〈勝利×報酬=サイン〉
新藤カナミを無事に守り抜いた(?)ころねが、イベント会場の観覧席に戻る。
アクダークの乱入のせいでキャラクターショーは中止。観覧席を埋めていた人々は、もう影も形もない。
阿久斗と離れてから1時間以上も経っていたが、兄は友達と一緒に待っていた。
歩むスピードが自然と速くなる。
ころねには阿久斗の後ろ姿しか見えない。
「お兄ちゃん……!」
振り返る阿久斗を見て、ころねは絶句した。
「……お、お兄ちゃんッ!? どうしたの、その顔!?」
阿久斗の顔は、ボクシング選手の最終ラウンド張りに腫れ上がっている。
「気にするな。ちょっと躓いただけだ」
人差し指と親指を確認すると、虚偽判定が出た。
「お兄ちゃん! ちょっと躓いただけで、そんな怪我は普通しないよ!? ほんとのこと言って!」
「ふむぅ」
言い出すのを渋る阿久斗。
「妹君、実は阿久斗殿は厠でアクダークに襲われたのでござるよ」
「なっ!?」
「心配させてすまない、ころね。トイレに割り込んできたアクダークを注意したばかりに、このような仕打ちを受けてしまった」
「あのクソやろ……アクダークめ、よくもお兄ちゃんを……! 次、会ったら両足もいでやるんだからっ!」
トイレの割り込みなど、やることが小悪党にもほどがある。
「なのなの! でも、あのアクダークに痛めつけられて、その程度の怪我でよかったの!」
「はぁ? 奈央子、マジで言ってんの? 殺すよ?」
「ヒィ! なのぉ!」
ころねは、奈央子の襟首を掴み上げる。
「あのクソ野郎は、お兄ちゃんを傷つけたんだよ? 処刑よ、処刑。生きたままハラワタ抉り取って、豚の餌にしてやんのよ。それでも足りないくらいの罪だからね? そこんとこ、分かってんの?」
「わ、分かったの!」
「分かればいいのよ、分かれば」
半ば突き飛ばすように奈央子を解放する。
頭の中では、アクダークの処刑方法が網羅されている。
アクダークは一番手を出してはいけない相手を傷づけた。
「あーっ! 大変なのぉ!」
背後から奈央子に叫ばれ、ころねの心臓は大きく跳ね上がった。
「チッ! あんだよ、奈央子。急に大声出すなっての。あんたも一緒に処刑されたい?」
「ころねちゃん、大変なの! 今日、新藤カナミのサイン会が最後にやる予定だったの! おにぃのサイン貰ってないの!」
「はぁ? サイン? ほら、これやるから少し黙ってろ。いま、アクダークの処刑方法考えんのに必死なんだよ」
さきほど助けた新藤カナミから、感謝の印として貰ったサイン入りの色紙を、奈央子に渡す。興味がないから、宛名を奈央子にしておいて正解だった。
「なのぉ!? どうしたの、これぇ!?」
「たまたまカナブンとすれ違ったから貰っただけだよ」
「かなりんなの! でもでも、嬉しいの! かなりんからサイン貰えるなんてスーパーラッキーウーマンなの!」
奈央子が感極まって抱きついてくる。
「わぶっ! くっつくなって!」
「ころねちゃんは、あたしの救世主なの! 大親友なのー!」
「わたしは、あんたなんて友達だと一瞬たりとも思ったことはないっつうの!」
「照れなくていいのぉ!」
「いいから、離れろぉ!」
少し離れた位置から、阿久斗たちに見られて、ころねは羞恥心を感じながら必死に奈央子を引き剥がそうとする。
「仲良きことは良いことでござるなぁ!」
「ふむぅ、ころねは良い友達を持ったな」
外野がほんわかしていることがさらに羞恥心を掻き立てられる。
締め落としてやろうかと、ころねが考えた矢先、
「あれ……これ……おにぃじゃなくて、あたしの名前なの……」
「あっ」
この場にいるほぼ全員が声をそろえた。
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