Ⅳ 昨日の敵は今日の友

 

「ここは本当に病院なんですかっ!幼気な事故患者を外に放り出すなんてっ‼」


 屋上の中央にポツンとおかれた机に齧りついて、万年筆を走らせるヴェラは、時折そんなことを大声でぼやきながら、肌寒い風の吹く中、必死に執筆作業をしていた。

 

思い立ったが半狂乱。何が何でも書いてやるとやけくそ交じりに、書き始めてみると、意外と筆が進んだので、そのままショウセツカーズ・ハイに突入して、


「うぉぉらぁー」とか、

「やってやりますよっ!やってやりますとも!」とか、

「Oッ×ぅ△!だぁ」とか。叫んでいたら、夜勤のナースが慌ててやって来て、


「もう消灯時間過ぎてるんですから静かにして下さいっ!」と激しく怒られた。


 ナースの声の方が迷惑じゃないか。そう思いつつ、ナースを無視して一度は口を瞑んだヴェラだったが、


「うぉらーぁっ」とか、

「明日はナポリタンだぁぁぁっ!」とか、

「光の速度で書けすとも!書きますよ、書きますっ、うひょっ‼」とか叫んでいると、


「ちょっと、何考えてるのよっ‼迷惑だって言ったでしょ‼隣の病室からも苦情も来てるんだからっ!ランプも消してっ」と青筋を立てたナースが出会い頭にヴェラの胸倉をつかんできたので、


「白衣の天使が怖くて小説家がやってられますかっ‼気に入らないなら戦争をしようじゃないかっ!かかってこいやぁっ‼」と逆にヴェラが勢いでナースを押し倒して馬乗りになると、両手にとても柔らかいモノが当たったので、イラッとした。


「なんですか、この柔らかいモノわっ!私へのあてつけですねそうですかっ‼翼ごともぎ取ってくれますっ‼」


 そんなことを口走って、胸元を揉みしだいていたら、誰が呼んだのか守衛やら別病棟のナースと思しきナースが駆け付けて来て、ヴェラは瞬く間に取り押さえられてしまった。


「私はただ、小説を書きたいだけなんです!私は作家です、書くのをやめたら死んでしまうんです!放せぇっ!」


 と喚いたら。


「だったらっ!もう外で書いてくださいっ‼」


 涙を拭きながら白衣を直していたナースがついにキレた。


そして、現在に至る。


 寒空の下に放りだされてみれば、半ばトランス状態にあったとは言え、少しやり過ぎた。足先の次に頭が冷えた。

 個室なのをいいことにはしゃぎ過ぎた……もとい、暴走しすぎてしまった。

 見上げる夜空には北斗七星。机の上には、読解不明なアステカ文字群が羅列された原稿用紙。シナリオは次から次へと流れるように、浮かんできたというのに、アウトプットする左手がそれにまるで追いつていなかった……右手であれば、ギリギリ読解可能な文字で収まると言うのに。

 今更、スペックの差を嘆いてもはじまらない。そもそも、性能差に関しては織り込み済みだったはずなのだから。

 せめてもの救いは、キャシーの万年筆が壊れていないと言う事だけだった。

 

「今夜の私は、今までにないくらい鬼がかってましたね」


 満天の星空を見上げながら、ヴェラは心持ち穏やかに呟く様に言った。


「お婆ちゃん。言ってやりましたよ。私は作家だって。書くのをやめたら死ぬんだって」


 ヴェラは左手に拳を作ると、夜空に突き出した。


「負けませんよっ!誰にも。そして自分自身にもっ‼」


 ヴェラは怖った。

 新聞連載の作品に人気が出たのはまぐれで、新作品が書籍化された途端、人気がなくなるのではないだろうか。叩かれるのではないだろうか。

 そして、それが原因で新聞連載の仕事も失うのではないだろうか……

 自信がない自分が、後ろ向きな自分が、骨折を大義名分に胡坐をかいて、偉そうに「しかたがないじゃん」とふんぞり返っていた。

 そんな自分の背中に飛び蹴りを喰らわせられる自分がいなかった。

 ただそれだけ……


 最強の敵はいつだって自分自身なのだ。 



 O



「寒い……」


 草木も眠りにつく頃、ヴェラは寒さに耐えかねて、病室に毛布を取りに戻ることにした。

静寂が支配する病棟の廊下にペタペタと響くスリッパの音。明かりと言えば窓から差し込む星明りと頼りない非常灯の光だけ。

 とても、ホラーの世界だ。

 これは、小説のタネに使えるかもしれない。そんな呑気なことを考えながら、内心では見えない何かに怯えながら詰所前の病室へと向かった。

 非常階段の角を曲がったところで詰所の明かりが見えたので、ほっとした。誰かが居てくれると言うだけで、これほど安堵するとは……うん。これもタネに使える。

例え、そこにいるのが、プチ乱闘をした相手であってもである。

カレンダーでは昨日の出来事であっても、記憶の中ではまだまだ鮮明な部類に入る。きっと、あのナースは起きているだろうから、多分、気が付かれるだろう。ペタペタ音でバレているだろうし。

顔を合わせるのが気まずい……


「あ……どっ、どうかされましたか」


 詰所の前で、聞き覚えのある声がヴェラの後頭部に投げかけられた。

 ビクリと肩を震わせて、ぎこちない笑みを作って振り返ると、カウンター越しに、引きつった笑みを浮かべているナースが立っていた。

 読書でもしていたのだろうか、胸元にハードカバーを抱くようにして持っている。

 その本は、鮮やかなグリーンの装丁に金色抜きでタイトルが書かれてあるようで、ヴェラはその本に見覚えがあった。

 

「クリスタル・エドワースがお好きなんですか?」


「へっ?」


「あぁ、すみません。その本ですよ。私の持っている〈百合色のバトラーシリーズ〉に似ていたもので、つい」


「いっいえ。これ、〈百合色のバトラー〉の第一巻です。面白いからと薦められて」


「確かに、面白いです。バトラーと主人が入れ替わってるところなんか、設定が斬新だと思いましたし、細々としたゴタゴタやなんかも好きなんですけどね」


「それ、私も思いましたっ!。あ」つい、声が大きくなってしまったナースは、「まだ、序盤なのでゴタゴタはまだですけど、楽しみです」慌てて声量を絞って話を続けた。 

 

「…」


「……」


「それでは、私は毛布を取りに来ただけなので」


 なんとなく、無言が続いたので、ヴェラはそう言って、毛布を取りに病室へ入ると、さっさと毛布と上着を手に再び病室を出た。

 取り立ててナースと話す話題もなかったが、横目で見やると、ナースはカウンターから顔だけを覗かせてヴェラのことを視線で追っていた。

屋上に戻ったヴェラは、机に戻るまでに、相当な寒さに歯を震わせた。暖房が入っていなくとも、室内とはこんなに暖かいものなのか。

 とりあえず、毛布を頭から被り、寒さに体が慣れるまで椅子の上で膝を抱えていたが、体が慣れてくると、眠気が飛んで丁度いい感じになったので、執筆を再開した。

 吐く息が白い。

 まさか、こんな過酷な状況で、しかも病院の屋上で夜を徹して執筆することになるなんて、夢にも思わなかったが、頑張ってる自分感が半端ではない分、事の他、別の何かが燃え盛っていて、走らせるペンにも力が入った。

 これが、俗に言う〈燃える展開〉と言うやつだろうか。

ヴェラはますます、上機嫌になった。

 そして、付け加えると言うのであれば、いつになく物語や設定が、ホイホイと湧き出てくるのである。いつもは、頭を掻きむしってみたり、床に転がってみたりして、足掻きに足掻いて煮詰まった物語の展開打破を考えるのだが、今夜に関しては、それが全くなかった。

 まるで、機械で編まれてゆく絨毯のように、すいすいと物語が進んでゆく。

 そもそも、ミステリーと言うジャンルを難しく捕まえ過ぎていたきらいがあったことは否めない。

 だから、ミステリーとはこうあるべき!と、トリックやら登場人物やらに頭を悩ませていたわけだが、別段、ジャンルはミステリーでも、既存のミステリーの枠に嵌める必要もない。

 二割程ミステリー要素を散りばめ、後はコメディ要素しかなかったとしても、ギリギリミステリーであると言えなくもないはずだ。と言うか、言い切ってしまえば良い。


「うむ。私が最初の一人になればいいのですよっ!こんなに格好の良いことはありませんっ!」


 クリスタル・エドワースは貴族社会のこの国にあって、主従関係を逆さにした物語を書いた。ヴェラの知る限り、この国でそんな大胆な構成の物語は聞いたことはない。

 前衛的且つ斬新なこの設定は、その斬新さ故に、一時は一部の図書館で有害図書扱いされていた不遇な時代もあった。だが、現在ではすっかり市民権を得たベストセラーになっているのである。

 何事も最初に一歩を踏み出す者への風当たりは常に厳しい。

 けれど、だからこそ、得られる栄誉と名声がある。

 最後の最後にほくそ笑むことさえできれば御の字。

 諸々、ヴェラの望む所なのであった。





 さらに寒さが厳しくなる明け方近く、居眠りをしては、氷のように冷たくなって痛む指先の痛みで目が覚めて。を繰り返していたヴェラは「これが、俗に言う、寝るなぁ!寝たら死ぬぞぉ!ってやつですね」とついリアル凍死の可能性について考え及んでしまった。


「おぉ……体が動かない……」


 立ち上がろうとしてみると、関節と言う関節が凍り付いたように、思うように動かなかった。全身が、かじかんでしまっているような不思議な感覚だった。


「きっと……きっとっ、こんな体験をしながら、執筆をしているのは私くらいなものですねっ‼うひょーっ!」


 変なスイッチを全開にして、駆け出したヴェラは素足のまま、毛布をまるでマントのようにはためかせ、屋上を駆け回った。

 

「ひょーっ!負けませんよっ!冬将軍それみたことかっ!」


 刺すような寒さも、足の裏に食い込む小石の痛みも、なぜだか、自分が強くなっている証であるように感じられて、痛みとして認識されず、それはいつしか、快感へと変化していった。

 ヴェラはこの時、変な扉を開けてしまったことを知る由もなく、後日、それを嫌と言うほど思い知るのであった。


「うぅ、私は一体何をしているのだろうか……」


 汗ばんだ分、余計に寒くなったヴェラは夜明け前の町並みを見ながら、息を吹き上げてみた。上気する白く色着いた息は、さながら、蒸気機関車の煙のように見えて、少し楽しくなった。

 吸っては大きく吐いてを繰り返していると、頭がぼおっとしてきたので、机に戻ることにした。

 机に戻ってすぐ、出入り口のドアが閉まる音がしたので、振り返ってみると、例のナースが寒さに驚いた表情をしながらそこにいた。


「どうしたんですか?こんなところに?夜明けにはまだ早いですよ」


 ヴェラの元へやってきたナースにヴェラは、さらりとそう言った。


「朝日なんて見に来ませんよ。凍死してるんじゃないかと思って様子を見に来たんです。これ、コーンスープです。よかったどうぞ」


 未だ、夜闇の覆う周りを伺うようにしながら、ナースは机の上に、湯気の立ち上るマグカップを置いた。


「ありがとうございます。今しがた、凍えそうだったので、そこら辺を走ってたんですよ」


 ヴェラは、遠慮なくマグカップを包むようにして両手で持つと、一口二口と熱々のコーンスープを喉に流し込んでいた。


「ふぃ~、生きかえりますぅ。五臓六腑に染みわたりますぅ」


 マグカップから伝わる熱で指先の感覚が鮮明になってゆく。喉を伝って、お腹中に伝わってゆく温もりに、ヴェラは九死に一生を得たような面持だった。


「五臓六腑って、お年寄りみたいなこと言いますね。あの、クリスティさんは作家さんなんですよね?」


 大袈裟な、と言わんばかりの彼女だったが、ヴェラの人心地ついた表情を見ると、呆れてものが言えない様子だった。


「作家と言えば作家ですけど、まだ、新聞小説の連載一本しかない、しがない感じのですけどね」


「新聞小説……それって、もしかしてアミューズブーシュ紙に連載していたりします?」


「へっ、あ、はい。そうですよ。その通りですが?」


「えっ嘘っ⁉〈キューリー夫人の華麗なる食客たち〉のですか⁉」


「「のですか?」も何も、アミューズブーシュ紙にはそれしか連載小説はありません」


「うわぁ、すっごいっ!私、プリシラ・エンデバーって言います。〈キューリー夫人〉毎回、楽しみにしてるんですよっ!私、新聞をとっていなかったので、知らなかったんですけど読書好きの知り合いに薦められて、読んでみてすぐにハマっちゃって!」


 プリシラと言うナースはすでに子供のように目をキラキラさせて、ヴェラの眼前まで顔を寄せて、熱く語りだした。


「(うぅ、顔が近い……)」と思ったもの、どうやら、自分の作品のファンであるらしく、それはそれで、嫌な気はしなかったので、口に出しはしなかった。


「途中から読んだってことですか?」


「えっと、一番最初に読んだのは、ホラ吹き男が夫人の食客になる話でしたっ!てっきり、ペテン師か何かかと思ったら、法螺貝奏者だったなんてっ!良い意味で裏切られましたっ。てっきり、屋敷を追い出すのかと思いきや、目覚まし代わりに法螺貝を演奏させるとか、その発想がなかったです‼でも、そのエピソードで夫人の懐の深さがさり気なく描写されているんですよねっ!」


「ちょ、顔が近いっ、近いです。ホラ吹き男のエピソードでしたら、結構、最近ですよね」


 荒い鼻息が口元に掛るのが気持ち悪くなったので、やっぱり、顔が近いと言うことにした。


「いえ、薦めてくれた知り合いが、第一話からのファンで、全話スクラップにしてファイリングしてて、それを借りて最初から全話、読みましたっ‼知り合いとは早く書籍化しないかなって話をしてるんですよっ」


 紅潮するテンションとは裏腹に、寒さからか、鼻っ面が赤くなっている。

寒さを精神が凌駕しているのだろうか……


「おぉ、まさかの全話読破ですか。それはありがとうございます……作者として、嬉しいのですが、なんだか、お礼を言うのは違和感がありますね」


 ヴェラはそう言って、照れ隠しにコーンスープ多めに口の中へ流し込んだ。

 確かに、担当編集は、紙面連載小説が巷の人気を爆発的に博していると豪語していた。

 だが、ヴェラはそれを信じたりはしなかった。だから、寝不足の目元で適当に受け流していたのだが……

 プリシラのように、自身の小説を絶賛してくれるファンに直接出くわすと、否が応でもその実感が沸いてきてしまって仕方がない。

 今までは、担当編集から評価を股聞きしていただけで、しかも、疑心から真に受けることもしてこなかった。

ファンからの生の声とは、黄色い声援とは、これほどまでに作家の原動力に明日への活力になるものだとは思っても見なかった。


「あの、ヴェラ・クリスティって言うのは本名なんですよね?入院記録にもそう書かれてありましたし。てっきり、ペンネームかと思ってたんですけど」


「えぇ、本名です。いいペンネームが思いつかなかったので、本名にしました」


 ヴェラは嘘をついた。

物心がつく頃から、物語を書いていたヴェラは、いつか小説家になった時の為にと、幾つかペンネームを作っていた。

そして、各コンテストへ応募する際には必ずペンネームで応募していた。

だが、落選続きで、入選の光が一筋も見えないので、いつしか、本名でもペンネームでもどちらでもいいや。と適当に本名で応募したアミューズブーシュ新聞社のコンテストに入選したのである。

 連載にあたって、担当編集からペンネームを聞かれたが、「本名で良いです」と短く答えた。色々理由はあったのだが、昔、自分の夢を馬鹿にした連中へ成功を知らしめる為と未だに理解してくれない母に、それとなく伝える為。この二つが主だった理由だった。


「本名なんですかぁ」


 プリシラは露骨に、がっかりと肩を落とした。

 

「なんですか、本名だと何が悪いんですかっ、理由を聞こうじゃないかっ‼」


 ヴェラは毛布をマントの様に翻し、プリシラの鼻っ面に自分の鼻っ面を密着させた。


「わっ、近いですよクリスティさんっ。違います違います、そんなんじゃありませんっ!ただ、知り合いと、本名かペンネームか予想をしあっていて、私はペンネーム派だったんですよ。ただそれだけです」


「それだけですか。えっと、その、ヴェラでいいです。他の人も名前で呼んでますし」


「本当ですかっ⁉私のことも是非、プリシラって呼んで下さいっ!いやぁ、ヴェラさんが心の広い人で良かったですよぉ。正直、あんなことがあったので、怒ってるかなと思っていましてですね」


 「はははぁ」とプリシラはバツが悪そうに悪戯な笑みを浮かべた。


「あー、あれは確かに気まずいです。スイッチが入っていたものでつい半狂乱で、すみませんでした」


 ヴェラは素直に謝ることにした。御託を並べても良かったのだが、大切なファンを減らしてしまうのは自分で自分の首を絞めるようなものだ。素直に謝るのも、ファンサービスの一環と言うことで……

 うん。人気者は大変だ。

 ヴェラは初めて、頭を下げながらにして優越感に浸ったのだった。





 奇襲は夜明けに。と言うのは兵法で言うところの基礎であるらしい。

 人はどうやら、夜明け頃が一番眠いからなのだそうだ。

 そんなわけがない。ヴェラは異論を唱えていた。朝日の眩しさに眠気なんて逆に吹き飛ぶはずだ。ヴェラはそう信じて疑わない。

 何せ、毎朝、壮大な二度寝をしたいのに、窓から差し込む朝日が眩しくて眠れやしない。

 そんな自身の体験を元に異論を唱え続けてきたヴェラだったが、どうやらその考えを改めなければならないようだ。

 町並みのはるか先、夜空が白々となりゆく山際。

 すでにプリシラは夜勤業務に戻ってしまって屋上にその姿はない。

 ヴェラは寒さのピークを全身で受け止めながら、想像していたよりも長い夜に、いい加減、イライラしていた。

 眠いはずなのに、本能がそれを拒絶している。足先は千切れそうに痛いし、鼻水が止まらない。引き続き、寝たら死ぬやつだ。夜闇の独り、ヴェラは寝ようにも寝むれない状況に、さらに殺気立つのであった。

 人がそれを絶望と呼ぶのであれば、遠き山際に見える朝日は希望の光明に他ならないだろう。

 闇を払うように伸びる光は神々しくも、柔らかく、一度、陽が降り注げば、冷え切った体が優しい温もりに包まれてゆく。

 朝光とは闇に飲まれかけた精神と肉体に対する、庇護なのだろうか……


「ふっ、今なら天使が居ると言われても信じちゃいますね」


 ヴェラは柔らかく降り注ぐ陽の光と温もりに包まれ、顔を机に突っ伏すと、安堵と平穏に誘われるがまま、潔い眠りに落ちたのである。

 今、奇襲を受けたなら、きっと、意識を取り戻さないまま昇天するだろう。


そんな偏屈なことを頭の片隅に浮かべつつ……

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