〈今日×世界=終わり〉

 一日の終わり、阿久斗は自室で猛省していた。

 いくら不確定要素が多かったとはいえ、何の成果も上げられていない。

 今回の反省点をメモ帳に列記していく。

「お兄ちゃん?」

 焦点となる問題は、プリティだんべるだった。

 見た目とは反した素早い身のこなし。おそらく体術では美鈴と同等か、それ以上だろう。

「おにーちゃーん?」

 今後とも目の前に立ちはだかるようであるのなら、阿久斗側も戦力増強を計らなければならない。不本意ではあるが、美鈴を戦闘に荷担させることも視野に入れるべきだろう。

「ふむぅ」

「お兄ちゃん!!」

「!?」

 とっさに阿久斗はメモ帳を閉じて隠した。

 内容は見られてはいない。だが、メモ帳の行方を目で追われている。

「こ、ころね。部屋にはいるときはノックを――」

「したよ! でもお兄ちゃん、返事しないんだもん!」

「それはすまない。考え事に没頭していた」

 ころねの表情が曇る。

「お兄ちゃん、怪我は大丈夫? 痛くて我慢してるわけじゃないよね?」

「こんなもの、大した怪我じゃない」

「こんなものじゃないもん!」

 ころねは怪我の具合を心配してきたのだと分かり、阿久斗は優しくころねの頭を撫でた。すると、猫のように気持ちよさそうに目を細める。

「本当に大丈夫だ」

「アクダークにやられた傷、痛まない? ひどいよ、こんなに痛めつけるなんて……」

 腫れた頬に手を添えられる。

「かすり傷みたいなものだ」

「ううん、わかるもん。特に、この傷……性根の腐った奴じゃないと、こんな傷つけ方はしないよ。あんな悪党、頭かち割れて死ねばいいのよ」

 ころねが指さした傷。そこはチョココロネの不意打ちによる負傷なのだが、口が裂けても言えなかった。

「それでね、お兄ちゃん……その、元気出してもらいたくて……えっと……」

 ころねは、頬を紅潮させながら歯切れの悪い言葉を並べる。その後の言葉は続かず、彼女は行動で示した。

 目の前に突き出されたのは、阿久斗の好物であるチョココロネ。

「これは……?」

「元気になるお薬! 過剰接種に注意だよ!」

 そう言い残して、茹で蛸のように真っ赤な顔を両手で覆いながら、ころねは部屋から出て行ってしまった。

 受け取ったチョココロネを見下ろして、阿久斗は薄く笑う。

 これほどまでに思いやりのある妹がいることに、誇りを覚えるほどだった。

「ありがとう、と言わないとな」

 ころねの後を追い、部屋から出る。

 どこかでサンド・ウィッチが何度も吠えている。おそらくサンド・ウィッチの近くに、ころねがいるのだろう。

 阿久斗の予想は的中していた。

 居間で、サンド・ウィッチところねの姿を見つける。

「ころね……?」

 声をかけようとして、様子がおかしいことに気づいた。

 ころねは顔を青白くさせ、テレビのニュース番組を凝視している。

 第六感が働く。

 体が冷えていく感覚が、不安を掻き立てた。

「お兄ちゃん、大変だよ……」

『先ほどNASAからの発表があり、巨大な隕石が地球に落ちる可能性が飛躍的に高くなり、世界規模での対策が必要であることを説明しました』

「地球が、滅亡しちゃう」

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