい、貴様ら、隕石が落ちてくるぞ……?』

 口を半開きにしながら、阿久斗は呪願機を見つめる。

 ――そうだ、呪願機に相談だ。

「呪願機、貴様は忘れた記憶を取り戻せることは出来るのか?」

『ようやく、その気になったか。無論、記憶の復元など容易いことだ』

「そうか」

 阿久斗は満足そうに頷く。

「呪願機よ! 僕の忘れている記憶を戻して――」

 同時、戸崎と美鈴が部屋に入ってくる。

 二人とも、阿久斗の凶行に顔を青白くさせた。

「わぁああああ! 服部ぃ、あの馬鹿を、首をへし折ってでも止めろ!」

「了解でござるよ!」

 願いを言い切る前に、美鈴の腕が首に巻き付いた。

「なにを――コキッ」

 首から軽い音がして阿久斗の意識は、闇の中に落ちていく。

 次に、阿久斗が目を覚ましたとき――呆気なくも、世界は救われていた。

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