〈体×心=満身創痍〉

 ころねは、まだ戦える。

 アクダークの電撃によって、加護のほとんどは効力を失った。

 だが意識だけは失われていない。いくつかの加護が身代わりとなって、電撃を軽減してくれたおかげだろう。

 痙攣する四肢に鞭を打ち、ころねは立ち上がる。

 チョココロネの姿を保っていられるのも、時間の問題だった。

 体は鉛のように重く、左目は何も見えない。

 柄が折れているステッキを拾い、ころねは残された右目で周囲を見回す。

 アクダークの姿はない。

 しかしアクダークの『残滓』が見える。

 戦前、サンド・ウィッチは二つの加護を新たに与えてくれた。

 一つは、身元隠蔽の加護。魔力が底を尽きるまで戦えるように気遣ってくれたものだろう。魔力切れて、第三者に素顔を見られてしまっても相手の記憶が抹消される魔法が施されている。

 もう一つ、魔力の流れを視覚化する加護。負傷していた左目をカバーするために用意してくれたものだ。

 この加護のおかげで、アクダークの転移先が容易に発見できた。

「……あれ?」

 ――アクダークも魔法使い……?

 加護の説明時は聞き流していたが、改めて疑問が思い浮かぶ。

 しかしその疑問に割く時間は、残されていなかった。

 天を仰ぐ。

 まだ真昼だというのに、空は燃えるように赤い。

 人類に残された時間は限られている。

「急がなくちゃ……」

 不自由な体を引きずりながら、のそりのそりと歩み出した。

 魔力の残滓を目で追う。

 水色に淡く光る、残滓。それは筆で描いた波風のように見えていた。

 ただただ、その波風を辿っていく。

 どこをどう歩いていたのかも分からない。

 気付けば、木々で鬱蒼としていたはずの風景は、潜水艦の通路のような場所に変わっていた。

 ころねは進む。

 会議室と書かれた部屋の扉を開けた。

 床にポッカリと口を広げる地下通路に、残滓が続いていた。

 梯子を踏み外さぬよう、慎重に降りる。

 その行き先に――彼はいた。

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