導きだされる答え。
一二三達は充達の偵察の間、コテージでその身を休めていた。その間に心の本体が合流していた。
頼りなる人が集まりつつある。これならきっとうまくいくという確信を抱かせるには十分なものだ、それに加えて――
「碌さん!」
「……まさか、また会う事になるとは」
かつての仲間、"スマイルギフト"、須賀井碌がコテージへと上がると一二三は笑顔になる。
戦いを共にした最高のパートナーだ。
「心ちゃんが――」
「今はやることがあるから話は後でね」
「その通りよ、"スマイルギフト"にはリンダさんを助けてもらわないといけないからね。患者は二階よ、"スマイルギフト"」
「やれやれ、人使いが荒い事だ」
遅れてきた千恵が二階へと肩をすくめる碌を連れて行った、
3か月ぶりの相棒はいつも通りでとても頼もしく見えた。
さらに遅れて充がやってくる。
充の様子が違う、さっきまで切羽詰まったものだったが今は落ちついているように見えた。
「おかえり、暁」
「……ん、ただいま。シス」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
シスの心配そうな表情に充は微笑して応じていた。
どこからさっきよりも力が抜けているような、そんな印象を受けた。
「偵察、お疲れ様でした。リンダが動けるようになり次第作戦会議にしましょう。それまではゆっくり休んでください、私は考えをまとめてきます」
「じゃあ、俺達は先輩の様子を見てくるよ。手伝えそうにないし」
心は淡々とそういって出ていこうとすれば、充達は二階へと上がっていく
そうして一二三が一人、取り残されることになる。
「ちょっとジュースでも買ってこよっと」
誰に言う訳もなく言って、外へと足を向けた。
何ともいえない空気に一二三は耐えきれず心を追うように出て行けば玄関を出てすぐのところに心はいた。
空は曇り、少しずつ晴れ間が見え始めていた。
「どうしましたか? "黒の王子"」
「ちょっとジュースを買いに、っていう建前で心ちゃんとお喋りをしに」
こちらの言葉に心は一歩引いて。訝しげに見つめる。
「この空気の中、口説こうと? 最低ですね」
「いや待って、そうじゃないって!」
何故、シスにしても千恵にしても誰かれ構わず口説く。軽い男と思われているのか。
口説く時はいつだって自分は全力だというのにという不満を口にしたくなるがそれは次の機会にしようと決めて。
「偵察の時、何があったのかな、って。暁、なんか様子変わってたし」
「……男性を気にするのですね。少し意外です」
「いや、暁が元気ないとシスちゃんが悲しくなるからね」
「そういうことですか。結局は女のためと」
「否定はしないけどさ」
まあいいでしょうと、心は口を開き。
「”アマテラス”は私の従者をかばおうとしましたが、出来なかった。そして願いを叶えるために捨てる覚悟をしてもらおうとそういう話をしました」
「願いを叶えるために捨てる覚悟?」
一二三が首をかしげるとそうです、と心は頷いた。
「”アマテラス”の場合ならば”ドブネズミのリンダ”とシスターを守るためならば他を犠牲にするとそういう話です、彼は甘い。全てを自分一人で助けられるとそう、思っていた」
「……俺もそんな覚悟はしてないけどね」
「あなたには迷いがない。可愛い女子の味方でしょう?」
「当然」
きぱっと一二三は答えた。
「だから、あなたは最低ですが強い、そのためにだったら割り切れる強さがあるし必要であれば助けを求める。けど、今のアマテラスにはそれが出来ていなかった、迷っていた」
充が独りで、物事を背負っているということだ。
オーヴァードの戦いはそう簡単にいかないものであることは一二三でも容易に想像できた。
人との繋がりがあるから戦える。
それをなくして迎える先は――死亡かジャーム化であることも。
そうなればどれだけシスが悲しむか。
「ちょっといらっとするなー」
男のために動くというのは少々、自分らしくないとも思うが結果としてシスのためだと思えば苦ではない。
「……ですが。大丈夫でしょう」
一発、充に喝を入れようと動かした足を一二三は止めた。
「どうして?」
「彼は迷う事を辞めたように見えましたから」
「え? どういうこと? なんで?」
「彼の守りたいものとすべきことがはっきりしましたということです」
笑みを浮かべる心にあ、笑うとやっぱ可愛いなと思いながらとりあえずなんとかなったのであれば自分が出る幕はないと思い充の事は考えないことにした。
そうなると話題は必然と別の事になる。
「……碌さんと話さなくていいの?」
「余計なお世話です」
一二三の言葉を遮るように心はきっぱりと言った。その反応からやはりかなり意識してるのだと感じれば自然と笑んで。
「チャンスは大事だよ? 心ちゃん」
「気安く呼ばないでください。そして余計なお世話といっています」
「……なんかあったら相談には乗るよ? 俺。 乗り換えもオッケーだし」
「それはありがたいと思いますが乗り換えは絶対にないので」
密かに絶対という部分を強調されて半目を向けられればがっくりと肩を落とした。
「人の事より、自分の方はどうなのですか? 殿森陽菜とは」
あー、と言いながら一二三は視線を逸らした。
「まあ、ぼちぼち?」
言葉を濁した。
実際、一二三としてはまだまだ遊んでいたいというわけで陽菜との付き合いは横浜の一件から特に進展はしていなかったからだ。
というより進展させるのが怖い。陽菜の祖父はUGN横浜支部の支部長である。加えてその筋の人である。関係を進めたが最後。女遊びをしようものなら何をされるか分かったものではない。
「ということは姉さんにもチャンスはまだあると」
「"吸血姫"、まだ俺、狙ってんの?」
「ええ、もちろん」
――"吸血姫"。カリア=フェイスロード。元FHに属する側だったがオーヴァードが安心して過ごせる国を作ろうと動いているオーヴァードだ。自ら王女を自称し、全てを背負う、そんな強さを持っていた。
精神操作により無意識に優秀なオーヴァードを集めるようにされ、一二三に惚れていたが、後にそれが解けたこと、一二三に救われたことで目をつけられることになってしまった。
片やUGN、片や元FH。どちらを選んでも後が怖い。どうしてこんなことになったのか。
久々の胃がきりきりする感覚に一二三は表情を歪めた。
その様子にため息を一つ心はついて。
「いつか刺されますね」
「笑えない冗談いわないでほしいなー……とか」
「冗談ではないので」
至極冷静に答える心の言葉に頭をかいた。
そこで轟音が響いた。同時に冷えるようなワーディングの感覚が来た。
「今のは――」
一二三が聞くより早く心がコテージへと戻っていった。
「ったく少しくらい休ませろよな!!」
ここは未だ、戦場だった。
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