〈アクダーク×渾身のギャグ=ダダスベリ〉

 魔法界は、こちらの世界との繋がりを断ち、独立するように動いている。

 だが、その試みは上手く行っていない。

 二度の失敗を通して、魔法界では天変地異が起こり、大騒動となっている。

 隕石が落ちる前に魔法界は終わってしまうかもしれない。

 しかしそんなこと、今のころねにはどうでも良いことだった。

「クソ犬ぅー! 早くしやがれ! お兄ちゃんが無茶する前に、世界を救うんだよ!」

 ころねは病室にサンド・ウィッチを呼び出し、緊急の会議を開いていた。

「つい二日前まで魂の抜けた人形のようにしてたかと思えば……忙しい奴じゃのぅ!」

「なんか方法を思い付けよ、役立たず! 魔法使い100万人ぐらい生け贄にすれば、石ころひとつ壊せんだろ!?」

「馬鹿を言うでない! そんなこと、絶対に無理じゃ!」

「無理じゃねぇ! やるんだよ!」

 目を三角にして、ころねは怒鳴り散らす。

 ころね自身も家から持ってきてもらったノートパソコンでニュースなどから目を通して、様々な情報を取り入れているが、有用な情報は得られていない。

「どうすればいいのじゃ……魔法で無理ならば……呪法しか…………しかし、あれは……」

 ウンウンと呻きながら、知恵を振り絞るサンド・ウィッチ。

 ころねは隕石に新たな情報がないか、ノートパソコンで検索サイトのニュース欄をチェックする。

「……ん?」

 見覚えのある名前が載っている。


『丘市の小悪党アクダーク、渾身の隕石ギャグがスベり大炎上』


 芸人志望となった小悪党の末路は、笑えなかった。

 何がしたいのか分からないが、終末を前にして気でも狂ったのだろう。深くは考えず、情報収集を続ける。

 しかしアクダーク炎上の記事が、やけに多い。

 渋々開いた記事の中に『チョココロネに宛てられたメッセージ』という文章を見かけ、ころねは億劫な気持ちとなる。

 仕方なく、記事に張り付けられたURLを開いてみる。

 行き先は――動画投稿サイトだった。

 動画が再生され、見飽きた鉄仮面の男が映る。


『隕石(メテオ)を落とすのは、やメテオ!』


「死ね」

 あまりにも詰まらない第一声に対して、反射的に罵倒で返してしまった。

 懇切丁寧にテロップまで付けているあたりが、癪に障る

『ふぅはははは! 諸君! 人類最後の時間をいかがお過ごしかな? 私は世界滅亡が楽しくてしょうがない! 絶望している人々を見ることが最高に愉快だ! まさに至福の一時と言えよう!』

 動画を停止させようかと思ったが、魔法少女の名前がどこで出されているのかを突き止めるまで耐えることにした。

『だが! 私には、まだ果たせていない野望がある!』

 アクダークは画面を指さす。

『貴様のことだ! 魔法少女チョココロネ!』

 演出とは言え、まるで自分が指名されたようで、ころねはドキリとした。

『最後の勝負をしようじゃないか! 私は隕石を止める術を持っている! 万が一、貴様が私を倒せたら隕石を消し去ってやろう! だが貴様が負けたときは、世界には滅亡してもらおう!』

「アクダークめ、何を考えておる?」

 いつの間にか、サンド・ウィッチが動画を覗き込んでいる。

「最後に、わたしの手で殺されたいんじゃないの?」

「そうじゃのぅ……そもそも、あの小悪党に、隕石を止められる方法が――」

『なに? 私に隕石を止められるのか、だと?』

 アクダークの一人芝居なのだが、あまりのタイミングの良さに、サンド・ウィッチが体をビクリとさせた。

『これを見るがいい……! …………カメラ! そっちではない! 《ピー》が映っているぞ! 《ピー》《ピー》!』

 なにやらカメラを動かす方向を間違えたらしく、モザイクだらけの人物がワタワタと逃げていった。しかも画面の端では、カンペが見切れている。

『こほん! 待たせたな! 改めて、これを見るがいい!』

 カメラは、培養液に満たされた華を映し出す。

 遠近法で大きく見えるだけかと思っていたが、その華のサイズは人の身長を軽々と越えているほど巨大なものだった。

『我が最高傑作、呪願機だ! これさえあれば、世界情勢を一変させることも容易い!』

「なんじゃとぉおおおお!?」

 サンド・ウィッチが驚嘆の声を上げた。

「あれは、呪法道具ではないかっ!」

「なんだよ、その呪法道具って?」

「まさか……あの小悪党が……? しかし、あの呪法道具は、どのような効果を……?」

「おい。一人の世界に入ってんじゃねぇよ」

 ころねはサンド・ウィッチの頭を軽く叩いた。

「……あの装置なら、隕石の直撃を防げるかもしれん」

「マジで?」

「大マジじゃ。ワシが、現界に留まっている理由でもある。あれは呪法道具と言ってな? とある魔法使いが、人間の負の感情を魔力に変換する魔法を開発して――」

「んなもん、どうでもいいんだよ! いけるんだな!? 世界、救えるんだよな!?」

「おそらくじゃが、可能性は高い」

「よっしゃああああああ! お兄ちゃん、待ってて! わたしが世界救うからね!」

 ベッドから飛び降りたい衝動を抑えつつ、ころねはガッツポーズを取る。

『決戦の地は、尾段午(おだんご)山! そこで貴様に引導を渡してやる!』

「引導を渡すのは、わたしだよ!」

 自信満々のアクダークに、中指を突き立てる。

「ぶち殺してやるっ!」

 世界を救う。そのような陳腐なことではない。

 ――お兄ちゃんを守る。そのためならば、何度でもやってやる!

 ころねはハンカチを握りしめた。

「お兄ちゃん、わたしに力を貸してね……!」

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