第48話 謎の女(笑)襲来

「売上げが下がっていますね」


 今月分の帳簿を記載していたライナがポツリと呟いた。


「ん? ガチャの売上げはゴールデンウィークのお陰で先月より増えてるだろ?」


 ライナの完成させた書類を確認しながらラズルが声をかける。


「いえ、ガチャではなく輸出です。向こうの世界に輸出している地球製の商品の売上げが下がっているのです」


「売上げが下がる事は普通にあるだろ。常に上がり調子なのは最初にウケた時だけだ。大事なのはそれ以上売上げが下がらないようにする事だろ」


 ラズルの言う通り、常に売上げが上がり続ける商品は存在しない。

 どんな必需品であろうとも需要の波があるからだ。


「いえ、そう言う下がり方ではないのです。突然、ガクンと売上げが落ちました」


「ガクンと?」


 ラズルはライナの差し出した売上げ表を受け取り、先月分の売上げと比較する。


「確かに、ある日突然下がってずっとそのままの売上げだな」


 今までに無い急激な下降を不審に思うラズル。


「それだけではありません。ダンジョンから地上に輸出している食用モンスターの買取も減っています」


「こちらの世界の売上げもか!?」

 

 両方の世界の売上げが下がっていると聞き、流石にこれをただの偶然とは言い切れなくなったラズルは此処数ヶ月の売上げを確認する。


「始めに異世界へ輸出した商品の買い取りが突然激減しました。そしてその数日後、こんどはこちらの世界での売上げが激減しました。異世界で買い控えが発生するような天災、人災、戦争等は今の所確認しておりません。当ダンジョンから輸出している品のみの売上げが激減しています。まるで周囲が晴天の中、自分達の上だけが雨雲である様な状況です」


「一体何が理由なんだ?」


「情報が少ない為現状では何とも……」


(もしや大魔王様の後継者の座を狙う他の魔王のしわざか)


 ◆


 ここは秋葉原にかる特科迷宮中隊の会議室。

 そこには、村田達が集まり、ダンジョン攻略の会議を行っていた。


「と言う訳で、ダンジョン攻略を行うには第一にポーションなんかが使えないのがネックだと俺は思う」


「ダンジョン産のアイテムが使えないのも大きい」


「魔法は青明君達が何とかしてくれるが、その間俺達が何もできないってのは不味いよな」


「「「……」」」


 話せば話すほど攻略が無理ゲーである事に陰鬱な気分となる3人。


「隊長、やっぱ無理ですよ。前回の麻酔ガスと催涙ガスは効果がありましたが、あれが効いても下層の敵には銃では装甲を貫通しないヤツが居ます」


「それにスライム以外にも物理攻撃が効かないモンスターが増えています。普通の銃じゃどうしようもないですよ」


「……」


 2人しか正式な部下が居ない村田が溜息を吐く。

 と、そこに事態を打開する乱入者が現れた。


「議論が盛り上がっている様だな」


「っ!? 貴方は小台議員!?」


 そう、現れたのは、ダンジョンの権利を諸外国から守るべく暗躍する男達の一角、小台だった。

 小台の後ろには秘書なのか、黒髪の美女が控えていた。


「小台議員ってあの小台議員かな?」


「それ以外に誰だというんだ。テレビで散々出ておるだろうが!」


 村田の背後で志野原達が本物の小台なのかと小声で話し合う。


「何故貴方が此処に?」


 しかし村田だけは、彼が本物であるという前提で会話をしていた。


「君達からの報告は私も読んでいる。制限され限られた機材で君達は良く頑張っているよ」


 小台は三人を労う。


「恐縮です」


 村田はソレを粛々と受け取った。

 後ろでは議員からお褒めの言葉を頂いた事で、大田が出世のチャンスかと喜んでいた。


「でだ、諸君等の私もダンジョン探索に協力しようと思ってね、専門家をお呼びしたのだよ」


「専門家?」


「挨拶をしたまえ」


 小台が促すと、後ろに控えていた美女が前に出る。


「ダンジョン研究家の愛菜と申します」


「「「ダンジョン研究家?」」」


 村田達は胡散臭いものを見る目で愛菜と名乗った女性を見た。

 このご時勢自称研究家や専門家は山程出てくる。

 大抵は何の役にも立たないにわか知識を疲労するだけのゴミみたいな連中というのが彼等の認識だ。

 であるが故に、彼等の愛菜に対する第一印象は非常によろしくなかった。


「小台議員、申し訳ありませんが……」


 どうやって議員である太田を説得するかと村田が困惑していると、愛菜が胸元の高さまで手を上げ呟く。


「ファイヤースフィア」


 不思議と力強い声と共に、愛菜の手のひらにサッカーボール大の炎の塊が出現した。


「「「っ!?」」」


 それは魔法であった。

 術を使用する為には符を必要とする青明とは違い、愛菜は何も無い手のひらの上に炎の塊を出現させたのだ。


「愛菜君は本物の魔法使いでな、ダンジョン研究と言うのも実地でダンジョンを研究する事を指している。本物のダンジョン攻略をするにはうってつけの人材だろう?」


 小台が楽しそうに笑う。

 その笑い声に合わせるように、愛菜は村田の前に出て手を差し出す。


「村田さん、共に魔王ラズルの居る最下層まで行きましょう」


 その笑顔は、とても胡散臭かった。


 ◆


(ふふふ、これで準備は整った)


 謎の美女、愛菜はほくそ笑む。

 魔王ラズルのダンジョンを攻略する為に。


(私が彼のダンジョンを攻略していけば、彼は自分一人では大魔王の後継者になるのは無理だと理解する事でしょう。そう、【私が】必要であると理解する事でしょう!!)


 割と正体バレバレの謎の女がラズルを襲う。


 

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