〈阿久斗×視線=前へ〉
部屋の外で誰かの話し声が聞こえているが、阿久斗は自室のテレビに集中して気にも留めなかった。
早朝のニュース番組では、特番が組まれて隕石についての情報を開示している。
NASAの声明は頻繁に公開される。
それは事態の深刻さを表しているようだった。
直径3kmほどの小惑星――家から駅までの距離にも満たない岩――によって、70億までも増えた一つの種族が一瞬で絶滅する。
落下地点はまだ分かっていないが、どこに落ちようと、地球は人の住めない星になるらしい。
世界は混沌に包まれている。
有人飛行を諦めていたはずの国々が、地球離脱用の宇宙船開発に取りかかり、すでに地球へ飛び立った人類もいるようだった。
阿久斗はテレビの電源を落とし、早々と着替える。
向かうはアクダークの基地。
自転車を漕いで通り抜ける町並みは、いつもよりも静かだった。
「がははははっ!! 阿久斗ぉ!! 大変だぞぉ!? 隕石が落っこちてくるぞぉ!!」
基地の会議室に辿り着くやいなや、豪快な声が出迎える。
「笑っている場合か」
「がははははっ!! 余裕がないなぁ、阿久斗ぉ!! 悪党はピンチな時ほど笑うんだぞぉ!?」
玄麻は喉仏を晒すほどの大笑いをする。
「笑って解決するのなら、いくらでも笑ってやる」
会議室のモニターには、先ほどまで阿久斗が見ていたニュース番組が流れていた。
ニュース番組は新しい情報を開示する。力のある国が隕石を打ち落とそうと、ミサイルの発射準備を始めているらしい。
「僕の超能力で隕石の軌道を変えられたら……」
「そりゃあ無理な話だぞぉ!! 父ちゃんたちは、所詮ただの人間なんだからなぁ!」
「黙れ」
玄麻を睨みつける。
だが、阿久斗の予想に反して玄麻は笑っていなかった。
「阿久斗、そうカリカリするな。いつもの冷静さを忘れるな。悪党として、おまえの唯一の長所だったはずだぞ?」
「……っ」
「世界も、悪党連盟も、動いている。おそらくあの魔法少女もだ」
普段では絶対に見せることのない落ち着いた一面を玄麻は見せてきた。
「ただ見ていろというのか」
秘密基地に訪れた理由は、自分の超能力が何かの役に立てないか模索するためだった。
それを玄麻に頭ごなしに否定される。
「俺たちはただの人間。出来ることは限られてんだ」
まるで自分に言い聞かせるような口調に、阿久斗は気づいた。玄麻の足下には、祖父が書き綴った発明品の資料や設計図が散らばっている。
目の下に浮かび上がる隈がすべてを物語った。
「まあ、あいつならやってくれるかもしれないなぁ」
「あいつ……?」
不意に玄麻が天井を仰ぐ。
「いまごろ、魔法少女が石ころを砕いてんじゃないか?」
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