〈阿久斗×心=深淵〉

 阿久斗が基地の会議室に入ると、外国のミサイルが隕石の爆破及び軌道修正に失敗するという報道が出迎えてきた。

 第二陣として更なるミサイルを準備中らしいが、成功率については一切触れていない。

「……」

 テーブルの上に座る巨体――玄麻がモニターを眺め、髭だらけの口元に手を当てた。

「ピンチの時こそ、笑うのではないのか?」

「そうだったなぁ!! がははははっ!!」

 笑い声に覇気がない。

 目はくぼみ、顔色は土留め色になっている玄麻。不眠不休が続いているせいか、別人のようになっていた。

 阿久斗はそれ以上の言葉をかけることはなく、呪願機の部屋に降りていく。

 扉を開け、呪願機を見据える。

 水嵩は上がっていた。だが、まだまだ足りない。

「多くの人々に絶望を抱かせるしかない」

 世界を救うには、それしかなかった。

 考えろ。

 答えはマニュアルになんてない。

 残された希望は、ただ一つ。

 考えろ。

 持ち込んだラジオからは、わずかな希望にすがる声が響き続けていた。

 時折脳裏をよぎる妹の痛ましい姿が焦りを生み出す。

 五里霧中の状況、ずるずると思考は暗闇に呑まれていく。

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