第40話 近づく者達

 大魔王ビッグワンの挨拶が終わると、魔王同士の交流が始まった。

 新しく魔王になった者達は、実力のある魔王に挨拶しようと前方のテーブルに向かうが、その前には既に他の中位魔王や下位魔王達の行列が出来ていた。

 しかし、だからと言って新参の魔王が上位魔王に挨拶せずにいる事は失礼な行為にあたる。

 どこの世でも通すべきスジと言うものがあった。


 だが何故か同じ新人魔王であるラズルは動かない。

 否、動けないでいた。

 彼は同じ銀のテーブルに座っていた魔王達に囲まれていたからだ。


「貴方、リオレオン様とどういう関係なのかしら?」


「ああ、僕もそのあたり詳しく教えて欲しいねぇ」


(なかなかテーブルに座らなかったのは、こういう事か)


「俺の事よりも、皆さんはあちらの方々に挨拶しなくて宜しいんですか?」


 ラズルは目の動きで上位魔王達の方を差す。


「ああ、我々は以前挨拶しているからね」


「新しい魔王でも既に顔合わせした事のある魔王に挨拶をする必要は無いわ。あそこで必死になって並んでいるのは、そうした伝手の無い三流魔王か、ご近所の強者へのご機嫌取りの為よ」


(ああ、そういう事か。道理で一部の魔王達は先輩方の所に行かず俺や他の魔王との会話を優先している訳だ)


「寧ろ、君の方こそ良いのかい? 上位魔王達は後から来る礼儀知らずには厳しいよ。彼等に睨まれると、色々と面倒だと僕は思うがね」


 魔王の一人が、ラズルに心配そうに話しかけてくる。


(だったら挨拶に行かせろよな)


 心の中で毒づくラズル。


「いえ、あちらの方々とは以前お会いした事がありますので」


「そうなのか。成程、道理で泰然としている訳だ」 


(やはりな。リオレオン様の関係者なら他の上位魔王とも面識があるとは思ったが、本当にその通りとは)


(つまり、この子と仲良くしておけばリオレオン様を始めとした上位魔王とお近づきになれるチャンスって訳ね)


 ラズルの周囲に集まった魔王達は、ラズルと交流を持つ事で得られる利益を試算していた。


(やれやれ、面倒くさいなぁ。)


 しかし当のラズルとしては、このまま壁の花で居たかったというのが本音であった。


(稼ぐだけ稼いで人生を楽に生きたかったんだがなぁ)


 ラズルの根本はそこにあった。

 後で楽をする為に、今だけ頑張ってずっと楽できる体制を整える。

 例えば店を建てた後、店長と店員を雇って必要な教育をし、後は店長達に全て任せて上納金だけで楽々暮らしてゆきたい。

 それがラズルの理想の人生であった。

 魔王になったのもソレが理由である。

 だが現状はそうもいかず、ラズルの人脈を狙って中堅魔王達が群がっていた。


 そしてソレを見てニヤニヤと楽しむ男が此処に。


(くはは、やはり囲まれたか。あやつめは自分の価値を理解しておらん。だからああやって羽虫共が群がってくるのだ)


 見ていたのは、ラズルのかつての上司、魔王リオレオンである。

 彼はどうでも良い魔王からの挨拶を適当にあしらいながらラズルが困惑している様を楽しんでいた。


「楽しそうだな」


 リオレオンに誰かが話しかける。

 リオレオンに挨拶をしていた魔王はアピールの邪魔をされた事に腹を立て、礼儀知らずな乱入者を怒鳴りつけようとした。

 が、その相手が誰なのかを知り一瞬で顔を青くする。


 リオレオンに話しかけたのは鳥の頭と翼を持った男であった。

 鳳王ファルコニアス、東の魔王リオレオンのライバルと言われる空の魔王である。

 何人もたどり着けぬ天空の頂きより地を這う愚者を抹殺する触れ得ざる者。

 敵にしてはいけない魔王トップ3の一人である。


「ファルコか。いやな、ラズルのヤツが雑魚共にたかられおるのが面白くてな」


 リオレオンが指を指した先には中堅魔王達に囲まれ質問攻めにあうラズルの姿があった。


「ああ、お前のお気に入りだったか。なんだ、結局逃げられたのか」


 ホーホーと意地悪げな笑い声を上げるファルコニアス。


「逃げられたのでは無い。男の夢を応援しただけだ」


「ははは、そうかそうか」


「本当だぞ」


 軽く流すファルコニアスの対応に、まるで負け惜しみを言ってしまったかの様な気分になり機嫌を損ねるリオレオン。


「そう拗ねるな。アレはいつ魔王になったのだ?」


「む、そうだな。確か去年の夏の少し前辺りだったかな? その頃に魔貨が溜まったから魔王になるといっていた。」


「となると、まだ一年経っていないか。それで銀のテーブルなら大したものだ」


 ファルコニアスは素直にラズルを褒める。


「であろう」


 対してリオレオンが嬉しそうに手にしていた杯をあおった。

 彼が水の様にあおった酒は一本あたり魔貨10枚はするであろう高級酒だったのだが、豪快なリオレオンはそんな事を気にしない。

 精々何時もより美味い酒だなと思うくらいだ。


「そろそろ、報告の時間だな」


「うむ、これでラズルがどれだけ稼いだか分かるな」


 リオレオンの言葉を継ぐように、司会が壇上へと現れる、


「それでは、今年度の皆様方の売上げ発表を行います!」


 ◆


 司会が売上げ報告について話し始めると、魔王達も自分のテーブルへと戻っていく。

 魔王会は親睦会であると同時に報告会でもある。

 その為司会が話している時は席に座って大人しく聞くのが暗黙のルールであった。

 そして、それは同時にこの時点で上位魔王に挨拶できなかった魔王は次回以降に挨拶するしかないという事でもあった。


「まずは累計売上の報告です。第1位はやはりお強い、魔王リオレオン様です。リオレオン様のダンジョンは、ご自身の強さとモンスターの強さ、そして欲望エネルギーの収集率が非常に高次元で纏められておりました」


 司会は紹介する魔王の売上げと詳細な成績について紹介していく。

 そして5位までの魔王を説明した後は、新人魔王に対する説明を兼ねてテーブルの色がランキングのどの辺りにいるのかを説明していく。

 それによって、ラズルは自分が丁度中堅レベルに居る事を理解する。


(俺で中堅か。そうなると上位魔王はどれだけ稼いでいるのやら)


「ではここで、今期の収益の中で最も稼いだ魔王様の上位5名を報告させて頂きます」


 てっきりコレで終わりだと思っていたラズルは、まだ報告が続くと聞いて身を正す。


(ああ、そうか。最初のは累計って言ってたもんな。これから純粋な今期の稼ぎの話になるのか)


「今期の第1位はなんと2位の3倍以上の差をつけて文句なしの1位に輝きました!!!」


 魔王達にどよめきが走る。


(おおー、凄いヤツも居たもんだ)


「栄えある今期1位の魔王の名は……」


 会場がシンと静まり返る。


「魔王ラズル様です! 2位の魔王ウオウオー様の魔貨7217枚を超えた22151枚がラズル様の売上げとなります」


「え?」


 まさかの自分の名前に驚くラズルであった。

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