第39話 偉大なる王

「いやー、随分と儲けているみたいじゃあないか」


 ガハハハとやたらデカい声で獅子頭の大男、魔王リオレオンは笑った。


「は、は、まぁそれなりに」


 ラズルはと言うと、リオレオンに肩を組まれた状態で会場まで強制連行されていた。


(めっちゃうるせぇぇぇぇ! 只でさえ声が大きいのに至近距離とか拷問か)


 ため息を吐きながらリオレオンの相手をするラズルの様子を、周囲の魔王達が遠巻きに見ていた。


「リオレオン様とあんなに親しげに。一体何者だ?」


「見ない顔だな。新人魔王か」


 魔王リオレオン、魔王の中でもトップ4に入る実力者でいわゆる魔王四天王の一角、東のリオレオン、獅子のリオレオン、豪快のリオレオンと様々な呼び名を持つ男である。

 そして、ラズルのかつてのバイト先の社長でもあった。


「いやー、お前にはウチの幹部になってほしかったんだがなぁ。だが魔王たる者、頂点を目指す者を引きとめる様な野暮は無粋。事実お前は八面六臂の大活躍をしているそうでは無いか」


 リオレオンの口から幹部候補だったという発言が飛び出した事で、周囲の魔王達が更にどよめく。


(うわー。面倒な事になってきたなぁ。あんまり目立つと商売敵から妨害されるってのにさ)


「どうだ? 魔王会が終わったら久しぶりに一杯飲みにいかんか?」


「かの魔王と杯を酌み交すほどの仲とは」


「あの男、警戒したほうが良さそうだな」


 しかし魔王達はラズルの願いに反して警戒の色を強めていく。


『お集まりの皆さん。コレより第666回魔王会を開催致します』


 司会役の魔族が拡声ロッドで広い会場内に声を届ける。


「おっと、もう始まるか。ではまた後でな」


 リオレオンは名残惜しそうにラズルから離れると、会場の前の方へと移動していった。


(助かった。確か有力な魔王は前の方の席に座るんだっけ。席は戦力と欲望エネルギーの回収率を考慮して決めるってリオレオン様が言っていたっけか)


『それでは皆様、受付で渡されたネームプレートの色をご確認下さい』


 司会の言葉に従って全員がネームプレートを確認する。

 ラズルのプレートは銀色であった。


『ネームプレートのフチに色がついていますね。この色と同じ旗の立てられたテーブルが皆さんの座る席になります。テーブルの椅子は自由席ですので、皆さんお好きな席にお座り下さい』


 会場の魔王達が各々動き出す。

 ラズルも自分のプレートと同じ色の席に向かって歩いていく。


「あれ?」


 しかし不思議な事に、銀の旗のテーブルには誰も座っていなかった。

 何かあるのかとラズルは周囲を見回すが、他のテーブルは皆ドンドン座っていく。


(どういう事だ? 何か俺の知らないルールでもあるのか?)


 リオレオンが何か知っていないか聞くべきかと思ったラズルはリオレオンの居るテーブルに視線を送る。

 だが当のリオレオンは面白そうにこちらを眺めている。

 それどころか、視界に入る魔王達は全員が銀のテーブルを見つめているではないか。


(他のテーブルは殆ど座った。司会は自由席だといった。となればここはもう覚悟を決めるしかないか)


 ラズルが手近な席に向かうと、ほぼ同時に魔王達が動き出す。


(何!?)


 そして、ラズルの着席と共にほぼ全員が席に座った。


「ちっ」


 数人の魔王が舌打ちしてラズルから離れた席に座りに行く。


(何だったんだ?)


『それでは皆さん席が決まりました様ですので、魔王会の進行を再開させて頂きます』


 司会は何事も無かったかのようにスケジュールを進行していく。


『では始めに、大魔王ビッグワン様のお言葉を賜ります』


(早っ!?)


 イキナリトップの挨拶から始まると聞いて驚く魔王達。

 だが驚いているのは後方の魔王ばかりであり、前方の魔王達からは特に驚きの声は上がらなかった。


 司会が壇上から降りると、荘厳な音楽が鳴り始め、壇上に光が舞い踊る。

 そして上空からゆっくりと白い影が降りてきた。


「「「「「え?」」」」」


 正しくは、白い影ではなく、白いシーツであった。白いシーツを上から被り、胴体の真ん中には真っ赤な色で1と書かれている。

シーツは角や腕を包む為のカバーが縫い付けられており一応は人型に見えなくも無かった。


(ちょっと上等なゴーストの真似をする子供かよ)


 だが誰もソレを口にしない。

 口に出来よう筈も無い。


『諸君』


 凄まじいプレッシャーであった。

 そのふざけた外見で弛緩した心に、巨大な鈍器のようなプレッシャーが魔王達に襲いかかる。


「はうっ」


「あばっ」


「ぐはっ」


 プレッシャーの直撃を受けた後方の魔王達が次々に倒れていく。


(プレッシャーだけでコレかよ)


 だが中列より前の魔王は事前に知っていたのだろう。誰一人として大魔王のプレッシャーで意識を失う者は居なかった。


『余が大魔王ビッグワンである』


 ビリビリとしたプレッシャーが全身に突き刺さる。


(あのふざけた格好は資格の無い未熟者を切り捨てる為のブラフか)


『ところで今日の衣装はどうであるかな? 普段皆が余を怖いと言う故、今日はフランクな衣装にしてみたのだが』


(気遣い上手かよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)


 思わず突っ込みそうになったラズルであったが、何とかソレを押し留める事に成功する。

 眼球だけ動かして周囲を見れば、同席に座った数人の魔王も似たような事を考えていたのか、微妙な表情をしていた。


『余は面倒と校長の長話は好かぬ。今日の魔王会では存分に飲み、喰らい、互いの魔王論を語り合うが良い。以上である!』


 それだけ言うと大魔王ビッグワンは宙に浮き上がり、荘厳なBGMと共に天井へと消えていった。


(凄いのか凄くないのか良く分からんかった)

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