第2話 メシエカタログ

 なんだか勢いにまかせて第1話を掲載してしまった。出だしをどうしようか考えてばかりで、ちっとも先に進めていなかったネタなんだけど、これ。

 でもまあこれでなんとかなるでしょう。


 で、前回の話から続けていく感じになるのだけれど、ちょうこくしつ座の銀河NGC55という天体は日本から見える銀河としては3番目に明るい、と言われる。ちなみに、1番目がアンドロメダ銀河で、2番めがさんかく座銀河。日本から見える、と限定しているのは、南天の日本で見えない空には大小マゼラン銀河があるから、そっちのほうが明るくなってしまうからであるな。あ、「天の川」は含みません。あくまで系外銀河の話である。

 と言うと、あれ?と思う人がいるかもしれない。

 そんな明るい銀河なのに、エムなんとかという数字はついてないの、と。

 その質問はするどい。


 明るい星雲とか星団とか銀河とかには、Mいくつ、という名前が付いているものが多い。例えば、アンドロメダ座銀河はM31で、さんかく座銀河はM33である。しかし、NGC55にはそういう番号はついていない。もっと暗い銀河でMいくつ、という名がついている銀河は多数あるにもかかわらず、である。


 あのMいくつ、というのは正確には「メシエいくつ」である。これはメシエカタログという、星雲や星団、銀河のカタログがあって、その中の何番目にリストされているかという意味の数字である。M31なら31番目だ。

 いやそれにしてもまどるっこしい。星雲や星団、銀河ってもう少し統一性のないカタログは作れんかったのかと思う向きもあろう。ちなみに星雲、星団、銀河と書いてみたけれど、実際にはさらに「など」がつく。どれでもないのもあるので。

 一つには、メシエカタログが作られた時代にはまだ星雲や星団の正体というのが良く分かっていなかった、というのがある。メシエカタログは、メシエという人が作ったカタログだが、歴史はかなり古い。18世紀に活躍した天文学者である。

 もう一つは、これは、カタログの成立事情とかかわりがある。

 メシエという天文学者は、このメシエカタログで今なおその名が知られる学者となっている。となると、なるほどメシエは星雲や星団の専門家だったのか、と思われるであろう。

 ところが、そうではない。この人は主に彗星が専門としていた。どういうことだ、全然関係ないではないか。


 彗星を専門としていたといっても、もちろん18世紀だから、探査機を飛ばして彗星に軟着陸させて一部を採取……なんてことができるわけはない。この人の業績は、「発見」が多くを占める。彗星を発見したということが業績になっているのだ。

 当時はまだカメラがない時代だから、彗星探しももちろん、肉眼で行っていた。さすがに裸眼ではない。望遠鏡を使って、である。倍率をあげても点にしか見えない星と違い、彗星はぼやっとしたものとして見えるから、そういうものを探していたというわけだ。

 ところがここで問題がある。空には、彗星っぽいけど彗星じゃないものが時々あるのである。それはまさに、星雲とか、星団、銀河である。星団って星の集まりなのになんでぼやっとしてるのか?と疑問に思う人もいるかもしれない。大きさに対してあまり倍率をかけないで見ると、星がきちんと分離されずに雲のように見える。典型的なのが、アンドロメダ大銀河を肉眼や双眼鏡でみたときのあの感じである。無論アンドロメダ銀河は数千億の星からなっているけれど、分離はできないで雲のように見える。遠すぎるから。

 メシエにとって、これらは邪魔者である。紛らわしい。なので、紛らわしくないように、リストアップしてカタログ化した。それがメシエカタログである。

 なので、今から見ると、いろいろなタイプの天体のごった煮になっているのだ。


 じゃあ、NGC55も当然入っていておかしくないのではないか?と思ってしまう。

 ところが、メシエはフランスの天文学者である。フランスの緯度は高い。パリのあたりだと北緯48°ある。

 北へ行くと、南の星座が見えなくなる。なので、パリのあたりだと東京や大阪だと地平線すれすれに現れるカノープスなどは見ることが出来ない。

 北緯48°だと、NGC55は、一番高くなっても地平線3°までしか上ってこない。東京で見るカノープスよりわずかに高い程度。元々淡い天体である。これではメシエにその存在を知られることはなかっただろう。

 もちろん、確かにこの天体を「発見」したのもヨーロッパ人ではある。それはジェームズ・ダンロップというスコットランド人だ。スコットランドってフランスよりもっと緯度高いじゃないの…… と思うかもしれないがそこはそれ、彼はオーストラリアでこれを発見したのだ。1826年のことである。メシエは1817年に没しているので、その9年後のことだ。

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