貌の無い街

上林暗正

第1話

タバコの灰を落としてまた喋る。

「でさ、言ってやったわけよ。もうこんな無駄なことやめませんか?って。」

俺よりも一回り、下手したら二回り年上の女おねえさんはエーとかヘーとか曖昧に相槌を打ちながら酒をつぐ。

俺が少し黙ると、彼女はこっちを見て曖昧に微笑む。つられて俺の口角も少し上がってしまうがすぐに酒に口をつけて隠す。

狭くて薄暗い店内に他に客はいない。


「ヤベーなこれは。」

道路の段差をまたぎながら財布を見ると、たくさんいた諭吉さんが1人もいなくなっていた。今月は節約して朝キャバに通ってたけど、どうしよう。吐く息は白く、心細くなる。

とりあえず今日はすき家の豚丼で我慢しよう。でも健康に気を使って、せめて卵は入れるんだ。


すき家の便所に座り込んで携帯をいじって時間を潰す。好きでもない酒を飲みすぎて腹の調子がおかしい。というか、もともとストレスで下痢気味だったので正直メチャクチャだ。

でもやっぱり、キャバクラにはまた行きたい。女の子は俺の話を聞いてくれるし、その場限りの関係だから何を話しても面倒がない。金だけの関係というところも却って安心感を与えてくれる。少しコストがかかるのが難点だが、男には少しくらい息抜きが必要だ。

ウォシュレットが痔に優しい。俺の傷ついた心に優しくしてくれるのは、キャバクラとウォシュレットだけだ。


家に帰ると、アクエリアスを飲んでそのまま俺は寝た。

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貌の無い街 上林暗正 @shimobayashi

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