〈超能力者×視線=足元へ〉
アクダークの基地内。
父親の玄麻に諭されて静観できるほど阿久斗は、楽天家ではなかった。
作戦会議室の下に位置する『呪願機』へと足を運ぶ。
梯子を降り、呪願機との距離が近づくに連れ、例の不快感が増していく。
だが躊躇している暇はなかった。
呪願機がある部屋の扉を開く。
仮に、呪願機が本当に人の絶望を糧にしているとするならば――いま、世界中の絶望が集まっているはず。
「……!」
阿久斗は生唾を飲む。
巨大な花を培養する容器。それを満たす液体の水量が増大している。
だが――満ちてはいなかった。
水嵩は容器の2/3を越えたあたりにしか達しておらず、まだまだ足りない。
捕らぬ狸の皮算用とは言わないが、阿久斗はいかなる願いも叶えてくれる呪願機ならばあの隕石をどうにかしてくれると考えていた。
そして、この隕石と呪願機に因果を感じ取る。
「まさか――」
ぞくりっ。
全身の毛穴が開いていく。
「貴様の仕業とでも言うのか……?」
もし祖父が呪願機を『二度』使っていたとしたら。
被害妄想も甚だしい領域の仮説であることは重々承知であった。
小惑星の軌道が不自然だったために発表が遅れた、というNASAの一報もある。
隕石と呪願機の関係を結び付けると、最悪の結末が待っていた。
「もう、誰にも止められはしない……」
呪願機が放つ不気味さが、一層色濃くなる。
阿久斗は一歩後ろに下がった瞬間――ポケットに入れてあった携帯電話が震えた。
着信元は母親の浅深。
電話嫌いの浅深が阿久斗に電話をかけることは非常に珍しい。
一抹の不安を胸中に、阿久斗は通話ボタンを押す。
「阿久斗!? 落ち着いて聞きなさい!! ころねが――」
最悪の未来を示すような不幸が始まった。
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