第54話 魔銃
「来たぞ魔銃の姫だ!」
探索者達が一斉にシールドと防御アイテムを装備する。
「おーおー、カメみたいにちぢこまっちゃって」
彼等の前方、迷宮の通路のど真ん中には、ラズルの使い魔であるジルが仁王立ちしていた。
「スラッシュ陣形突っ込めー!!」
探索者達がシールドを構えた状態で突撃する。
ちなみにスラッシュ陣形とは、メンバー全員が盾を斜めに構えて突進する陣形である。勿論本当にそう言う陣形がある訳ではなく、ダンジョン攻略スレで探索者達がジル対策に考案した架空の陣形だ。
何故盾を斜めにするのか、その答えはジルの攻撃で明らかになる。
「何か小ざかしい事をしているみたいだけど、アタシには通用しないよ!!」
ジルの背中の枝が腰に伸び、ホルスターから何丁もの銃を抜き取って構える。
そう、銃だ。
後方支援用に創造されたジルのメインウエポンは銃であった。
かつてラズルが海外から派遣されてきた工作員から奪い取った銃を研究し、改良量産した物がジルの武装である。
名を【ガンバスター】と言う。
ジルの枝が何丁ものガンバスターを探索者に向け照準を合わせる。
人間ならば目と照準器を使って狙いを定めるが、後方支援型であるジルは魔力や空気の流れ、熱の反射などから感覚的に狙いを定める事が出来る。
「そら今日は店じまいだ」
ガンバスターのトリガーが一斉に引かれ、銃口から弾丸が発射された。
だが弾丸はただの弾丸ではない。
その身に炎、氷、雷、風、結晶などを纏わせた魔法の弾丸だった。
故に魔銃の姫。
銃の常識を破壊するが故のガン・バスター。
遠距離から一方的に魔法の銃で襲ってくるジルを探索者達は恐れた。
圧倒的な火力でなす術もなく倒されてきた探索者達は、ジルに対抗すべく知恵を結集させる。
その成果がスラッシュ陣形であった。
銃弾を正面から受け止めるのではなく、斜めにする事で受け流すのが目的の構えである。
全員が盾を斜めに構え、一発でも多く耐えながらジルへと突撃し、クロスレンジでの戦いに持っていこうという考えだ。
ジルの発射した魔法の弾丸が探索者の構えたシールドに接触する。
そして弾丸はシールドを突き抜け、後ろの探索者の命を軽々と奪った。
「何の役にも立たねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
絶叫しながらフリーフロアに転送されていく探索者達。
ガンバスターは只の銃ではない。その弾丸に込められた魔力は後方支援最強の使い魔ジルの魔力なのだから。
只のウルトラスーパーレアアイテム程度の防御力で止められるはずも無かった。
かくして、探索者一行は迷宮のシンボルモンスターこと、魔銃の姫によって全滅させられたのである。
魔王ラズルが使役する双子の使い魔ジル。
彼女は植物型の使い魔であり、体から生やした枝を自由自在に動かし更には成長させる事が出来る。
しかもあらゆる魔法に精通し、種族特性として植物を自在に操る事も出来た。
圧倒的な魔力と射撃精度と魔銃を以て敵を倒す彼女を、探索者達は魔銃の姫と呼んだ。
◆
「くっそー、魔銃の姫強すぎだろ」
今まさにジルに倒されたばかりの探索者達が、フリーフロアで復活する。
復活アイテムの加護のお陰である。
「何だお前等、魔銃の姫にやられたのかよ」
と、そこにフリーフロアで休憩していた探索者チームがやって来る。
「ああ、攻略スレに出てたスラッシュ陣形やってみたけど全然通じなかったぜ。ウルトラスーパーレアの盾でもダメだった」
「マジか」
一見するとゲームの会話に聞こえるが、それも売店で売っている復活アイテムのお陰であった。
これがあれば何度死んでも生き返る事が出来る。だから死に覚えゲーができると。
故に彼等は勇敢に、無謀に戦いを挑む事が出来る。
ダンジョンの中でだけは。
時折、ワウ達の説明を聞かずにダンジョンの外でも復活アイテムがあれば死なないと思い込んで危険行為をする者が出る。
最も、そういった愚か者達はダンジョンを保護する為にそうした裏を隠して事故として処理するのされるのだが。
「俺達は鱗姫の幸せ殺しで全滅したぜ」
全滅したのに嬉しそうに自慢する探索者。
「マジか。俺達まだ幸せ殺しされてねぇよ」
「そいつはご愁傷様だ。……柔らかいぞ」
「……」
全滅して帰ってきたばかりの探索者達が無言で立ち上がりダンジョンへと向かう。
「復活アイテム忘れるなよー」
これが探索者達の最近の日常であった。
地下40階の双子の姫、ジルとイリアは探索者達にそうも呼ばれていた。
探索者達の前に忽然と現れ、そして圧倒的な戦闘力で探索者達を抹殺してゆく。
その為、探索者達は地下40階より下の階層へ潜る事が出来ないでいた。
探索者達は彼女達こそが地下40階のボスであり、新たなる転移アイテムが解放されたのも彼女達を攻略する為であると判断した。
実際には全く関係ないのであるが。
◆
「ただいまー」
「ただいま」
ジルとイリアがダンジョンコアルームに帰ってくる。
「おかえりー、晩御飯できてるから手を洗ってきてー」
テーブルに夕食を並べていたリリルが2人を労う。
「「はーい」」
一見すると中の良い強大の夕飯時の風景であるが、その実、世界一の魔物育成のエキスパートと世界最強の戦士と魔術師である。
その実力を理解出来る者が居れば冷や汗どころではないだろう。
●
「「「「「頂きまーす」」」」」
ラズルとライナそしてリリル、ジル、イリアの五人が手を合わせて食事を始める。
「どうだジル、イリア、戦いには慣れたか?」
ラズルが学校に入学したばかりの娘に聞くような事を言う。
「うん、ちょーらくしょー。人間が弱すぎて手加減するほうが珍しいし」
とはジルの言だ。
「でもたまに歯ごたえのあるのが混じってる」
イリアが優れた戦士が居る事を告げる。
「でも皆優しく殺せる」
とはいえ、あくまでも人間にしては強いという程度で、イリアにすればちょっとだけ手加減しなくて良い相手という程度でしかなかった。
「上手くやれてるなら何よりだ。けどお前達に戦ってほしい相手はそこら辺の人間なんか足元にも及ばない強さの持ち主だから気をつけてくれよ」
「大魔王ビッグワン様のバカ娘アイーナ様だろ」
「みぞおちにぶち込んで悶絶したところで意識を狩る。そして送り返す」
なにやらイリアが物騒な事を言っている。
「悶絶はともかく、なるべく早く捕獲して追い返したい。可能なら二度と来ない様に。ライナ、その為の手はずは整っているんだよな」
「はい。既に先方との話し合いは終わっております。後はアイーナ様を捕獲すれば全て滞りなく」
ラズルはライナの仕事に満足して頷く。
「オーケー。じゃあ次にあの方がいらしたら丁重にお出迎えしてささっと帰ってもらう。全員の奮闘を期待しているぞ」
「はい」
「はーい!」
「まかせてくれよな!」
「がんばる」
ラズルの言葉に使い魔達は四者四様の返事で応えるのだった。
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