〈闇×止み=病み〉

 薄暗い病室に、ころねは手元で光るディスプレイを凝視する。

「おにいちゃん……おにいちゃん……おにいちゃん……」

 何度電話をかけても阿久斗は出なかった。

 それでも、ころねは諦めない。

 これで何度目の『発信中』だろうか。3桁を越えたあたりで、ころねは数を数えるのをやめた。

「おにいちゃん……おにいちゃん……おにいちゃん……」

 メール、SNS、電話……様々な方法を使っても阿久斗の反応は一つもなかった。

「どうして、でてくれないの……」

 兄が無視するはずがない。おそらく忙しいのだろう。でも、72時間もずっと電話をかけ続けているのに、気づかないことなんてあるのだろうか。

 ――ああ、そっか。悪いのは携帯電話だ。

 この出来損ないの携帯電話が、兄へのメッセージを伝えられていないだけ。本来の役目さえ満足に全うできないゴミが悪い。

「やくたたず……っ!」

 フレームが軋むほど強く握りしめる。

 携帯電話を床に叩きつけようとしたが、その手を振り下ろせなかった。

 役立たずのゴミでも、唯一の繋がりだ。

 力なく、腕を下ろす。

「もうやだぁ! おにいちゃん……! おにいちゃん! なんでここにいないのぉ……!」

 つうっと涙が筋を作った。

 SNSを何度更新しても、阿久斗からのメッセージは届いていない。

 ころねはひたすらに想いを送り続けた。

「おにいちゃんっ! おにいちゃん……!」

 ――せかいなんてどうでもいい。そばにいてほしい。

 世界は終わる、そのときだけは手を繋いでほしい。

 それ以上は何も望まない。何も要らない。

 死ぬのも怖くない。

「おにいちゃん……どこ? どこにいるの……?」

 ころねは、ただただ小さな四角い窓を眺め続ける。

 そこがころねに残された最後の世界だった。

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