第25話 攻略班
地下29階を鎧に包まれた集団が進む。
「待った、罠だ」
比較的軽装な一人が足元を照らし、床に触れる。
「床板の一部が動く。マジックでバツ印を打った場所だけを歩け」
「分かった」
慎重に軽装の男が床を調べていく。
「よし、床の罠はここまでだ。来てくれ」
全員が軽装の男が指示した場所だけを踏んで罠を超えていく。
「大分罠が増えてきたな」
「下層に近づいているって事だろ。さ、行くぞ」
探索者達が探索再開の第一歩を踏み出したその時、
「っ!?」
彼等は全滅した。
◆
「全滅残念でしたワン」
次の瞬間、彼等はフリーフロアに居た。
「……くそ、やられたのか」
「罠を抜けて気を抜いた所で次の罠かよ」
そう、彼等は床板トラップを抜けた直後、別のトラップにかかって死んだのだ。
そして事前に購入しておいた復活アイテムによってフリーフロアで蘇生を果たしたという訳である。
「罠はお前の担当だろ!? 何手を抜いてんだよ!」
探索者の一人がスカウト役の探索者を責める。
「俺の所為かよ! 勝手に進んだのはお前だろ!」
責任を追及されスカウト役が激昂する。
「お前が罠は無いって言ったからだろうが!」
「床板の罠が終わったんだよ! その先まではまだ調べてなかっただろうが! 見ただけで何でも分かるならスカウトなんていらねぇだろうが!」
「じゃあお前はいらねぇな! 罠を見抜けないスカウトなんて居るだけスペースの邪魔だ!」
「んだとテメェ!?」
「ああ! やんのかコラ!?」
「やめないか!」
一触即発の雰囲気の2人を、純白のプレートメイルの男が止める。
「けどよう、最近罠に掛かる頻度多くね?」
「お前も下層の罠を発見するのが困難なのは分かっている筈だ」
「そうだね、もともと現実世界にトラップを見破るスカウトなんて居ない訳だし」
仲間の一人もスカウト役の擁護に回る。
「まぁ今日は此処までだ。ファミレスで攻略板でも見ながら作戦会議といこうじゃないか」
「ちっ、分かったよ」
彼等は攻略班と呼ばれる探索者である。
ダンジョンの最速攻略を狙い、効率的な装備を選んでひたすら下層へと潜っていた。
だが彼等の攻略ペースがここ最近落ちているのだ。
答えは簡単。先ほどの会話にもあったように、トラップが原因だった。
元々ダンジョンなど存在しない現代日本において、トラップ解除役という仕事自体が存在していなかったのだ。
フィクションの世界ならば忍者や特殊工作員が罠を外すが、あくまでも彼等は一般人であった。
表向きは。
(言えないよなぁ、実は俺が忍者の子孫で本当はトラップ解除なんてお手の物だってさ)
(言えんなぁ、実は俺の家系は代々続く退魔師の家系で魔物を調伏するのが使命だなんて)
(言えないよね、実は僕は古代より脈々と続く古流暗殺剣の使い手なんてさぁ)
彼等は皆、家庭の事情などで己の素性を隠さざるを得ないその道の達人であった。
彼等が己の素性を明かし、真の力を発揮できるようになるのは、まだまだ先の事になる。
◆
「ダンジョンのトラップで詰まる探索者が増えて来ましたね」
ダンジョンコアルームではラズルとライナが探索者達の様子を伺っていた。
「酷い探索者になるとホムンクルスに長い棒を持たせてトラップを発動させてから奥へ進む探索者も出ています」
同じ人工的に生み出された存在が無体な扱いを受けていると、ライナは口にこそ出さないものの不機嫌さだけは隠しきれないでいた。
「戦闘以外の理由で探索が滞りすぎると探索者の攻略意欲を下げかねないな」
ラズルはライナの頭を優しく撫でながら対策を練る。
「……事実、攻略情報が出揃うまではシーダンジョンで水属性アイテム漁りに精を出す冒険者も増えています。あと1階の安全地帯で海水浴を満喫するカップルも多いですね」
「ふむ、対策を練らないとな。トラップ教室でも開くか、トラップを無効化するアイテムでも配布するかだな」
「アイテムですね」
即座にライナが答える。
「ガチャを回す可能性は1回でも増やしたいです。そして罠を外すアイテムはランクを分けましょう。上位アイテムほど罠を無効化する確率が高くなるように」
活き活きとした表情でライナは準備をはじめた。
◆
「新アイテムの配布が始まったニャ!」
新アイテムの配布と聞いて探索者達が3人娘の周りにやって来る。
「今回はダンジョン攻略に便利なアイテムをお届けするワン。確率でトラップを無効にするトラップリセッター、使うと一瞬でフリーフロアまで戻れるリターンプレート、モンスターを引き寄せるモンスターホイホイの三つだワン!」
「これでダンジョン探索が楽になるウサ!」
「トラップ対策アイテムか。シングルの俺にはありがたいな」
探索者達が新アイテムの効果について話し合う。
「遂に帰還アイテムが入荷されたか。コレは捗る」
「あとは一度行った階層に自由に移動できるアイテムがあればな」
「帰還アイテムが入ったんだし、暫くすれば出るんじゃないか?」
「まずは引いてみないとな! 10連ガチャ2回!」
「はい、8000円ワン!」
早速列を作ってガチャを回し始める探索者達であった。
◆
「おっと、ホムンクルスをトラップ解除役にしていた探索者の時だけうっかりガチャ確率を変更させてしまいました。すぐに元に戻さないと」
棒読みでガチャ確率を操作するライナに対し、ラズルはそっと何も見なかった事にした。
(でも運営役としてケジメをつける為におやつは抜きな)
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