〈イベント×乱入者=悪役〉
トークショーも終盤。
本日の主役である新藤カナミが、最後のコーナー発表をすると、ステージ上に乱入者が現れた。
「子供が退屈するほど長ったらしいトークショーは、そこまでだボーン!」
親子たちの気持ちを代弁した乱入者は、悪役の着ぐるみだった。
「この肥満怪人メタボーン様が、つまらねぇステージを盛り上げに来てやったボーン!」
豚顔に、膨れ上がったパン生地のようなデブ腹。上半身裸の状態で、『糖分・塩分・脂肪分』と印字されたタスキを掛けている。
ソーセージを模した武器を振り回す肥満怪人の登場は、子供たちが失っていた目の光りを、取り戻させた。
そして、悪ノリをした一人の親が「よくやった! メタボーン!」と囃し立てたせいで、メタボーンコールが生まれる。
関心のないイベントを再開させたくないのか、子供たちも必死に叫んでいる。
「ぶひひーん! 声援が心地良いボーン! 手始めに新藤カナミをメタボリックストームの餌食にしてやるボーン! ぶくぶく太って俺様好みの女になるボーン!」
ばたばたと重い足取りで近づき、新藤カナミを捕縛する。
イベントの流れらしく、「太ってる人は嫌いじゃないけど、太るのはイヤァ!」とファンを労られるほどの余裕が彼女にはあった。
メタボーンが片手で新藤カナミの腕をとらえた瞬間、「このクソ豚ぁ! かなりんに気安く触ってんじゃねぇぞ!」「チャーシューにしてやろうかぁ!?」「かなりんを放せ! 汚れるだろ! 家畜!」などと年の功ならではの野次が飛んだ。
さすがの新藤カナミも苦笑を浮かべていたものの、イベントの進行はしっかりと進める。
「みんなにお願いがあるの! かなりんが、ぶっくぶくに太らされないように、みんなでプリティだんべるを呼んで! みんなで呼べば、きっとプリティだんべるに声が届くと思うの! それじゃあ、いくよ!? さあ、一緒に――」
「その必要はないっ!」
マイクがハウリングを起こすほどの大声によって、新藤カナミの声はかき消された。
彼女は壇上に上がる、二度目の乱入者を見て硬直する。
黒いマントに鉄仮面という、わずかなシンボルだけで彼は自分が何者であるかを語っていた。
「げぇ! アクダークっ!?」
イベント会場の隅にて。ころねは、会場一番の驚嘆を上げた。
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