〈ころね×視線=前へ〉

 鳥の声も聞こえないほど静かな早朝。

 ころねは自室の窓から、普段と変わらない青空を眺めていた。

「何も見えないのに……」

 この空は、一ヶ月後には存在しない。

 ふと扉の開く音が聞こえ、ころねは視線を転じる。

「ころね、話がある」

 ダックスフンドの姿をした魔女、サンド・ウィッチは重々しい口調で告げた。

「いま、魔法界では力のある魔法使いが集まり、様々な対策を練っておる」

「へぇ、そっちにも影響あるんだ」

「ある。この現界と魔法界は別の空間にあるのじゃが、巨大なパイプで繋がっておる。こちらの世界が壊れれば、魔法界も崩壊するじゃろう」

「わたしたちだけでも魔法界へ逃げたって、平穏に暮らせないってわけか……」

「そういうことじゃ」

 ころねは極めて現実的で非情なことを言ったつもりだったが、サンド・ウィッチに動じる様子はなかった。

「まっ、そんなこと、どうでもいいんだけどね」

 ころねは、お気に入りのハンカチを取り出す。弱い気持ちを潰すように、ハンカチを強く握りしめた。

「さっさと言いなさいよ、クソ犬。わたしは何をすればいいの?」


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