第52話 武神降臨

「新たな使い魔を創造する」


 ラズルはダンジョンコアを操作して使い魔のパラメータ設定を行う。


「今回の使い魔は戦闘用使い魔だ、だから最初に忠誠心を最大限にしてから設定を行う」


 あえて言葉にする事で、戦闘用使い魔の危険性を強く意識する。


「予算は有限だ、ライナ達が稼いでくれた使い魔用の予算を限界まで使って使い魔の性能を上げる」


 ラズルはどのパラメータを上げるか悩む。

 ライナは運営能力の向上、リリルは育成能力の向上というシンプルな仕様が決まっていた。

 だが今回の戦闘用使い魔はパラメータ設定次第で大きく性能が揺らぐ。

 まず最初に考えるのは物理メインか魔法メインか、そして防御力、素早さ、筋力、知性と戦い方によって能力値を上手く配分していく必要があった。

 欲を言えば全てのパラメータがカンストしている使い魔が理想的だが、それには大量の魔貨が必要になる。


(なら、これならどうだ?)


 ラズルはパラメータ設定を終え、必要な魔貨を確認する。


「ふむ」


 しかしラズルは何が気に入らなかったのか、設定をリセットしてもう一度使い魔のパラメータを設定し直す。

 ソレを見たライナは限られた予算で納得のいく使い魔を生み出すのは困難なのかと考える。


(私達がもっと売上げを上げていればご主人様を悩ませる事など無かったと言うのに)


 ライナ達は頑張っていた。

 同期の魔王とは比ぶるべくも無く、それどころか格上の魔王よりも高い売上げを出している位だ。

 魔王になって一年も経っていないにも関わらずライナレベルの使い魔を従えている事がラズルの異常さであり、ライナ達の優秀さの証明でもあった。

 だが、当のライナはそれでも満足ができなかった。

 彼女にとって満足の行く結果とは、主であるラズルが悩む事無く使い魔のパラメータを全てカンストさせる程の売上げを出す事である。

 主を満足させる事が出来ずして何が使い魔か。

 ライナは己の不足を強く恥じた。


「申し訳ありませんラズル様。私達の力が足りないばかりにラズル様の手を煩わせて……」


「ん? 何の事だ?」


 しかし当のラズルはライナの謝罪の意味を全く理解していなかった。


「いえ、ですから、私達が上手く人間達の欲望エネルギーを集める事が出来なかった所為で新しい使い魔の創造に難航されてる事を申し訳なく……」


 そこまで言われて漸くラズルはライナの言葉の意図を理解する。


「ああ、違う違う。別にやり直していたわけじゃないよ。必要な魔貨を計算していただけだ」


「計算……ですか?」


 今度はライナがラズルの意図を汲み取れず首をかしげる。


「計算も出来たし、今から見せるよ」


 そう言ってラズルは使い魔のパラメータ設定を完了させ、使い魔創造を開始する。

 ダンジョンコアが輝き、光の繭が使い魔を構築してゆく。

 そしてその中から現れたのは、緑の髪の少女だった。

 背中から幾本もの枝を生やし、腰には何丁もの拳銃を下げていた。

 植物的な性質を持ったその姿と、腰に下げた鉄の塊が見る者にアンバランスな印象を与える。


「お前の名前は、ジルだ! 戦闘用使い魔ジル!」


 ラズルの名付けに反応し、ジルと呼ばれた使い魔が目を開ける。

 琥珀色の瞳が歓喜に歪む。


「アタシの名前はジル。旦那の敵を皆殺しにする形を持った殺意がアタシ」


 ジルはラズルにニヤリと好戦的な笑みを見せる。


「すぐに戦わせてやるよ。お前の妹を生み出したらな」


「妹?」


 ラズルの言葉にライナが反応する。


「ああ、妹だ。ライナ、お前にとってもな」


 そう言うと、ラズルは再びダンジョンコアを操作し始める。


「さっきの操作は2人の使い魔を創造する為の必要魔貨を調べる為のものだったんだ。一人の使い魔の戦闘能力をカンストさせても、一人である以上出来る事は限られる。だったら、機能を分割して生み出せば二倍働けるとね」


「使い魔を2人!?」


 予想もしていなかった答えにライナは驚きを隠せないで居た。


「そう、一人に全ての能力を与えるのはコストが掛かりすぎる。だから遠距離先等専門の使い魔と接近戦等専門の使い魔に分ける事で必要な能力を絞り込もうと考えたのさ」


 ラズルはダンジョンコアの操作を完了させて再び使い魔の創造を行う。

 ダンジョンコアの上に光の繭が生まれ、再度使い魔構築の為の魔力が流し込まれる。


「これがアタシの妹」


「もう一人の戦闘用使い魔」


 新たなる使い魔の創造に立ち会ったジルとライナが光の膜を前に呟く。


「そうだ、これが接近戦用使い魔、名前はイリアだ」


 光の膜の中から赤い髪の少女が現れる。

 全身の要所が鎧のような鱗で覆われ、頭部には冠のような角が映えている。

 腰の後ろからは太く長い尻尾も生えており、足の爪はまるで恐竜のようであった。


「さぁ目を覚ませイリア」


 イリアと呼ばれた使い魔が目を開く。

 まぶたの奥に隠れていたルビー色の瞳が光を帯びた。


「お早うございますマスター。イリアはマスターの為に侵入者を殲滅します」


 遂に、ラズルを守る双子の武神がダンジョンに降臨した。

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