第51話 対抗キャンペーン

「参ったなぁ」


 村田は困惑していた。

 否、村田だけではない。村田の部下達、そして愛菜ことアイーナもであった。


 ここはダンジョン地下37階。

 中層の半分を超えた階層である。

 普段ならこの辺りにいる冒険者は攻略狙いのガチ廃課金チームか、村田達の様な目立ってはいけない戦いをする者達くらいであった。

 だが今は……


「植物モンスター来たぞ!! 火属性装備だ!」


「スーパースライムが来たぞ! 魔法の杖全属性出して効く属性を洗い出せ!!」


 そこかしこにこれまでは中層の入口辺りでまごついていた探索者達の姿があった。


「一体なんで急に探索者達がこんな深い階層にまで大挙できる様になったんだ?」


「途中まではいつも通り対して人がおらんかったのに、何で一番深い所にこんだけ人がおるんだ!?」


 大田の言う最深部とは、現状探索者達が到達した中で一番深い階層という意味である。


「隊長、これじゃウィザードは使えませんよ。一旦戻るべきです」


 志野原の言うとおりであった。

 元々村田達の装備は試作品の武装であり、表に出してよいモノではない。

 コレまでは滅多に他の冒険者と遭遇する事は無かったから身を隠してやり過ごせたが、こうまで探索者の数が増えては隠し通すのには無理があった。


「しょうがない。今日のところは引き返すか」


(色々な事が短期間で起きている。コレは俺達のしらない所で誰かが動いてるな)


 撤退しなけれないけないこの状況を村田は好都合と受け取っていた。


 ◆


「対象、撤退していきます」


 ライナが村田達が撤退していく様子を報告しながらモニターの監視を続ける。


「よしよし、上手く行ったな」


 ラズルは満足そうに笑みを浮かべる。


「ですが宜しかったのですか? あのアイテムを表に出した事で、一般の探索者によるダンジョン攻略のスピードが早まってしまうかと」


 ライナは心配そうな様子でラズルに進言する。


「まぁ仕方ないさ。それに、探索が停滞してきたらいつか出すつもりだったんだしな」


 ラズルはモニターの向こうのフリーフロアを見ながらライナを宥めた。


 ◆


「最新アイテム解禁だワン!!」


 ワウ達3人娘がカードを天にかざしながら宣伝をしている。


「新アイテム、フロアジャンパーは使用した探索者さんが潜った中で一番深い階層まで一気にワープできるアイテムニャ」


「しかも手を繋いでいれば仲間も一緒に運べるウサ!」


「でも使い捨てだから使う際は注意して欲しいワン」


 新アイテム発売によって早速売店に探索者達が列を成す。

 今回の解禁されたアイテムによって、探索者達の探索スピードは劇的に上がった。

 コレまでは毎回1階から潜り直しだったが、このアイテムが使用可能になった事で使い捨てアイテムの消費率が大幅に下がり、更に時間的都合で深い階層へはいけなかった探索者達も下層探索が可能になった。


 消耗品の売上げは一時的に下がったが、時間的制限のあった探索者達が参加可能になった事で、少しずつ売り上げが戻ってきていた。

 それだけでは無い。

 モンスターは下層になればなるほど強くなる。

 故に、それに併せてポーション等の回復アイテムも上位ポーションの類を売店で販売し、下層探索者相手に売る事で売上げを増やしていた。


 更に別の需要を狙ってもう1つの目玉が解禁される。


「ダンジョン内の宝箱ガチャに最新アイテムが追加されたニャ。アイテムの名前はミラクルドクター、病気を治してくれるレアポーションニャ!」


 意外なアイテムの登場に探索者達がどよめく。

 ダンジョン攻略アイテムではなく、モンスターの特殊攻撃を治療するアイテムですらない薬をガチャに入れる必然性が見えなかったからだ。

 だが、それに食いつく者は確かに居た。


「それって、どんな病気も治るんですか!?」


 年若い少年がニャウの下に詰め寄る。


「ニャ、ミラクルドクターは3種類あって、それぞれで治せる病気の難易度が変わるニャ」


「じゃ、じゃあ一番良いアイテムなら……」


 少年が震えながらニャウに問いかける。


「死以外なら大抵の病気が治るニャ」


「っ!?」


 少年の動きが止まる。

 その顔は歓喜と戸惑いのどちらともいえない表情であった。


「それがあれば母さんの病気も……」


 少年は弾かれるようにダンジョンへと駆け出した。

 この少年こそはかつてバレンタインイベントで雷神の剣をトレードで手に入れた少年である。

 彼の目的は、現代医学では治せない不治の病に苦しむ母を救う事であった。

 彼は母が入院する病院で、医師達がどんな毒でも治療する奇跡の毒消しについて話しているのを聞き、更にダンジョンのモンスターが新たな薬の材料になるかもしれないという情報をネットで得た事で、探索者としてモンスター狩りを行う事を決意したのだ。

 それゆえに、ミラクルドクターの話は少年にとって喉から手が出るほど待ち焦がれた情報であった。

 


 ◆


「よーしよし、新しい探索者が増えてきたぞ」


 ラズルはダンジョンコアを見ながら新規探索者達の魔力波長リストを眺める。

 今回新しく薬をガチャに入れたのは、ダンジョンに興味のない層を顧客として取り込む為だ。

 以前大ヒットしたホムンクルスは一定の需要を満たした為に売上げの伸びが悪くなった。

 そこで今回は薬をエサに難病に苦しむ人間の家族を呼び寄せた訳である。


「薬は誰にとっても金になるアイテムだからな。単純に求めている人間以外にも需要はある。これで売上げを取り戻しつつ、アイーナ様が暗躍しづらい状況を作る事で侵攻速度を抑える。その間に、金を貯めて次の策を用意するぞ」


 ラズルはダンジョンコアの画面を見つめる。


「アイーナ様の件でホムンクルスを大魔王城に向かわせたが、言伝は直接本人に見せない事には効果を発揮しないんだよなぁ。そのくせ単独でダンジョンの近くには来ないから待ち伏せて元の世界に追い返す事もできない。となればアイーナ様を捕縛できる戦力を育てて力ずくでお引取り願うしかない」


 アイーナはラズルと遭遇しない為に、言伝を見ていないと言い張る為にあえてラズルに会おうとはしなかった。

 その癖ダンジョン攻略をしようとするのだから酷い矛盾であるが、アイーナからすれば、ラズルを本気にさせる為にわざとこの世界の人間達の攻略を手伝っているので何らおかしい事では無い。本人的には。


「予定よりかなり早まるが、その為の戦力を生み出さないとな」


 ダンジョンコアの画面が操作され、使い魔作成の項目が映し出された。


「次は、闘う為の使い魔を創造する」

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